アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第140話「女神は過去を少しだけ語る」

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  六月十二日(日)十一時三分 埼玉県・某国道

 やばい。やばいぞ。
 急速に体温を奪われ始めてきた。
 世界がぐるぐる回ってくる。
 この比類なき気持ち悪さ!
 車酔いってこんな気持ち悪いものなのかよ⁉
 思わず痴漢野郎との激闘を思い出すが、正直今はそれ以上に辛い戦いを強いられてるぞ!
 なんせ、隣に座ってらっしゃられているのはまりあさん!
 痴漢野郎の前では激しく嘔吐したから幾分か楽にはなったけど、今はそれも封じられている状況!
 女神の前で吐くなど、あってはならないこと!
「まりあさんは」
 窓の外に向けていた視線を、再び女神に戻す。
 女神のご尊顔を拝み、対話を試みれば自ずと吐き気も収まるだろう。間違いない。
「どこの高校通ってるの?」
「あー、私、今は高校通ってないの。」
 まりあさんは苦笑した。
 あれ、話題マズったか?
 そんな不安を他所に、まりあさんは話を続ける。
「元々幼稚園から大学まで一貫の学校に通っててね。エスカレーター式で高校にも進学が決まってたの。」
 しかし、まりあさんは次第に楽しかった過去を思い起こすような、懐かしむような表情に変わっていった。
「お嬢様学校ってこと?」
 表現が下品すぎるか?
「お嬢様、お坊ちゃま学校だね。今にして思えば。実家が資産家だったから。全寮制でいつも見張られてる厳しい監視下の環境。そんな生活に、疑問も持たずにずっと生きてた。」
 まりあさんは窓の外、風景を見つめる。
「お金持ちが集まる学校だからね、周りの人たちもそれなりに世間ズレしてたと思うけど、その中でも私は更に異端・・だったと思う。両親の顔でさえ、私は知らなかった。」
 淡々と語られていくまりあさんの過去話。
 午前十一時に聞くにはあまりにも重すぎるような気がするが、しかしそんなことはどうだっていい。
「だから、抜け出してきちゃった。」
 悪戯っぽい微笑をたたえて、まりあさんは舌を出す。
「中学二年の秋に、監視の目を掻い潜って、学校の外へ。学校の行事以外で外へ出た記憶なんてほとんどなかったから、とっても新鮮な気持ちだったなぁ。それでも行く場所なんて無かったから、あてもなく彷徨ってね。そこで、人心に拾われたの。」
 人心。
 今の学校。
「御両親の顔を「知らなかった」ってことは、今はもう知ってるの?」
「うん。人心に拾われてから、一度だけ学長と一緒に会った事があるの。最初は記憶的には初めて会う両親だったから、どんな人たちなんだろうってワクワクしてたんだけどね。いざ会うと、なんだか酷く小さな人たちに見えて……」
 あくまでも明るい表情で話すまりあさんだが、その背景にとてつもなく後ろ暗い過去が見え隠れする。
 女神に、そんなハードな今までがあったなんて。
「でも、私は気にしてない。後悔もしてない。だって、あの両親にあの学校へ送り込まれ、閉じ込められなければ、今の私はいなかったんだもの。人心に来ることも無かったし、みんなとも出会えなかった。勿論、シュウ君ともね。」
 途端に、視界いっぱいに広がる眩い光。笑顔。
 ああ、救われた。
 そんな気にさえされてしまう、暖かい笑み。
 気が付けば吐き気もなくなっており、やっぱりこの人の笑顔は世界を救うんだなぁ、と思ったけれど。
 けれど、視界の端に映った下田先生の、バックミラー越しの目が、どうにも気になって。
 そんなことを気にしているうちに、気が付いたら、大宮駅に車は着いていた。


  六月十二日(日)十一時四十一分 埼玉県大宮駅


「僕は僕でその辺ドライブしてくるねー。呼んでくれたらいつでも迎えに来るから、目一杯楽しんでくるんだよー。」
 そう言って、下田先生は車を走らせ何処かへと消えていった。
 さて、そんなわけで大宮駅。
 日曜のお昼時。やはり激混みだった。
「これからどうするの?」
 さっきと同様明るくキュートな表情のまりあさん。
 自身を異端と語っていた事が若干(いや、かなり)気になりはしたものの、今はとにかく忘れて、前日(嫌がる)嵐山と(無理矢理)練った完璧な計画の遂行に向けて動く。
「まずは昼ご飯にしよう。良い所があるんだ。」
「やった。実はお腹ペコペコだったのー。」
 喜び、照れ笑いするまりあさん。
 可愛い。
 さも自分が知ってる店かのように案内したのは草っぽい名前の茶屋こと喫茶店。
 広い駐車場に佇む落ち着いた雰囲気の店だ。
 店に入ると、薄暗い照明の中、店員さんに個室然とした席へ通された。
 メニューを見るとステーキのようなガッツリしたものから、シフォンケーキのような女子高生受けしそうなものまで、実に様々な料理が用意されていた。
 終始無言の嵐山と目が合う。
 この店は嵐山お墨付きのもの。
 流石イケメン。こんな良い店を知ってるとはな。
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