白銀(ぎん)のたてがみ

さくら乃

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 ★ ★


 彼は自分が、寝台で眠っていたことを知った。
 身体を起こし、傍らの窓越しに見上げると、太陽は既に随分高いところまで昇っていた。

 昨日は寝台のなかにいても全く眠れず、こっそりと家を出た。森を抜け、谷に入り、そして──。
 

 白銀ぎんの美しい獣に出会った……。
 でも……あれは……夢だったんだろうか。
 その後の記憶が全くない。
 本当はすぐに眠ってしまったのかも……。


 考えてみても、はっきりと思い出せなかった。

「イオ……」 
 ふと現実に戻る。

 どうしたんだろう。
 こんな時間まで起こしに来ないなんて。


 もぞもぞと寝台から降りた。
 木の扉に耳を当てそっと様子を伺う。窓の外からの鳥の声以外は、なんの音も聞こえなかった。
 

 いない……?


 思いきって扉を開けると、やはりそこには誰もいなかった。
 釜戸にスープの鍋はかかっていたが、火は消えていた。
 水場には一人分の食器が洗って置いてある。イオが使ったのだろう。


 谷にでもいったのかな……。
  

 から数日が経ち、今までと同じようで違う日常を送っていた。何処かふたりの間に距離があるような。


 や……。ボクだけかも……。
 イオは何も変わらない。


 トールは深いため息をつくと、食卓の椅子に腰をかけた。
 

★ ★ 


 ぼんやりと食卓に頬杖をついたまま、気づけば、部屋のなかは薄暗かった。
 卓上のランプに火を灯し、自分の周辺だけを明るくする。他を点けて回る気力もなかった。


 イオ……こんな、時間まで……。


 何かおかしいと感じた。
 おかしいと言えば、朝からだ。
 イオの態度は今までと変わらない。変わらないから、ここ数日もいつも通り朝起こされた。
 それなのに。


 まさか……。


 胸が騒めく。なんとも言えない不安感のようなものが押し寄せてくる。


 なんですぐに探しに行かなかったんだろう。


 椅子を倒すような勢いで立ち上がり、大股で扉に向かう。
 その時、異変を感じた。
 ここは村の外れ。これまでに村の人たちが訪ねて来たことはほとんどない。村の人たちのイオに対する態度を思えば、避けられていたのだとわかった。
 それなのに、扉の向こうで人の気配を感じる。イオではない、別の誰か。
 
 ガシャンガシャン。
 イオが鍵をかけていったのだろう。
 開かない扉の、鉄製の取手を激しく音を立てて引いているようだ。その度に扉が振動する。
 開けようかどうか迷った。暗い窓の外に、幾つもの灯りが揺らいでいるのが眼に入った。一人ではないらしい。
 不安だけでなくなった。恐怖も忍び寄る。
 追い打ちをかけるように。

 ドンドンドンッ。

 何者かは、激しく扉を叩き始めた。

「イオーっっ!!」


 父さんを呼んでる?
 
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