クトゥルフの雨

海豹ノファン

文字の大きさ
2 / 93

45歳の初恋

しおりを挟む
その時ドンッという鈍い音と共に私の首元から男の手が離された。

「ゲホゲホ!」

危なかった…もう少しで殺されかける所だった…倒れていた私は咳き込みながら起き上がる。

私の目にあの男とは違い、スマートでハンサムな男が映った。

高校生くらいだろうか、顔はまだあどけなく肌も荒れが無く美しい、眉も丁度良く整えられ、揃えられた黒髪、制服もビシッと着こなしている、真面目な好青年だと服装と格好から感じられた、しかしその目には強い意志が感じられる。

その男、いや少年は鋭い目つきで一方の不恰好な男を見下ろしていた。

「ここは女性専用車両だぜ?お前のようなゲス野郎はとっととここから出ていけよ!」

その真面目そうな少年からこのような口調が出るとは…しかしその口調が更にその少年の魅力を増しているように私は感じられた。

この男の子…WNIの男キャラのようにカッコいい!
「このクソガキ!」

男はその少年に拳を振り上げるが少年はそれを軽々と避け、逆に自らの拳を男の顔に打ち添えた。

男は見事に女性専用車両から殴り飛ばされた。
かっこいい…!

私はその不敵に笑うハンサムな少年に心を奪われた。

「やれやれだぜ」

少年は服の埃を手で払いのけると車両の席に堂々と座り、携帯を取り出して弄りだした。
足を大の字に広げて携帯を弄るその姿も様になっており、女性専用車両に少年が乗っているのにも関わらず私はその少年なら良いやと思い、そのまま少年の隣に座る。

ハンサムな少年が間近に…あぁ私は何て幸せなの♪

その時別の女性が少年の元に歩み寄ってきた。

「あの、大文字《だいもんじ》君、ここは女性専用車両よ、それと車両内で携帯弄っちゃ駄目よ…」

「ちょっと…!」

大文字と言う少年に注意をしてきた女に反応して私は立ち上がり、怒声を上げる。

「この子は私を助けてくれたのよ!逆に貴女は私が襲われている時に何をしてたの!?黙って見ていただけじゃない!貴女にこの子を注意する資格があるの!?」

私はありったけの大声をその女に放つとその女はすっかり怯み、「すみませんでした…」とその場から離れていった。

その少年はその途端私を見る。

駄目だ…その綺麗な瞳で見られると45歳にして未だ処女の私は緊張してしまう…♪

その少年はアイドルを見るような笑顔を私に向けていた。

アイドルのように見たいのはこの私にも関わらず…。

「あんた面白いな、俺は大文字修羅《だいもんじしゅら》あんたは?」

「え…江戸華喧華《えどばなけんか》…です…」

いつもなら勢いの良い私もその美男子の前だと貰われたばかりの猫のように大人しくなってしまう。

私はまともにその美男子を見る事が出来ず、俯きながらその修羅君と言う少年に紹介を返した。

あれ…これはひょっとしてチャンス…!?

私は携帯を取り出すが言おうとしたところで別の私が邪魔をしてきた。

『待って!私のようなおばさんに修羅君のような高校生の男の子が相手してくれると思ってるの!?』

アドレスを交換したいのに別の私が邪魔をしてきて男の子に声が出せない。

心臓の音が自分でもわかるように聞こえる。
今にも倒れそう…駄目…。

そんな時携帯をいじっていた修羅君がいきなり私の方を向いてきた。

「おばさん、俺の顔に何かついてる?」

緊張しっぱなしの私と違い修羅君はしれっとした感じで私に聞いてきた。

私はおばさんでこの男の子とは親子のような年の差で私は見た目からおばさんとわかるので当然と言えば当然かも知れないが。

「い、いえその…」

私はあたふたする。
その時修羅君はいきなり私の顎もとを掴んできた。

「あんまりジロジロ見てるとてめえもあの男のように外にほっぽり出すぞ?」

修羅君に凄まれ恐怖で固まってしまう私。

怖いのに…この美男子に抱かれたいと思う私がいた。

「い…いえあの…あ…アドレス…」

私は怖さで縮こまるも怖さ紛れにアドレスを交換して欲しいとお願いする。

「なんだ、そう言う事か、良いぜ♪」

修羅君の私に向けられた怖い顔は爽やかな笑顔に変わる。

あれ?この男の子…こんな中年の私とアドレス交換してくれるなんて…なんて優しい少年なの??

私は恋のゲージがMAXとなった。
ああ私って何て幸せ者かしら♪

修羅君ハンサムで若いのに…こんなハンサムでその強さなら次々と若い女の子をはべらせてそうなのにこんな年取った中年のおばさんとアドレス交換してくれるなんて!

私は今これから仕事に行く事も忘れてしまう程にハッピーな気持ちになった。

「じゃあな!」

「はい!あ、あのありがとうございます♪」

ああ…春っていつ来るかわからないものね♪
これは仕事も手を抜けないわ!

一層頑張らないと!

私は嬉しさと共に仕事をより頑張ろうと誓い会社に向かう。

しかし問題はあの覚えの悪い従業員だ。

「何やってんのよウスノロ!!」

仕事と言うのはチームワークが物を言う。
一人でも作業が遅いとノルマが達成されないし一人の従業員だけでなく私達も吊るし上げられる事になる。

それにその対象は日頃から無口でなに考えてるかわからない、伝達もロクに出来ないから大声でまくし立ててでもこき使わないといけない。

「やる気あるの?アンタ一人のせいでどれだけ私達が迷惑していると思ってるのよ!やる気ないなら辞めなさい!!」

「すみません!すみません!」

鈍臭い従業員は平謝りしているけど、本当にわかっているのかしら?

怒鳴っていればそれなりに動いてくれるけど…最近の子はゆとりで育ってきたからかこんな鈍臭い子のようなのが多い。

こんなのでよく会社に入れたわね。

「喧華君、気合い入ってるね♪」

その時部長が私に話しかけてきた。

「白石部長、当然ですわ、私達は一致団結してノルマはこなさないといけないのですもの!」

そう、仕事内では一人でも動かさないと回らないものだ。

「これからも期待しているよ江戸華君♪」

「任せてください!」

私は上司から期待を寄せられている。
これは手を抜けないわ!

あの男の子を養えるだけのお金を蓄える為にどんどん人をこき使わないと!

私は作業の遅い子をまくし立ててでもノルマをこなすのに全力を注いだが…。

その子のミスのせいで生産が止まってしまい、ノルマ達成はならなかった。

「あの子辞めればいいのにねえ…」

「喋らないし暗いし…いるだけで気持ち悪いわ」

私は心を鬼にして他の従業員と共にあの鈍臭い子の陰口を言うように仕向ける。

そう、これも会社の為、あの子がどんなに泣いても生産が回らない以上は精神的に追い込んででもちゃんとやらせないとならない。

あの子が辞めてしまっても代わりはいくらでもいるしその方が私としてもやりやすい。

悲劇のヒロインぶってるのも見てて鬱陶しい。

こんなに辛いなら本気で仕事するか出来なきゃ辞めれば良いのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...