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ひと月が過ぎ、桜の舞い散る季節になった。
同居を始めて一年。この記念すべき時に、俺たちはまたすれ違いの日々を続けていた。
すれ違いというより完全に避けられている。俺たちの家に戻って来ないことも多く、戻って来ても二人の部屋には入ってこない。ゲストルームで寝起きしているようだ。
いつ入って来ても良いように、内鍵は開けてあるというのに。
パコンッと頭の天辺で小気味良い音と痛みを感じた。
またしても桜宮モデルエージェンシーのテーブルに、ぺしょっと突っ伏している俺の頭を叩いたのは夏生だった。ご丁寧にポスターを筒状にしたもので。
「酷いな、お前」
「はい。ひどいです」
だんだん落ち込みが激しくなっていく俺に、どうしたのかと問い質され、掻い摘まんで話した。もちろん、ナニをしたとかは事細かに話してはいない。『カイトが隣の部屋にいて、嫌がる詩雨さんに無理矢理コトに及んだ』程度に収めた。
「なんで僕が、従弟と親友の赤裸々性生活の話を聞かなきゃいけないんだ」
「や、夏生が話せって」
「え? なに?」
優しげな顔立ちだが、これが静かに怒ると意外と怖い。
「すみません」
「――お前たち時々そうやって気まずくなることあるよね。あの同居前の時は、お互い気持ちをなかなか伝えられずすれ違っていたけど、今回は一方的にハルが悪いよ」
「――です」
俺は更に身を縮こまらせた。
「そんなことしてると、ほんとに詩雨が離れて行くよ。誰かに攫われるかも。詩雨のこと狙ってるのカイト・ウェーバーだけじゃないからな」
「え」
「そういう人間いるの、わかるだろ?」
「あ、うん」
勿論それは知っている。
でも詩雨さんはそういう人間の邪な意図や誘いにまったく気づかない人だ。そして、俺の存在になんとなく察するものがあるのか、そういう誘いも最近は減ってきていた。
しかし。
今の夏生の意味深な表情はなんだ。
何故だか一瞬、もの凄く嫌な予感がした――。
* *
『engagement――約束――』
完成披露試写会。
上映を終え、サクラホールの大ホールは拍手の渦に包まれていた。
俺を含めた役者陣が、舞台挨拶の為壇上に立った。
もちろん、あいつ――カイト・ウェーバーも再来日してここいる。二か月振りに会ったあいつは、初対面の時の爽やかさはどこへやら、俺にだけ敵意剥き出しの目差しを送ってくる。
特に撮影衣装を着るという指定はなかったし、なんなら他の役者は皆普通に豪華なフォーマルを着ている。
俺だけが例の軍服だ。
これには、理由がある。
一世一代の大勝負に出る為だ。
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