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第一章
(あらゆる意味で)出会い②
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「……へ?」
まさか起きての第一声が『腹減った』なんて思わなくてフリーズしてしまった。
そして起き上がりもせず、
「……やば」
とだけ言った。
髪の毛越しに薄っすらと見える目も開いてはいるようだ。ちゃんと起きてる。
(え、何? 何がヤバい? 幽霊のこと?)
悩んだのはほんの数秒だった。
本人に幽霊が視えているかどうか分からないし、一応聞いてみることにする。
「えーと……何が?」
「あー……や、すんません。腹減って動けないだけっす」
「……行き倒れってこと?」
彼はまあそんな感じですね、となんてことないように言って頭を掻く。
地面に座り込んだまま、ゆっくりと上半身を起したけれどやっぱり大きい。
しゃがんでいる私の前に影が出来る。
「え、あ。急に動いて大丈夫?」
「ああ、まあ。何とか。迷惑かけちゃってすんません」
ぼんやりした口調でペコリと頭を下げられる。
うーん礼儀正しい。
「や、ううん! 無事なら良かったよ、ホント」
「その……倒れる前のこと、かなり曖昧なんスけど何か……あーお姉さんにご迷惑とかってかけなかったですか?」
彼は大きな身体をしぼめ、歯切れ悪く尋ねてきた。
私はぶんぶんと手を振ってついでに首も振る。
「いやいや、本当に迷惑とかは無かったから! 普通にコンビニに行こうとしたら人が、ってかえー……と」
「はい」
「私、阿蔵野未琶子っての。お兄さんの名前は? ってかそもそも、名前とか聞いちゃって大丈夫?」
言いながら手の平を向ければ、彼の指先が彼自身を指し示したので、私もこくこくと頷いた。
(脳内とはいえ、男の人~とか彼~って呼ぶのも疲れてきたし。そろそろ名前くらいは聞いておきたい)
「いえ、大丈夫です。布里谷鳴瀧って言います」
「布里谷くん? さん?」
「どちらでも」
「オッケー。じゃあ布里谷くんで! んでね? ここ、いっちばん奥に居酒屋があるんだけど、そっからコンビニに行こうとしてたら布里谷君が倒れてるの、見つけちゃって。最初は酔っ払いかと思ったけどそうでも無さそうだしさ、ゆ……病気で倒れてたら心配だし、声かけたの」
「そう、でしたか……」
布里谷くんはやっぱりビンとこないようで、唸り続けている。
「あ。そもそも荷物もないみたいだけど……」
「や、それは大丈夫っす。ジョギングしてたことは思い出しました」
「ジョギング?」
「このカッコなんで、多分そうだと思います」
このカッコ、と言いながら布里谷くんは服を見下ろした。
言われてみれば確かに、布里谷くんの薄手のパーカーとピッタリしたパンツはジョギング用ウェアに見えた。
「確かに筋肉すごいもんね! ひょっとして格闘家とかボディビルダーの人?」
「いえ、フリーターです。コンビニでバイトしてます」
「おお~接客業かぁ……あ、ごめんね? えーと、ジョギングだから軽装にしてたんだ?」
「ああ、はい。家出る前のことは思い出せたんですけど、家出てから……アパートの角曲がった所から覚えてねっスね」
家を出てからの記憶がないのはさっきの幽霊のせいだろうか。
(ってことは生霊ってヤツ? でもさっすがに死んでるか生きてるかまでは分かんないな~。でもなぁ……急に幽霊の話なんてしてもね~)
私はどうしたものか、と唸ってしまった。
いや話してもいいけど、私にとっても彼にとっても行きずりの人間だ。
どう話したってヨタ話にしかならない気もする。
それに生半可に追い払うことが出来たり出来なかったりする、ただ本当に視えるだけの私に何が出来るんだろう。
「……あ。そうだ! 布里谷くん、お腹空いてんだよね? 何か食べるんだったらこの先の居酒屋とかどう? ご飯おいしいし」
「あーいや、それがですね」
「……うん?」
さっきまでのぼんやりした様子とは違って、かなり歯切れが悪くなった。
すると今度は布里谷くんの方があの、と遠慮がちに声をかけてきた。
「金が無くて」
「……えーと、ジョギングしてるから小銭しか持ってないって意味じゃ無くて?」
「はい。無一文です」
真顔だ。すがすがしいまでのポーカーフェイス。
もし私を騙そうとしているならもっとこう、悲壮感漂う表情になるはずだ。
でも布里谷くんはいかにも困っています、という顔には見えなかった。
前髪で目が見えづらいから? それとも表情が平坦だからだろうか。
「え、何で?」
「大学の時の先輩……腐れ縁みたいな先輩なんですけど、彼女が海外に赴任するらしくって」
「うん」
