170 / 186
第170話「目覚めた少年は女神の涙を見る」
しおりを挟む六月十三日(月)十八時三十四分 真希老獪人間心理専門学校・保健室
急に、視界いっぱいに真っ白い世界が広がる。
天井。
目が、覚めたのか。
気が付けば、無意識に上体を起こしていた。
目が覚めた?
寝てたのか?
あれ…なんだっけ?
なんだっけって、なにがだ?
「シュウ君っ‼」
「うわっ⁉」
右肩に勢いよくぶつかる柔らかい感触。
「ままままま、まりあさん⁉」
まりあさんの温かくモチモチとした双丘が右肩に圧し潰れていた。
いや、双丘が、じゃねぇ!
「ど、どどど…どうし…なに、え?」
「よかった、目が覚めたんだねー。」
下田先生が、柵に手をついてはにかんだ。
柵、ベッド。
やっぱ寝てたのか。
「なんで俺、寝て……あ」
そこで、思い出す。
「そうだ! 殺人鬼! あれ…あいつ……どうなったんですか⁉ 俺、なんで寝て……」
「とりあえず落ち着きなよー」
のんびりとした調子の下田先生。
「殺人鬼の件なら、とりあえず解決したから安心してー。」
解決?
「シュウ君のおかげだよっ!」
右肩にひっついたままのまりあさんが笑顔を向けてくれる。
愛おしや……。
「俺の?」
「シュウ君が最後の最後まで私たちを守ってくれたから……でも、そのせいでシュウ君が倒れちゃって……このまま起きなかったらどうしようかと……私……」
笑顔から一転、涙を浮かべて泣きついてくるまりあさん。
??? どういうこと?
「君、ほとんど一日寝っぱなしだったのよ。」
下田先生の背中から伴裂先生がひょこっと顔を覗かせる。
ああ、ここは保健室だったのか。
「一日も……」
そんなに寝てたってことは……はっ! オナニー二十回くらい損してんじゃんっ‼
「すっごく心配したぁ……」
鼻をすするまりあさん。
……………。
オナニーの大損とか、あの時の目とか、色々と考えたいことはあるけど。
だけど。
「ごめん、まりあさん。ありがとう、俺はもう大丈夫だから。」
今はまりあさんが最優先だ。
「………さて。」
しばらく笑顔を浮かべていた下田先生が、まりあさんの肩に手を置く。
「心音さん、ずっと付きっきりで疲れたろう? 神室くんはもう大丈夫だから、今日はもう休みな。」
つきっきり?
「この子、君がここに運ばれてからずっとここを離れなかったのよ。」
そう言う伴裂先生の顔は、どこか複雑だ。
っていうか、え⁉
「まりあさん、ずっとって、ご飯とかは?」
「だってぇ…心配だったからぁ……」
未だ泣き顔のまりあさん。
よく見ると、少しやつれて見える。
俺のせいで、こんな……。
でも、でも……。
「ナニソレメチャクチャスッゴクウルトラサイキョウニウレシイ‼‼」
思わず漏れた心の叫び。
漏れたっていううか叫んだ。
案の定、まりあさんは面食らっていた。
「あっはっはっはっはー」
一瞬流れた嫌な沈黙に、下田先生の笑い声が響き渡った。
「ほら、神室くんもこの通りだから、心音さん、ね。」
「………本当に?」
心配そうに見つめてくれるまりあさん。
「いや、もう‼ まりあさんのお声を聞けただけで俺の全身の細胞が歓喜に打ち震えて活性化し、今やもう全回復‼ 最大級に最高潮な絶好調だよ‼ あっはっはっはっは‼」
大袈裟に笑ってみせた。
大袈裟すぎたかもしれない。
引かれたかもしれない。
「明日はもっと元気な姿を見せてね? 約束だよ?」
そう言って保健室を後にしたまりあさん。
その後ろ姿はやっぱりまだ、少し力なく見えた。
「で、だ。」
まりあさんが部屋を出てしばらく経ち、下田先生がベッドの脇に座ってきた。
「神室くん、君、実際体どうなの?」
「めちゃくちゃ痛いです。全身筋肉痛みたい。」
「だよねー。」
笑い飛ばす下田先生。
「いやー、男を魅せたねー神室くん。あっはっはっはー」
痛いっつってるのに背中をバシバシ叩いてくる下田先生に多少の殺意を覚えたが、今はそんなことよりも。
「……先生、殺人鬼の件、解決したって言ってましたけど、結局どうなったんですか?」
瞬間、先生の手が止まった。
「うーん。んー……」
何やら呻き、口元に指を当てる先生。
「場所、変えよっかー。」
いつもの口調。
いつもの調子。
でも、先生の声のトーンが少し、ほんの少し変わった気がした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる