アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第114話「他者、あるいは自己が巨大な生物によって呑み込まれる事象に覚える性的興奮の授業①」

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  六月五日(日)九時零分 真希老獪人間心理専門学校・一年教室

「まずはこれを見て欲しい。」
 教室に備え付けられていたスクリーン。
 そこにプロジェクターによって映写されたのは、巨大な、下半身が蛇のような姿をした女の子。
 腹部が透過され、浮き彫りになった胃袋のような器官には、男女が一人ずつ裸体で収まっていた。
 ……これは?
「ここ数年でのエロゲ界隈でも強固な需要を誇るジャンルに丸呑みというのがある。巨大な女の子や動物、ワームなんかのファンタジーの生物やそこから更に擬人化したものに異性が丸呑みされること、もしくは自分が丸呑みされることに性的興奮を覚えるジャンル。【丸呑み性愛ボラレフィリア】と呼ばれるフェティシズムだ。今日はそれについて学んでいこう。」
「いや、怖ぇよ! 情緒不安定か!」
 教壇に立ち、淡々と授業を進める下田先生。
 さっきまでのハイテンションはどこへやら。
 浮き沈み激しすぎんだろ!
「いやぁ、シリアス明けに汚い話するにはそれなりのテンションが必要かなー、と思ったんだけどねー。もう疲れちゃった。」
 「なははー」と笑って頭を掻く先生。
 なんの話だ。
「で、その【丸呑み性愛ボラレフィリア】。エロゲや同人などのアダルト界隈では今やメジャーな部類だけれど、一般的にはまだまだ未知の性的倒錯。君たちはどこまで理解できる?」
 先生に話を振られ、俺を含めた五人全員が考える。
 丸呑みされることに性的興奮……?
 もう一度、スクリーンに映し出されている映像を見てみる。
 駄目だ、全然イメージできん。
 隣で、神の教示の如くまりあ様が片手を挙げた。
「それって、他者か自己が捕食され、消化されていくという状況によって生まれる加虐心、被虐心からくる興奮ですか?」
 小鳥の囀りのような美しき声。
 うむ。今日も生きてて良かった。
「うん。流石我が校が誇る優等生だ。」
 満足そうに先生が頷く。
「勿論、そういった観点から得られる性的興奮もある。というか、これは僕が悪かったねー。この映像だけじゃあ、そこしかわからないよね。」
 そう言って、先生はプロジェクターの電源を切って、教室内の照明を点けた。
「実はこの性癖、人によって興奮する箇所が違うんだ。さっき心音さんが言ったように、たとえば、被捕食者を眺める、または自分がそうなることによって性的興奮を得るケース。消化されていく様、消化後の状態を見て興奮するケース。そして、最もライトなのが、捕食される瞬間。巨大な生物に軽々とつまみ上げられ、口内へと運ばれていく様子、口内で体を蹂躙される、咀嚼の光景。そこに性的興奮を覚えるケース。……とまぁ、各人様々な部分で興奮できる、一粒で二度美味しい、みたいな性癖なんだよねー。」
 再び教卓に両手をついて熱く語る先生。
「ああ、あとは単純に異性の口腔に興奮するってケースもあるねー。普段は自分の体よりも小さい口だけれど、自己よりも巨大化した口がある非現実性。異性の口内が好きな人にとっては堪らなく萌えるだろうねー。」
 あ、それならわかる。
 女の子がくちをガバと開ける光景。
 小綺麗な見た目とは裏腹に、グロテスクな見た目の口腔。
 光を反射してテロテロと輝く怪しさ。
 糸を引く唾液。
 俺にとってはそれだけでご飯三杯もののオカズとなる。
 でも、それを見るために捕食なんてされたくない。
「異性の口腔好きの面白いところは、普通だったらフェラチオなんかを連想していく内に異性の口内に性的興奮を覚えるようになるところを、フェラチオなんかの直接的に性的快楽を得られるテクよりも先に、口腔に性的興奮を覚えているって点だねー。自分を気持ちよくしてくれるから注目してムラムラするんじゃなくって、それそのものに・・・・・・・ムラムラするっていう。なんでそう感じるようになったのか、それはそれで興味深いけれど…それは別の授業に持ち越しだねー。」
 「とにかく。」と、先生が指を立てる。
「この性癖、複数のフェティッシュポイントに共通するキーワードは、“恐怖”。他者が捕食される様や自己視点キャラが捕食される光景に対して自己投影することで、弱肉強食、諸行無常の、本来あるべき生物社会の恐怖心を疑似体験しているんだ。そうすることで、自身が今置かれている安全かつ絶対安心な状況を再確認、もしくは、そういった状況からでも取り返しのつかない刺激・・・・・・・・・・・を得ようとしてるのかもしれないねー。」
 なるほど。
 自身が高い立ち地位から落とされることに性的興奮を覚える【破滅願望】の持ち主なんかは、得てしてそういったことを疑似体験して、自身の揺ぎ無い優位性と、破滅後の人間性までも捨てなければいけないみすぼらしい様の境界線を行き来して興奮するという。
 安定性からくる退屈。
 その打破が、この【丸呑み性愛ボラレフィリア】にもあるのかもしれないな。
「あ、そうだ。」
 思い出したように、先生は斜め上の虚空を見つめる。
「あと、純粋に食事してる女の子が好き…から巨大な女の子の捕食シーンに性的欲求を見つける人もいるねー。これは恐怖心とは違うかもだけど、巨人の女の子自体が恐怖の対象とも取れるのかなー?」
 ポンポン出てくるな。
 それだけ、入り口の狭いジャンルに見えて、多種多様なニーズに応え得る、性的欲求の詰まったジャンルってことなのか。
「ま、そんなわけで。この性癖は、話すだけじゃ理解が得難いと思うんだ。だからねー。」
 そう言って、先生は教室を出た。
 廊下の方から何やらガラガラと音を立て、再び入室する。
 大きな台車を運んできた先生。
 台車の上には、黒光りする何かが乗っていた。
「今からみんなにも【丸呑み性愛ボラレフィリア】を疑似体験してもらおっかなー。」
 笑顔を見せる先生。
 危険な匂いが漂ってきた。
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