「ついて行きたいけど、どう考えても資金が足りない、どうしようって相談されたから貸したんです。ああ、二週間くらい前なんスけど」
「おおー……なるほど。でも全財産貸しちゃったワケじゃないでしょ?」
「半分くらいは貸しましたね。残りの半分は部屋が焼け出された後輩に」
「部屋が焼け出された!?」
「はい。あ、怪我はなかったみたいなんスけど」
「た、立て続けだね……」
「そうッスね。ちょっとついてないかなって思います」
ちょっとかな、とは思ったけど口には出さなかった。
淡々と言ってるから悲壮感もない。
多分真面目な人なんだろう。あとお人好し。
(にしたって本当にツイてない人だな……)
「実家は? 頼れない感じ?」
「両親、もう死んでるんで。奨学金の返済しなきゃってんで、深夜バイトしてます。バイトだと掛け持ち出来るのと」
「……のと?」
「大学卒業して入社したんですけど、会社が潰れちゃったんで」
「……すごいね。何というか波乱万丈ってカンジ」
「そうですか? 結構平凡ッスけどね」
布里谷くんは不思議そうに首を傾げた。
「そっかぁ。じゃあ私がおごったげるよ。ご飯食べに行こ!」
「え」
「あ、その前にコンビニ寄ってもいい? 酔いざまし買わなきゃなの」
「いやでも、初対面ですし……」
「良いからいいから。何とかって言うじゃん。袖振り合うヤツ」
「……多生の縁ですか?」
「それそれ。行こ! あと私、晩酌が趣味なんだよね。付き合ってくれると嬉しいな~」
「酔いざまし買いに行くんですよね? もうお酒は止めた方が……」
「あ、私のじゃないよ。常連さんの。一緒に飲んでた人のヤツ」
「……なるほど」
立ち上がった布里谷くんと私にはかなり身長差があった。
「おっきいね布里谷くん。何センチ?」
「187です」
「おお~! 良いね、便利じゃーん」
「そうですね。高い所の本とかモノを取るときは重宝されます」
「台所の棚とかって意外と高いよねー」
そんなことを話しつつ、コンビニを目指す。
目的のレモン果汁入り炭酸飲料を買って、外で待ってくれていた布里谷くんと合流する。
「おまたせーい。行こいこ」
「あの……本当に奢ってもらって良いんですか?」
「いいよ~。気にすんなって若人!」
色々あったけどようやく居酒屋に戻れる。
早くお酒とご飯が食べたい。
まあ別にアルコール中毒ってワケではないけども。
「や、若人ってほど若くないですけど……」
「ええ? でも大学卒業して入社して~でしょ?」
「三つ潰れてるんですよ」
「え」
「なんで、25です。オレ」
―布里谷くんは思った以上に不運だった。
まさか起きての第一声が『腹減った』なんて思わなくてフリーズしてしまった。
そして起き上がりもせず、
「……やば」
とだけ言った。
髪の毛越しに薄っすらと見える目も開いてはいるようだ。ちゃんと起きてる。
(え、何? 何がヤバい? 幽霊のこと?)
悩んだのはほんの数秒だった。
本人に幽霊が視えているかどうか分からないし、一応聞いてみることにする。
「えーと……何が?」
「あー……や、すんません。腹減って動けないだけっす」
「……行き倒れってこと?」
彼はまあそんな感じですね、となんてことないように言って頭を掻く。
地面に座り込んだまま、ゆっくりと上半身を起したけれどやっぱり大きい。
しゃがんでいる私の前に影が出来る。
「え、あ。急に動いて大丈夫?」
「ああ、まあ。何とか。迷惑かけちゃってすんません」
ぼんやりした口調でペコリと頭を下げられる。
うーん礼儀正しい。
「や、ううん! 無事なら良かったよ、ホント」
「その……倒れる前のこと、かなり曖昧なんスけど何か……あーお姉さんにご迷惑とかってかけなかったですか?」
彼は大きな身体をしぼめ、歯切れ悪く尋ねてきた。
私はぶんぶんと手を振ってついでに首も振る。
「いやいや、本当に迷惑とかは無かったから! 普通にコンビニに行こうとしたら人が、ってかえー……と」
「はい」
「私、阿蔵野未琶子っての。お兄さんの名前は? ってかそもそも、名前とか聞いちゃって大丈夫?」
言いながら手の平を向ければ、彼の指先が彼自身を指し示したので、私もこくこくと頷いた。
(脳内とはいえ、男の人~とか彼~って呼ぶのも疲れてきたし。そろそろ名前くらいは聞いておきたい)
「いえ、大丈夫です。布里谷鳴瀧って言います」
「布里谷くん? さん?」
「どちらでも」
「オッケー。じゃあ布里谷くんで! んでね? ここ、いっちばん奥に居酒屋があるんだけど、そっからコンビニに行こうとしてたら布里谷君が倒れてるの、見つけちゃって。最初は酔っ払いかと思ったけどそうでも無さそうだしさ、ゆ……病気で倒れてたら心配だし、声かけたの」
「そう、でしたか……」
布里谷くんはやっぱりビンとこないようで、唸り続けている。
