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第32話「少年は自らの欲求を律することを強制される」
しおりを挟む五月十四日(土)十二時三十七分 旧・真希老獪人間心理専門学校(体育館)
「いやいや、そんな怯えんなよ。別に変なことしようってわけじゃないから。」
言いつつ、ミカミさんはマジックペンを取り出す。
「………。」
変なことする気マンマンなんじゃねぇか? と思いつつも言われた通り上着を全て脱ぐ。
「……ふーん。やっぱり筋肉少ないね。もうちょい食べた方がいいんじゃない?」
人の体をマジマジと見つめて失礼なことを言ってくる。
あんたに言われたくない。
いや、この人細いだけで筋肉はついてるんだったか。
「さて。」
マジックペンのフタを外し、俺の前で屈む。
ビクつき、ちょっと身構える。
「いや、だから変なことしないって。」
ミカミさんは半笑いで俺の横っ腹を掴むと、マジックペンで俺の左鳩尾のあたりに大きな黒い点を描いた。
「……なんですか、これ。」
「印。」
ミカミさんは立ち上がって、マジックペンをポケットにしまう。
「エーラの制御を覚えるうえで、そこは重要なポイントになる。まずは、体で感じてもらおうか。」
俺に手のひらを向けてくる。
と、ミカミさんの纏うエーラが抑制から解放されたかのように途端に大きくなった。
「エーラを持つ者を判別する方法は、二種類ある。視ることと感じること。」
そして、ミカミさんの腕を伝ったエーラの流れが俺の全身を包み込んでくる。
「どう? なにか感じる?」
「……なんというか、温かいです。」
俺を包み込むエーラはとても温かく、その感触はまるで泥水に触れられているかのような、多少の抵抗感を含んだものだった。
「結構不快だろう?」
ミカミさんが微笑む。
「これがエーラを感じるということ。他人のエーラは基本的に不快に感じるものなんだ。」
「……エーラを感じる、ですか。」
確かに不快だが、神代託人のあの気配ほどではない。
あれも彼のエーラに触れた感覚だったんだろうか。
「今は直接触れることで感じているけれど、これはエーラを持つ者なら基本的に誰でもできることだ。他人に敏感な奴なんて、直接触れなくても、あまつさえ視ることすらなくエーラを感じることができる。その辺は自分の人生に置かれた環境による個人差があるし、いきなりそこまでしろとは言わない。でも、これはわかるよね?」
「………!」
ミカミさんが言い終わると、俺を包み込むエーラの動きに変化が現れた。
エーラが大きく緩やかに渦巻き始めた。
外側から内側へ、エーラの渦は俺の左鳩尾、マジックペンで記されたポイントへと流動するように回っていた。
「これは……。」
「どうやらわかるようだね。これがエーラを制御するうえで欠かせない動きだ。自身の左鳩尾を中心として、右足の裏を起点にエーラを渦巻かせる。ゆるやかに、なめらかに。静かに、流々と。ゆっくり、体に流し込むイメージだ。」
「………。」
大海の渦が自らの腹部に現れたような、そんな不思議な感覚。
何とも言えないこの感覚をしばらく堪能していると、エーラの動きが止まり、俺から離れ、ミカミさんの下へと戻って行った。
「そこまで。」
ミカミさんを包み込むエーラは再び収縮し、静かにミカミさんの体を形どる。
「大切なのは自分の持つイメージ。あまり俺の動きだけ覚えさせても意味がないからね。」
恒例の前髪掻き上げを披露するミカミさん。
「じゃあ、次はこの感覚を基に自分のエーラを動かしてみなよ。」
自分のエーラを動かす。
正直、これができたらむちゃくちゃかっこいい。
「……いきます。」
体に、未だ残る幽かな感触。
それを思い出しながら。
「ふ…んんんっ!」
左鳩尾を中心として!
右足の裏から!
エーラを!
動かす!
「んん…んんんんん‼」
「全然動きませんね。」
「動かないね。」
ミカミさんと嵐山。
二人は天井を見上げていた。
「ふんぬ…ぅぅぅぅぅぅぅぅ‼」
まだ、足りない!
もっとイメージを!
イメージを燃やせぇ!
「んんんんんんんん…あ。」
「? どうした?」
力むのをやめた俺にミカミさんが問いかける。
「ちょっと…踏ん張ったら急に身が…出そう、に…あ。」
これヤバいやつだ。
額から嫌な汗が滲み出る。
そういや昨日から全然うんこしてなかったもんな。
「っじゃない! ヤバいヤバい! ちょ…これまじヤバいって! トイレ! トイレどこ⁉」
出てくる!
出てくるから!
「トイレはそこの扉の先だよ。」
ミカミさんが指さす先は、俺たちが入ってきた入り口から向かって左にある扉。
「もう、限界だってば!」
一目散に扉へと走り出す。
ほんと急にきた! なんなんだよこれ!
五月十四日(土)十二時四十五分 旧・真希老獪人間心理専門学校(体育館トイレ)
「……ふぅ。」
死ぬかと思った。
人間として。
便座から立ち上がり、下を履く。
振り返り、トイレの洗浄レバーを「大」の方向に捻る。
聞こえてくる激しい流水音。
「…あ。」
不意に思い出す昨日の出来事。
西野さん(ということにしている)の放尿音。
やばい、ムラムラしてきた。
どうする?
今は修行中だぞ?
と、迷ってる時点で俺の中では答えはもう決まっていた。
このオカズなら、本気を出せばものの数秒でイける。
やるしかない。
一度履いたズボンを再び下ろす。
怒張したムスコが、パンツ越しにいきり立ってるのがわかる。
先端が既にぬるぬるしていた。
「……よし。」
「神室君、今オナニーしようとしてるでしょ。エーラの動きでわかるよ。」
「っ⁉」
俺がパンツに手をかけると、個室のドアの先から声が聞こえた。
「オナニーしちゃったら、エーラの具合も変わってきちゃうから駄目だよ。用を足したんなら、早く戻ってきな。」
「………はい。」
ドアの前の気配が立ち去るのを感じる。
「……まずい。」
さっさとエーラの制御を覚えないと。
プライベートもへったくれもない。
つーかオナ禁ってことか、今の?
無理無理。
オナ禁とか一日しただけで発狂するっつーの!
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