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争奪戦の続き

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「潤実さぁん!のぞのぞのぞ…」
のぞのぞは知らない街の中を彷徨い、半泣きになっていた。

その街は薄汚い臭いがしていて、ボロい服装の住人があちらこちらにいた。

「なんだ小綺麗な女の子がこんな所に来ているぞ?」

「可愛いじゃねえか襲いてえぇ♪」

周囲はのぞのぞを嫌らしい目で見つめ、こうやって囁き合う。

ゾクッ!
のぞのぞは恐怖に襲われた。

(は、早くここから立ち去らないとのぞのぞは無事では済まないのぞ…!)
のぞのぞはその場を離れようとする。

「おいっ!」
「はいっ!」

後ろから声をかけられてのぞのぞはビクンとして立ち止まる。
恐る恐る振り向くと若い女性がいた。

りなっしーやミサりんのような匂いのする不良系だが、彼女らのように健全ではなく、怪しい犯罪組織に属してそうなヤバい系の女だった。

「ちょっとツラ貸せよ」
その女性はのぞのぞに歩み寄りこう放つ。

ーーー

一方で潤実とりなっしーは食い逃げ犯の葵と対峙している。

「あの時はお世話になったなぁ、北岡リナ!」
「ふん、あの時の根暗男か!こんな事やってないで男でも磨いたらどうだ?」
「余計なお世話だ!とにかく俺はノフィアレやお前には因縁がある、この前のようにはいかんぞ!!」

葵は青い気体を噴出させて構える。
すると空間に小さな石がチリチリと上へ上がる。

闘気が磁力となって作用し、所謂超常現象が起こっているのだ。

「りなっしーさん!ここは私に行かせてくださいっ!店の人から捕らえるよう言われたからです!」

潤実が槍を突き出して前に出た。

「噛ませ犬が…だがウォーミングアップに丁度いい、何処からでもかかって来い!」

「誰が噛ませ犬よ!メイルストローム!!」
潤実のメイルストロームが葵に炸裂する。
しかし葵は両手を突き出してそれを受けた。

ズバーーーー!!!

メイルストロームは葵を押し流そうとするが逆に潤実の方が押し流される形となる。

潤実は危険を察知し、そこから飛翔する。
潤実のいた先はメイルストロームが反射して奥側の建物を破壊してしまった。

潤実は着地するが、悔しそうに歯を噛み締めた。

「どうした?もう終わりか?」
「ちょこざいな!!」

潤実は近接戦闘に駆り出て、槍で応戦した。

ブンブン!!

潤実は槍で葵を突き刺し、叩き落とそうとするが葵はこれらを軽々と避けてしまう。

「これならどう!?水竜槍《すいりゅうそう》!オーシャンバレー!!」

潤実は海の力で相手を弱体化させる技に出た。

「破っ!!効かぬわっ!!」

葵は両手から衝撃波を出す。
すると潤実の周りで覆っていた海の力が打ち消された。

「特殊技など俺には通用せん!お前は接近戦に持ち込むしかないってわけだ」
「私を舐めないでよね!そりゃー!!」

潤実は在らん限りの力で葵を倒そうとする。
しかし潤実のそれは葵にとっては幼児の喧嘩と変わりなかった。

「くそっくそっ、ハエみたいに!!」

そして、飛んできた槍を葵は涼しい顔して受け止めてしまう。

「ハエじゃねえ、青い疾風と呼んでもらおうか?」
葵は槍を掴んだ腕を前に押し出す。
潤実はバランスを崩す。

辛うじて態勢を立て直す潤実だがそこに葵はいなかった。

「あいつはどこに…!」
ドサリッ、潤実がこう葵を探ろうとしたところに衝撃が走り、潤実は気絶してしまった。

そう、葵は空中にいて、手刀を浴びせて潤実を気絶させたのだ。

「チェックメイトだ!」
葵は指を鳴らし決めポーズを取る。 

(葵か…油断ならない相手だ…争奪戦の時は幼馴染への執念が激しすぎて失敗に終わってたがアタイは感じたぜ、葵と言う男の潜在能力とやらを!)

「覚悟は良いか、正義の不良!!」
「どっからでもかかって来な!青い疾風!!」

りなっしーと葵の一騎討ちが始まった。

ビュー………ッ!
嵐の前の静けさ…りなっしーと葵が構えて互いの隙を伺う。

(隙がまるで無い…そしてこの面構え…ただの不良という訳では無いようだ…!)

(ミル冒の時もショコラには負けたとは言えりおりおを押した相手だ、苦戦は必至だろうな…!)