「あ。そもそも荷物もないみたいだけど……」
「や、それは大丈夫っす。ジョギングしてたことは思い出しました」
「ジョギング?」
「このカッコなんで、多分そうだと思います」
このカッコ、と言いながら布里谷くんは服を見下ろした。
言われてみれば確かに、布里谷くんの薄手のパーカーとピッタリしたパンツはジョギング用ウェアに見えた。
「確かに筋肉すごいもんね! ひょっとして格闘家とかボディビルダーの人?」
「いえ、フリーターです。コンビニでバイトしてます」
「おお~接客業かぁ……あ、ごめんね? えーと、ジョギングだから軽装にしてたんだ?」
「ああ、はい。家出る前のことは思い出せたんですけど、家出てから……アパートの角曲がった所から覚えてねっスね」
家を出てからの記憶がないのはさっきの幽霊のせいだろうか。
(ってことは生霊ってヤツ? でもさっすがに死んでるか生きてるかまでは分かんないな~。でもなぁ……急に幽霊の話なんてしてもね~)
私はどうしたものか、と唸ってしまった。
いや話してもいいけど、私にとっても彼にとっても行きずりの人間だ。
どう話したってヨタ話にしかならない気もする。
それに生半可に追い払うことが出来たり出来なかったりする、ただ本当に視えるだけの私に何が出来るんだろう。
「……あ。そうだ! 布里谷くん、お腹空いてんだよね? 何か食べるんだったらこの先の居酒屋とかどう? ご飯おいしいし」
「あーいや、それがですね」
「……うん?」
さっきまでのぼんやりした様子とは違って、かなり歯切れが悪くなった。
すると今度は布里谷くんの方があの、と遠慮がちに声をかけてきた。
「金が無くて」
「……えーと、ジョギングしてるから小銭しか持ってないって意味じゃ無くて?」
「はい。無一文です」
真顔だ。すがすがしいまでのポーカーフェイス。
もし私を騙そうとしているならもっとこう、悲壮感漂う表情になるはずだ。
でも布里谷くんはいかにも困っています、という顔には見えなかった。
前髪で目が見えづらいから? それとも表情が平坦だからだろうか。
「え、何で?」
「大学の時の先輩……腐れ縁みたいな先輩なんですけど、彼女が海外に赴任するらしくって」
「うん」
「ついて行きたいけど、どう考えても資金が足りない、どうしようって相談されたから貸したんです。ああ、二週間くらい前なんスけど」
「おおー……なるほど。でも全財産貸しちゃったワケじゃないでしょ?」
「半分くらいは貸しましたね。残りの半分は部屋が焼け出された後輩に」
「部屋が焼け出された!?」
「はい。あ、怪我はなかったみたいなんスけど」
「た、立て続けだね……」
「そうッスね。ちょっとついてないかなって思います」
ちょっとかな、とは思ったけど口には出さなかった。
淡々と言ってるから悲壮感もない。
多分真面目な人なんだろう。あとお人好し。
(にしたって本当にツイてない人だな……)
「実家は? 頼れない感じ?」
「両親、もう死んでるんで。奨学金の返済しなきゃってんで、深夜バイトしてます。バイトだと掛け持ち出来るのと」
「……のと?」
「大学卒業して入社したんですけど、会社が潰れちゃったんで」
「……すごいね。何というか波乱万丈ってカンジ」
「そうですか? 結構平凡ッスけどね」
布里谷くんは不思議そうに首を傾げた。
「そっかぁ。じゃあ私がおごったげるよ。ご飯食べに行こ!」
「え」
「あ、その前にコンビニ寄ってもいい? 酔いざまし買わなきゃなの」
「いやでも、初対面ですし……」
「良いからいいから。何とかって言うじゃん。袖振り合うヤツ」
「……多生の縁ですか?」
「それそれ。行こ! あと私、晩酌が趣味なんだよね。付き合ってくれると嬉しいな~」
「酔いざまし買いに行くんですよね? もうお酒は止めた方が……」
「あ、私のじゃないよ。常連さんの。一緒に飲んでた人のヤツ」
「……なるほど」
立ち上がった布里谷くんと私にはかなり身長差があった。
「おっきいね布里谷くん。何センチ?」
「187です」
「おお~! 良いね、便利じゃーん」
「そうですね。高い所の本とかモノを取るときは重宝されます」
「台所の棚とかって意外と高いよねー」
そんなことを話しつつ、コンビニを目指す。
目的のレモン果汁入り炭酸飲料を買って、外で待ってくれていた布里谷くんと合流する。
「おまたせーい。行こいこ」
「あの……本当に奢ってもらって良いんですか?」
「いいよ~。気にすんなって若人!」
色々あったけどようやく居酒屋に戻れる。
早くお酒とご飯が食べたい。
まあ別にアルコール中毒ってワケではないけども。
「や、若人ってほど若くないですけど……」
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