アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

文字の大きさ
51 / 186

第51話「各人の個性・人格によって変異する自慰的快楽の根源と、それによって衝突する主張」

しおりを挟む

  五月二十二日(日)八時五十分 真希老獪人間心理専門学校・一年教室

「次の授業が始まるまであと十分あるから、みんな、適当に談笑でもしててねー。」
 そう言って下田先生は教室を後にした。
 すると、キャップ少女がおもむろに席を立ち、そのまま俺の席までやってきた。
「改めて、はじめましてっ! 私は木梨きなし すず! よろしくね、神室っち!」
 元気な笑顔で自己紹介をしてくれる木梨さん。
 立ち上がった木梨さんの身長は俺より少し低いくらい(百六十半ばくらいか)で、黒いつばがついた白いキャップを斜めに被ったセミロングの栗毛がキュートだ。
 白いちょいぶかなパーカーに、裾ギリギリまで上げている黒と赤のチェック模様のスカートが、なかなか大胆な格好をしている。
「神室…っち?」
「うんっ! 神室っち! 可愛いでしょ?」
 木梨さんは後ろ手を組んで、可愛らしく首をかしげる。
「こいつ、面白いだろ?」
 俺の前に座っているメガネ男子が、体をこちらに向けて片肘を椅子の背に乗っける。
「でも、お前も負けず劣らず面白い奴だよな。さっきの自己紹介といい。あ、俺は後金こうがね 遡夜さくや。よろしくな、神室。」
 目元まで覆う黒いキノコヘアー、黒い半そでTシャツから伸びる白い肌、緑のカーキ色のカーゴパンツを履いた少し声の高いメガネ男子、後金が笑いかけてくれる。
「いやー、それほどでも……」
 誉められて気分を良くした俺は、照れてる途中で右からの視線に気づいてしまう。
 視線の主は、かの女神。
 しまった。
 この教室には初めから女神がいたんだった。
 ってことは、あの自己紹介・・・・・・も全部聞かれてることになる。
 きっと引かれまくってるだろう。
 あんなにウケたのに、ここに来てなぜか後悔してしまっている。
「あれチョーウケたっ! めっちゃ面白かったよっ! ね、まりあっち!」
 木梨さんが、女神(まりあっち、だからまりあさん、か?)に振り向く。
 木梨さんからの振りに、まりあさん(?)は笑顔を浮かべる。
「うん。とっても面白かった。人前で自己紹介なんて、誰だって緊張しちゃうものなのに、あんなに面白いことを言えるなんて、とっても凄いことだよ。」
 ほ、褒められた⁉
 思いの外まりあさん(?)に好評だった俺のオナニー話。
 案外下ネタがいけるクチなのか?
 いや、この学校に在籍してる時点でそれはそうなんだろうけれども。
「ところでさ。」
 後金が顔を寄せてくる。
「聞いた話だと、お前、一日にオナニー二十回以上するんだって? あれ、マジ? 一週間でどんくらいするの?」
 おいおい、急にすげぇ訊いてくるな。
 俺が言うのもなんだが、女子の目の前だぞ。
 俺はちらりとまりあさん(?)を見る。
 この人の前ではあんまり答えたくはない質問だ。
 しかし、まりあ(?)さんはあきらかに期待した眼差しを向けてくる。
 ……答えても、問題はなさそうだな。
「…本当だよ。一週間だと、調子いい時は二百回くらいいくんじゃないかな?」
 毎回細かく数えてないから正確な数字はわからないけど。
「二百⁉」
 後金がずれたメガネの位置を直す。
「マジかよ。俺の四十倍はやってるぞ。お前やっぱすげぇな。」
 木梨さんは俺の机に手を乗せ、身を乗り出してくる。
「じゃあさ、じゃあさ。毎日そんなにやっててオカズに困ったりしないの?」
 今この女子、オカズって言ったか?
「……無くて困ることはあんまりないな。気分によってだけど。逆にありすぎて迷うことがしばしば。」
 答えていいものかちょっと迷いつつも答える。
 女子にオカズを訊かれるのって、ちょっと興奮する。
「ってか、普段どういうので抜いてるの? さっき言ってた女怪人にヒーローが…ってやつばっかり?」
 抜くって言った。
 今完全に抜くって言ったぞ。このうら若き乙女。
「うーん……、そういう逆レイプモノは結構観るけど、他にもいろいろ、かな。イチャラブが一番多いかもしれない。」
 転入初日の男子に対する女子からの質問が、どんなオカズで抜いてるかって……。
 気恥ずかしさや興奮が入り混じるこの状況に、俺の愚息は正直にピン立ちを開始した。
 そういえば、オナニーをせずにすでに三日が経過している。
 こんなの初めてだ。
「逆に、木梨さんはなにをオカズにしてるの?」
 ちょっと慣れてきて、おそるおそる一歩踏み込んでみる。
 ここ以外の女性には決してできない。
 木梨さんは俺の質問を受け、唇に指を当てて天井を見る。
「私? 私はねー、好きな人をイメージして・・・・・・するかなー。寂しい時にねっ! あと、別に好きじゃないけど、男の子同士のヤツとか、興味本位で観たりするなー。」
 始めはまったく照れずに、男の子同士のところで照れ始める木梨さん。
 予想通りというか、さすがはここの生徒だ。
「出たよ。出た出た。」
 後金が両手を後頭部に組んで木梨さんを見る。
「女の人って、オカズ訊くとみんな口を揃えて言うんだよなー。「好きじゃないけど興味本位でゲイモノを観たことがある」って。俺はそれ、完全に嘘だと思ってるね。絶対好きだろ。」
 それは完全に偏見だろう。
「そういうあんたは、なにをオカズにしてるのさ。」
