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第38話「少年は空間に欲情する」
しおりを挟む五月十四日(土)二十三時十分 旧・真希老獪人間心理専門学校(二階教室)
「次起こしたらぶん殴るからな。」
嵐山が振り返りもせずに向かいの教室へと戻っていった。
「これでゆっくり寝られるな。」
両手を後ろ手に縄(なぜかこの教室に置いてあった)で縛られ、布団の上で仰向けに横たわる。
暗闇に包まれた室内、天井さえも見えない。
「………。」
両手は拘束され、自慰などすでに不可能な状態。
そんな状態に置かれているにもかかわらず、性的欲求はむしろ高まるばかりであった。
いや、むしろ自身を追い込めば追い込むほどにムラムラが増してる気がする。
「……全然眠気がこない。」
やばいな。
オナニーしてから寝る。
十年近く繰り返してきたその習慣が今、俺に牙を剥いている。
それに加えて、半日間のオナ禁。
眠れるわけがない。
「………。」
羊でも数えるか。
「羊が一匹……」
脳内で、青空の下、平和そうな牧場の白い柵を飛び越える白い羊を思い浮かべる。
「羊が二匹……、羊が三匹……」
次々と順調に柵を飛び越えていく羊たち。
しかし。
「羊がよん……匹?」
四匹目として現れたのは、なぜか白いモコモコの毛に全身を覆われた少女だった。
羊の擬人化。
羊娘は上目遣いの瞳に涙を浮かべて、横座りで切なそうにこっちを見てくる。
そしてその横に、ホルスタイン柄の面積の少ない水着を着た女性がやってきた。
牧場といえば、牛。
牛娘だ。
牛娘は、豊満な乳房を左右から両腕で寄せて前屈みになる。
なんというセクシーショット。
乳房の暴力。
おっぱい。
ということは、他の動物の擬人化娘もいるのか?
牧場と言えば、あとは……馬? アルパカ?
だが、次に現れたのはこれらの予想とはまったく異なった存在。
荒々しい毛皮に胸と女性器を包まれた女性。
これは……狼、か?
そう、羊の天敵、狼だ。
狼娘は、挑発的にこちらを見下し、ワイルドに割れた腹筋を反らす。
頬をスリスリしたい。
いや、頬だけじゃなく、色々スリスリしたい。
三人の娘たちは、三者三様に俺を誘惑してくる。
その光景に劣情を催し、思わず唾を嚥下する。
催し、というか既に催しているのだが。
そう、劣情は既に催している。
その催した劣情をなんとかするために
「俺は羊を数えてたんじゃねぇかよっ!」
危ないこわい。
いつの間にか浸りこんでいた妄想の世界より無事帰還。
いや、無事でもなんでもなく脳内は欲情一色。
というか、元々か。
もうわけわかんねぇ。
未だ強く残る牧場の妄想を消し去ろうとかぶりを振る。
それによって発生した、わずかな震え、振動が、ちんこをパンツにこすりつける。
気持ちいい。
「やばいやばいっ。」
とめどなく溢れていた我慢汁が、その勢いを増したことに焦る。
少しでもこの状況を改善しようと、腰を布団にこすりつけ、ズボンとパンツを足元までずり下げる。
これでもうちんこに直接的な刺激はいかないはずだ。
その目論見のもとの行動だったのだが、しかし俺の性欲はとうに限界を超えていた。
ちんこの周囲に空気がある。
ただそれだけで、快楽が前立腺へと駆け巡った。
気が付けば、なにもないはずの空間に向かって必死に腰を振っていた。
「なにをっ、やってるんだっ、俺はっ」
口ではそう言いつつも、下半身の動きは止まらない。
空気に向かって腰を振る自身の姿、その情けなさに更なる劣情を覚える。
「く……止まれっ!」
理性と本能のせめぎ合い。
その醜く下らない争いに終止符を打つべく、全力で腰を布団に叩きつける。
「ぐあぁっ!」
あまりの痛みにのたうち回る。
へへ。
ざまーみろ。
上の口と下の口、双方から涎を垂らして微笑む。
僅かに勝った理性。
その理性と腰の痛みが、俺を冷静に戻す。
なにをやってるんだろう。
世界改革を狙う過激な組織との戦いに身を投じると決意したばかりなのに、自分の性欲のせいでまだスタートラインにすら立てていないこの現状。
圧倒的なまでのオナニー欲。
徹底的なまでのオナニー中毒。
初めてオナニーをしたのは、確か小学校三年生の頃、だったか。
だけど、あの頃はもう少し自制が効いていたはずだ。
一体いつからだ?
ここまで我慢ができなくなったのは。
しばらくそんなことを考えているうちに、ようやく強烈な眠気に襲われることができた。
「なんなのよ! なんなのよあんた!」
「おい。」
「気持ち悪い! こっち見ないでよ!」
「いいから落ち着きなさい。」
「離してよ! だから私は嫌だったのよ! こんな……」
「この子の前でそんなことを言うな!」
目の前で二人の大人が言い争っている。
この人たちは誰だったっけ。
その隣で、一人の女性が二人の男に押さえつけられている。
泣き叫ぶ女性を、二人の男が押さえつけている。
両側に地獄のような光景が広がっている。
地獄の中で、しかし時折楽園のような笑みを浮かべるのは、裸の女性だった。
五月十五日(日)六時二十一分 旧・真希老獪人間心理専門学校(三階教室)
美神𨸶がその異変に気付いたのは、目が覚めてすぐのことだった。
万が一の事態に備えて、下田従士と交代で旧校舎の見張り番を行っていた彼は、早朝の三時から三階の教室で体を休めていた。
七時からはまた彼が見張りを行う番だ。
その三十分ほど前に目が覚めたのは自然と言えば自然である。
しかし、目覚めの理由がそれだけとは考えられなかった。
目覚めとともに感じ取った圧倒的不自然。
神室秀青のエーラが消えていた。
「……違う。」
エーラが消えているのではない。
小さくなっているのだ。
感づいた美神𨸶は、すぐに体を起こして教室を飛び出た。
向かう先は、神室秀青のエーラを感じる一階体育館。
(何が起こった?)
階段を飛び降り、一階にて右に曲がる。
体育館の扉はすぐに見えた。
すでに開かれている。
そして、そこには下田従士と嵐山楓が立っていた。
「あ、美神君。おはよー。」
美神𨸶に気付いた下田従士が能天気な笑顔を見せる。
「見てみなよ、彼。」
下田従士に促され、彼の視線の先にいる、神室秀青を見る。
美神𨸶が眠りにつく前は、校舎を覆うほどに巨大であった彼のエーラ。
そのエーラが、神室秀青の体の内、“生理的収束領域”に収まりつつあった。
まだ不完全とはいえ、綺麗な流動を見せるエーラ。
「こ…れは……」
「あ、ミカミさん。」
神室秀青が美神𨸶に気付く。
瞬間、集約されていたエーラが再び広がりを見せ、みるみるうちに校舎全体を覆った。
「あ……」
天井を見上げる神室秀青。
その光景に、美神𨸶は驚きを隠せずにいる。
(視えているのか? 自分のエーラが。どころか、ここまでの制御を……)
「いやぁ、まだまだ駄目ですね。ちょっと油断するとこれですよ。」
照れたように笑う神室秀青。
その顔、そしてその手に、美神𨸶の視線がいく。
「……というか、なんで君は両手を縛られているんだい?」
「あ、忘れてた。」
神室秀青が身をよじって自身の両手を見た。
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