ザッ!両者は飛び出した。
ドゴーーーーン!!
互いに衝撃を与え、周囲が振動する。
木々が揺れてそれによって葉っぱが踊る。

ズガンズガンズガン!!!
りなっしーと葵は攻防戦を繰り広げた。

「おおりゃー!!」
矢継ぎ早に繰り広げる拳と蹴り。
りなっしーは葵が異能使いである事を見計らい、距離を詰めて攻撃を仕掛ける寸法に出た。

「今だっ!!」
葵はりなっしーの拳を払い流す。その時にりなっしーは隙を作ってしまう。
葵は照準を定めて手を突き出した。

ズドーーン!!
葵の手から青い衝撃波が放たれた。

りなっしーは身を翻し、もう片方の空いた手でその衝撃波を受け止めた。

「何っ!?」
りなっしーの咄嗟の反射神経に葵も拍子を突かれる。

りなっしーはそれを受け止めた事により僅かに表情を歪めるが、まともに食らってたら肋骨の数本は折れてたと実感した。

「おりゃーっ!!」
りなっしーは見事な回し蹴りを放つ。
ズドンッ!!
葵は腕を回して受け止める。
やはり威力は高く葵もりなっしーも熟練度はかなり高いと判断した。

「ハァハァ…やるなぁ…」
「ハァハァ…お前こそな」
戦いによって服も髪も乱れ、互いに息が切れている。

これはただの喧嘩じゃない、どちらかの勝利をかけた命懸けの戦いだ。

ズガンズガンズガン!!

りなっしーと葵の攻防戦は続く。
こうなったら集中力の他に、どちらの体力が先に尽きるかの勝負になりそうだった。

「おりゃあぁ!!!」
葵は手から衝撃波を出して次々とりなっしーに浴びせようとする。
「ふっふっ!!」
りなっしーはそれらを拳や蹴りで弾く。
距離を開けようとする葵と間合いを詰めようとしているりなっしー。

「異能が使えないって辛いなあ!こうして詰めないと戦えないんだからな!!」
「ふん、それはどうかな?」
りなっしーは新たな作戦を思いついた。

「また絵空事を!!」
葵はなおも衝撃波を喰らわせる。

「見えた!!」
りなっしーは回旋蹴りを放つ。
しかしさっきまでと違い、ただ闇雲に打ち払っているわけでは無い。

その衝撃波はりなっしーの蹴りにより軌道を変えて葵に向かっているのだ。

「ぐはああぁい!!」
葵はりなっしーからの衝撃波カウンターをまともに喰らい、地に打ち付けられた。

「なんて強さだ…さあこのまま俺を捕らえて店に突き出せ!!」

負けたことでヤケになり葵は地べたで仰向けになる。

りなっしーはそんな葵を見てハァーッと呆れて溜め息をつく。

「そんな事しねーよ、お前、これだけ強いのにどうして泥棒なんかやってるんだ?」

「お前にどこに行っても上手くやれない嫌われ者の気持ちがわかるかよっ!」
そっぽを向く。

「アタイに二人知り合いがいるんだけどそいつも大体お前みたいな奴だよ!それと一つ良いか?」

「なんだよ?」

「世の中に完璧な奴なんていないんだよ!アンタもそうだが、上にのし上がれなくて、最終的に蹴落とされた人だっている、良い奴程、人に回り込まれて苦い思いしやすいんだ!そいつ程、せっかくの人生を棒に振ってしまう!」

「りなっしーお前…」

りなっしーと葵に何故かライバルとしての友情が芽生えた。

りなっしーとしては、葵のような手応えのある相手と出会えたのが嬉しかったし、葵としては、実力を持ちながら社会的弱者に寄り添う事が出来る度量の広さを持つりなっしーに強敵《とも》として惹かれるものがあったから。

「あれ…私…寝てたの?」
潤実は起きあがった。

「一仕事増えそうだな、アタイは潤実を説得する、お前は…」

「待てよ、女にこう言うの任せちゃ男が廃るだろ?」

葵の目はさっきまでの淀みが無く、輝きが灯っていた。

ーーーそして。

「あ、迎えが来た!」
向こうからノフィンの乗る車がやって来た。

「迎えに来たよ……あっ、君は!!」
「本当に世間は狭いな…」

ノフィンは葵を見てハッとする。
葵もノフィンに見覚えがあり、多少なりとも驚きを見せる。

「ノフィンさんも、その人とお知り合いなんですか?」
「うん、色々とあってね…あんまり良い出会い方じゃないんだけど……」

潤実の問いにノフィンは気まずそうに話す。
勿論葵もあんまり話をしたくなさそうにしている。

しかしりなっしーは持ち前の仲裁力でノフィンと葵の気まずそうな雰囲気を何とか持ち直し、話題を切った。

「ともあれ話の続きは車の中でしようぜ!あー腹減ってきたー!」
「じゃああそこに行かないか?美味い所知ってるんだぜ!」
「さんせーい☆」

三人は颯爽と車を走らせて美味い食亭へと向かった。

しかし三人は忘れていた。
もう一人、迷ったまま行方知れずとなっている少女の事を。

そしてその少女が大変な状況に今陥っている事を…。
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