アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第146話「少年は深淵を覗く③」

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  六月十二日(日)十五時五十三分 埼玉県大宮市・某カラオケボックス

 突然の雄叫び。
 しかし周りの客は気付かない。
 普段から騒がしい店内なのだろうか。
 そして、嵐山の姿が見えない。
 まだ戻ってないらしい。
 要するに、俺がまりあさんを助けねばならないということだ。
「あれ…ちょっと……」
 カメラをこっちに向けて、一人の男が狼狽える。
「やっぱり一緒に来てたの男じゃないっスか……」
 後退するカメラマンの男。
 反対に、ズボンに手をかけていた男が前に出てくる。
「ビビッてんなよ。カメラ回してろ。寝取られ展開とか、俺たちに新しい風が吹いてきただろ?」
「あぁ?」
 ふてぶてしくも男は両手をポケットに突っ込んで近寄ってくる。
「君、この子の彼氏? 悪いけど、俺たち今からパーチーなんだよ。邪魔しないでくんない?」
「パーティ?」
 不安そうにしつつも、カメラマンの男は言われた通りカメラを向け続けている。
 まりあさんに掴みかかってる男たちはこっちを見て嫌らしく笑っている。
 四人の男は、全員大学生くらいの年齢だろうか。
 ハメ撮りが趣味の奴らか?
「そうだよ。知らねぇ? カメラ片手に埼玉の美女を輪姦す集団。“埼玉素人ハメ撮り倶楽部”っつって。●●●●●●●じゃ結構人気あるんだぜ?」
 ●●●●●●●、よく利用するエロ動画サイトだ。
 趣味ではなく仕事ビジネス…いや、アルバイト感覚か。
「知らねぇよてめぇらなんか。その人をわけわかんねぇことに巻き込んでんじゃねぇぞ」
「まぁそう言わずに調べてみろよ。アカウント名は“XXXXX”。すぐに出てくるぜ。パート四十九まで出してる。可愛い娘だらけだ。ハズレは絶対晒さないようにしてるんだ。こだわりが強いからな。」
 素人モノのAV。
 AVメーカーだと、普通はまだ売れていないAV女優を素人に見立てたり(その後、人気が出れば「あの娘がAVデビュー!」みたいな感じで、あたかもその動画がきっかけでAV女優になったみたいに二作目を出したりとか)、本物の素人だとしても、ちゃんと交渉し、了承を得てから撮ってたりすることがほとんどだ。
 少なくとも、いきなりの強姦はない。
 こいつらこそ、素人じゃねぇか。
「この娘は記念すべきパート五十のお客さんだぁ。盛大に」
「知らねぇよてめぇらなんか。いいからその人放せや。」
 したり顔で語る男の言葉を遮って、この場の奴ら全員を睨む。
 男は口元を僅かに歪め、見下ろしてきた。
「おいおい…あんま俺たちにナメた口きくなよ。俺たちはこれでもプロとして」
「だから知らねぇし興味ねぇよ。さっさとしろ、殺すぞ。」
 瞬間、目の前の男がキレた。
「てめぇ、いい加減にしろよぉ‼」
 いい加減にすんのは…てめぇだ!
 男の振り上げた拳が、俺の左頬を打つ。
 鈍い音が室内に反響する。
 しかし。
 膝をつき、倒れたのは男の方だった。
「っぁ⁉」
 手を押さえ蹲る男。
 今度は俺が、そいつを見下ろす。
「ここから出てけよ。……死ぬか?」
「よっちゃん⁉」
 まりあさんの足から手を離し、男が駆け寄ってくる。
「てめぇ、何しやがった⁉」
 そのまま、襟元に掴みかかってくる。
「なにかしてんのはてめぇらだろうがっ!」
 男のその掴む腕を右手で掴み返し、握る。
「っぁああああっ‼」
 反射的に男は手を離し、後退。
「ひぃっ!」
 裏切りおにぎりのような声を上げ、カメラマンの男は室外へと走り去っていった。
「あっ、おい!」
 まりあさんの腕を掴んでいた男も、一瞬の躊躇いののち退室。
 そして。
「っ…!」
 残った二人も、俺と目も合わせずに逃げていった。
 どこがプロなんだか。
 ただの強姦魔じゃねぇか。
 ! んなことより!
「まりあさん、大丈夫ですか⁉」
 男たちに押さえつけられていたまりあさんは、男たちに押さえつけられていた格好のまま男たちに押さえつけられていた場所に座り込んでいた。
 最悪だ。
 考えていた最悪以上の最悪が訪れた。
 有名なナンパスポットとは書いてあったが、まさかあんな危険な連中まで出入りしていたなんて……。
 もしもまりあさんの身に何かあってしまっていたら……俺は今日という日を一生悔いることになる。
「大丈夫。ありがとう。」
 「ちょっとびっくりしたけどね。」と笑って、まりあさんはようやく立ち上がった。
 その様子に、なんだろう、胸がざわつく。
 声の調子がいつも通り過ぎる。
 表情も、仕草も、普段のままだ。
「……変な事とか、されませんでした?」
 何てこと訊いてるんだ。
 もしされてたらどうするつもりなんだよ。
「うん。結局・・何もされなかった。」
 結局?
 なんだ、なんか違和感を覚える言い回しだな。
 ……ま、それはともかく。
「よかったぁ……」
 思わずその場にへたり込む。
 まりあさん、とりあえず色んな意味で無事そうだ。
 本当に、よかった。
「もぉ…大袈裟だよぉ。それに…敬語。」
「あ。」
 いけないいけない。
「無意識に戻っちゃってま…たー」
「うふふっ」
 二人、和やかに笑いあう。
 この一瞬を切り取って永遠に保存していたいような、そんな青春の一ページ。
 ……い、いやいや! ほんわかしてる場合じゃねぇ!
「まりあさん、嵐山迎えに行って今すぐここ出ましょう!」
 この店は最早危険すぎる。
 さっきの奴ら、あれだけ騒ぎを起こしておいて周りの客や店員も気付かないし(扉は開けっ放しなのに)、容赦なくトンズラこくあたり、少しおかしい。
 流石に店との繋がりまではないだろうが、もしかしたら一部の店員と繋がってる危険性もある……。
 早急にこの店を出なければ……。
「大丈夫だよ。」
「?」
 そう微笑みかけてくれるまりあさん。
 しかし、その目に。
「シュウ君は何も心配しなくていいの。」
「まりあさ…ん……?」
 俺は、異質な何かを感じた。
 感じて、しまった。
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