 少しムッとして、木梨さんは後金に食ってかかる。
「なんだよ、知ってるだろ? 俺は、中学の時の同級生の子だよ。」
 後金は片手を広げて木梨さんを見る。
「当時、幸運に恵まれて目の当たりに出来たラッキー&スケベィな瞬間を網膜に焼き付けて、それを鮮明に思い出して一人作業に励む。仲の良かった女子ほど最高級の快楽を得られるのさ。」
「あー…。そういえばそうだったねー…。」
 木梨さんがほんのり引いてるような声を出す。
「おいおい、男ならみんなやってることだぜ? なぁ?」
 後金が俺に向き直る。
「…うーん。現時点の同級生を、っていうのだったらするけど、過去の同級生はしないなぁ。現時点の同級生でも、喋ったことのある人ではしたくないし。なんか、そういう目で見れない。」
「おいおいマジかよ。嵐山、お前はどうなんだよ?」
 後金が今度は嵐山に話を振る。
 会話に混ざらず、そっぽを向いていた嵐山は面倒くさそうな表情で後金を見る。
「過去の女子……っていうよりは、その女子が身に着けてるスカートでなら何度もあるな。浮くスカート、踊るスカート。そういう瞬間を思い出して。」
 おいおい、普段クールぶってる野郎がすげぇマニアックなオナバナを披露してきたぞ。
 こいつがオナニーしてる姿っていうのは、変な意味じゃなくちょっと見てみたい気もする。
 あくまでも興味本位で。
 いや、これは嘘じゃないぞ。
 というか、さっきの木梨さんや他の女性方の話も嘘じゃないと思うし。
「ほらほら! やっぱりあんたが少数派なんだよっ!」
 勝ち誇ったように腰に手を回す木梨さん。
「なんだよー。みんなわかってねぇなー。」
 頭に手を当てる後金が、「あ、そうだ。」となにかを思い出す。
「前々から気になってたんだけどさ、女の人って、自分がオカズにされてるってわかったら、どんな気持ちになるの?」
 とんでもないことを思い出したな、後金よ。
 でも、ちょっと気にはなる。
 木梨さんは再び唇に指を当てる動作。
「うーん。相手によるかなー。その人が好きな人だったら、かなり嬉しい。けど、興味もない人だったらなんとも思わないかなー。」
「出たよ。出た出た。女の人の怖いところ。」
 目を伏せて首を横に振る後金。
 後金の出た出たシリーズ、その二だ。
「えー。女の人だけじゃなくない? 男の人だって、知りもしない人に知らないところで抜かれてたら、嫌だったりとかするんじゃないの?」
「いーや、俺だったら嬉しいね。」
 木梨さんの反論に、後金は首を曲げて返す。
「それもあんただけなんじゃないの? ねぇ、神室っち。」
 木梨さんが俺を見てくる、が。
「……申し訳ないけど、俺も嬉しい、っていうか、考えただけで興奮する。」
 なにを言ってるんだ、俺は。
 いや、今更か。
「ふーん。そういうもんなのかな?」
 木梨さんが渋々引き下がる。
「なんで俺の時に納得しないんだよっ!」
「まぁ、私はあんたにされるのは・・・・・・・・・嫌だけどね。」
「グサッ!」
 後金のツッコミに、木梨さんが鋭い刃で刺し返す。
 そして、嵐山の方を見る。
「あ、でも、楓っちだったら私、ちょっと嬉しいかもっ!」
 木梨さんの突然のカミングアウトに、嵐山は短く答える。
「だから、俺はスカート。」
「じゃあさ、じゃあさ、こういうのはどう?」
 木梨さんは言って、急に蠱惑的な目になり、両手の指先でスカートの両端をつまみ上げてみせた。
 もとより短いスカートを履いている木梨さん。
 当然のことながら、中にはいてる下着・イズ・パンツが丸見えだ。
 急になにしてんだこの子⁉
 一応、そういう直接的な現象には目を逸らさねば……、と思いつつも、そこは悲しいことに男の性。
 突然のことに、視線は一瞬、否、二舜程そこに釘付けとなった。
 理性が戻り、慌てて目を逸らす。
 ……無地の薄い青色だった。
 嵐山はその光景をしばらく見つめた後、目を逸らす。
「スカートを人為的につまみ上げた部分に余計な角が立っている。結果、本来の布そのものの良さが損なわれた。あと、短いスカートを履いているせいで下着が丸見えだ。そこは本当に許せない。……以上の減点理由から、採点結果は零点だ。」
「なんですとっ⁉」
 嵐山の細かい採点に驚く木梨さん。
 女子自らのスカートたくし上げの対象に選ばれてなおそんな冷静な判断を下すとは……。
 こいつ、どこまでクールぶるつもりだ。だが。
「恥じらいがまったく欠如しているスカートたくし上げに一体何の価値があろうというのか。」
 と、後金。
「全くもってその通りだ。見えそうで見えないことが重要なのだよ。君はもう少し、チラリズムというものについて勉強した方がいいんじゃないのかね?」
 これは、俺。
 不本意だが、今の嵐山の意見には賛同せざるを得ない。
「そこだけは満場一致なんだなっ! この男子共めっ!」
 俺たち三人の一斉攻撃を受けて、オーバーにのけぞる木梨さん。
 その後ろで、まりあさん(?)が俺たちのやり取りを微笑ましく眺めていた。
 よかった。
 なにがよかったのかは、わからないけれど。
 そんなことをしていると、おそらく全国共通であろう例のチャイムの音と共に、下田先生が教室へと入ってきた。
 木梨さんが慌てて机へと戻る。
「やー。もう打ち解けてるみたいだねー、神室君。よかったよー。」
 教卓に着く下田先生。
 真希老獪人間心理専門学校の、俺にとっての初授業が始まる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...