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第3話「転校生と被害妄想と突然の好機」

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「ったく、クソお巡りめ。」
 大柄な男が倒れている警官に唾を吐きかける。
「良いから急ぎましょう。あんたのせいで余計な時間、取られちゃったし。」
 女はフードを被り直すと、男を激しく睨みつけた。
 男も女を睨み返す。
「いいや、お前のせいだね。」
「あんたのせいよ。」
「お前のせいだ。」
「あんたっ!」
「なんだよやんのか⁉」
「やったろーやないか!」
「なんで関西弁やねん!」
「あんたも関西弁やっちゅーねん!」



嵐山あらしやまかえでと言います。突然の転校に戸惑っていますが、早く皆さんと仲良くなりたいです。」
 転校生の挨拶に、クラスの女子から歓声が上がる。
 理由は明白、彼がイケメンだからだ。
 ホームルームが終わる頃には、彼の机の周りを女子たちが取り囲んでいた。
 クラスの女子のみならず、噂を聞きつけた他クラスの女子までも女子の壁の一部となっていた。
 というか、情報早すぎるだろ。
「あーあ…。イケメンはやっぱずりぃよなぁ。見ろよ、あれ。転校生、明らかに嫌がってんのに、女子ども全然退かねぇんだもん。」
 後ろに座る友人、一馬かずまが転校生の方を見てぼやく。
「俺らみてぇなフツメンが同じ表情してみろ。すぐに相手されなくなっちまうぜ。」
 確かに転校生は、露骨に嫌な表情を浮かべているが、それでも女子の壁は消えるどころかどんどん増築されていくばかりだ。
「まぁ、顔が整ってるってのは優性遺伝子の証だからな。」
 メンデルの法則とかっていうのの曲解らしいが、真理でもあると思う。
「くっそー。俺が金髪ピアスにした時だって、あんなに相手してもらえなかったってのによぉ。」
「まぁ、イケメンの定義も時代によって変わるし、モテる要素はなにも顔だけじゃないだろ?」
 適当なことを言って俺は席を立つ。
「どこ行くの?」
「トイレ。ちょっと催した・・・。」
 嘘。
 ムラムラしたからオナニーだ。
 俺が教室のドアを開けると、「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。」という声が聞こえた。
 廊下の窓に、転校生が歩いてくる姿が映っている。
「トイレの場所わかる? よかったら案内するけど。」
「あ、抜け駆けしないでよ!」
「私! 私が連れてってあげるよ!」
「ああ。大丈夫。さっき通ったから。」
 女子たちの猛アピールに、転校生は不愛想に答えて、教室を出る。
 そんな姿を遠目にちらりと見て、思う。
 確かに、不愛想な態度を見せようと、イケメンであれば許される、というのには不条理を感じる。
 一馬の気持ちもわからない。
 でも、フツメンだとかイケメンだとかブサメンだとか、俺にはもう関係ない。
 それ以前に、俺は……。
「なぁ、お前。」
 転校生がいつの間にか隣に並んで歩いていた。
「お前、神室秀青だろ?」
 初対面の転校性にいきなり名前を呼ばれた。
「……なんで俺の名前を知ってるの?」
「お前に話がある。少し付き合ってくれないか?」
転校生は相変わらず不愛想な無表情だ。
「話…って?」
 俺の問いに転校生は、何か言いにくそうに目を逸らす。
「……ここじゃちょっとマズい。大事な話なんだ。どこか人気のない場所で」
「あ、すみません。急いでるんで。」
 俺は足早にトイレへと向かう。
 なんだこいつ⁉
 気持ち悪っ!
 イケメンに急に大事な話があるとかで人気のないところに連れ込まれそうになった。
 俺男なのに。
「ちょっと待てって。ほんとに大事な話なんだ。」
 転校生が俺の肩を掴む。
「ひぃっ⁉」
 瞬間、全身が泡立つ。
 こいつ、もしかしてソッチ系か⁉
 女子に不愛想だったのも、単に女に興味がないからなのか⁉
 冗談じゃねぇ!
 ソッチの趣味を否定する気はサラサラないけど、俺は女が好きなんじゃ!
「ごめんなさい! 勘弁してください!」
「あ、おいっ!」
 俺は全速力でトイレまで向かうと、個室に入り、ドアに手を伸ばした。
「だから待てって。」
「ひゃあっ⁉」
 転校生がドアを抑えた。
 息が荒い。
 怖ぇっ!
「だから、話が」
「いや、ほんと俺、うんこなんで! うんこなんですよ! もう漏れそうなんですよ! あっち行ってくださいなんですよ!」
 俺は転校生を押しのけ、ドアを閉めて鍵をかけた。
「………なんなんだよ。」
 怖ぇよマジで!
 個室にまで押しかけて!
 なんなんだよあいつ!
 なんか息荒いし!
 危なかった。もし個室に入られでもしたら、レイプされてたかもしんねぇ!
 逃げ場ないし、相手、背高いし、イケメンだし、こんなん勝ち目ねぇじゃん!
「はぁーあ。」
折角オナニーする気だったのに、なんかもう萎えちまったよ……。
「仕方ないからテキトーにだらついてから教室戻るか。」
 さっきの転校生がまだいたら嫌だし。
「……って、ん?」
 壁越しから伝わる閉扉音。
 その先にあるのは、女の花園・女子トイレだ。
 俺は反射的に息を潜める。
「これは……」
 チャンス到来!
半ば諦めモードの股間だったが、僥倖を告げる音に敏感に反応し、先端からは既に汁が溢れていた。
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