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第31話 星降る夜の、奇跡という名のハッキング
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世界が、スローモーションになった。
チャンピオンが振り下ろす“英雄の剣”。その切っ先が、レオンハルト様の胸元に迫る、その、永遠のような、一瞬。
私の魂が、叫んだ。
「――接続(コネクト)!!」
次の瞬間。
私の身体から、金色の光の糸が、無数に、ほとばしった。
それは、魔力ではない。
この世界の理(ことわり)の外側から来た、私という“不可能な変数(インポッシブル・バリアブル)”だけが、紡ぐことのできる、運命の、糸。
観客席の誰もが、息を呑んだ。
特別観覧席に座る、ただの、か弱き侯爵令嬢から、神々しいまでの光が放たれたのだから。
金色の糸は、闘技場の空を、縦横無尽に駆け巡り、二つの“器”へと、殺到した。
一つは、レオンハルト様の胸当てに刻まれた、アークライト家の紋章。
もう一つは、彼を、まさに、貫かんとする、“英雄の剣”。
「……なっ!?」
剣を握る、チャンピオンが、驚愕に目を見開く。
彼の剣と、対戦相手の鎧が、突如として、金色の光の回路で、直結されたのだから。
そして、私は、見た。
私の、観測者の瞳だけが、その、おぞましい、真実の姿を。
レオンハルト様の、鎧の奥。その魂の、さらに、奥底。
そこに、それは、いた。
千年もの間、アークライト家の長子を、宿主として、蝕み続けてきた、黒い、呪いの奔流。
それは、まるで、意思を持つ、蛇のようだった。
憎悪と、悲劇を、糧とする、理不尽な、筋書き(システム)の、化身。
私は、命じた。
私の、魂の、全てを以て。
(――出ていきなさい)
金色の光の糸が、その、黒い蛇に、絡みつく。
『―――ッ!?』
呪いが、悲鳴を上げた。
千年間、安住の地だった、魂の器から、無理矢理に、引き剥がされる、その、激痛に。
レオンハルト様の身体が、大きく、のけぞった。
「ぐ……あああああああああっ!!」
彼の、絶叫が、闘技場に、響き渡る。
それは、呪いの悲鳴であり、そして、産まれ変わるための、彼の、産声でもあった。
黒い、影のような魔力が、彼の身体から、ずるり、ずるりと、金色の糸を伝って、引きずり出されていく。
それは、おぞましく、そして、どこか、神々しい、光景だった。
「な、なんだ、あれは……!?」
「サー・レオンハルトの、身体から、黒い、影が……!」
観客たちが、何が起きているのか、理解できないまま、叫ぶ。
黒い呪いは、全て、金色の光の奔流に乗り、“英雄の剣”へと、吸い込まれていった。
儀礼剣の、白く、清浄に輝いていた刀身が、みるみるうちに、その光を失い、代わりに、禍々しい、紫黒の光を、放ち始める。
まるで、毒を、飲み干したかのように。
そして。
最後の、一滴の、闇が、レオンハルト様の魂から、引き剥がされた、その瞬間。
パリンッ。
と、何かが、砕けるような、音がした。
金色の、光の糸が、消える。
黒い輝きを放っていた、“英雄の剣”から、光が消え、ただの、重い、鉄の塊へと、戻る。
チャンピオンは、その、あまりの、不気味さに、剣を、取り落とした。
そして、レオンハルト様は――
まるで、全身を縛り付けていた、見えない糸が、切れたかのように、ゆっくりと、その場に、崩れ落ちた。
シン……と。
あれほど、熱狂に満ちていた、闘技場から、完全に、音が、消えた。
全ての観客が、全ての騎士が、そして、王族たちさえも、目の前で起きた、人智を超えた現象に、ただ、言葉を、失っていた。
「……は……っ、はぁ……っ」
私の、世界にも、音が、戻ってきた。
全身の、力が、抜けていく。
鼻の奥が、ツン、と熱くなり、一筋の、赤い血が、私の唇を、濡らした。
魂の、全てを、使い果たした、代償。
私は、その場に、崩れ落ちるように、椅子に、座り込んだ。
隣で、ヴァレリウス老が、震える声で、呟いていた。
「……やりおった……。あの、狂人の、千年の呪いを……。本当に、書き換えおった、わ……」
私は、ただ、笑っていた。
涙が、止まらなかった。
嬉しいのか、安堵したのか、もう、分からなかった。
闘技場の、中心。
医療班の者たちが、慌てて、駆け寄ろうとする、その、先で。
倒れていた、白銀の騎士が、ゆっくりと、身を、起こした。
彼は、誰の声にも、応えなかった。
ただ、その、アクアマリンの瞳で、まっすぐに、一つの場所だけを、見つめていた。
この、観覧席にいる、私だけを。
その瞳には、もう、何の、影も、なかった。
呪いも、絶望も、悲劇の筋書き(シナリオ)も、ない。
ただ、どこまでも、澄み切った、魂の輝きだけが、そこにあった。
彼は、ゆっくりと、その顔を、綻ばせた。
それは、私が、ずっと、見たかった、彼の、本当の、心からの、笑顔だった。
私も、涙で、ぐしゃぐしゃの顔のまま、彼に、笑い返した。
もう、言葉は、いらなかった。
私たちの、魂は、確かに、繋がっていたのだから。
千年の呪いは、今、終わった。
理不尽な、ゲームは、終わった。
私たちの、本当の物語は、ここから、始まるのだ。
この、星降る夜の、奇跡を、胸に抱いて。
チャンピオンが振り下ろす“英雄の剣”。その切っ先が、レオンハルト様の胸元に迫る、その、永遠のような、一瞬。
私の魂が、叫んだ。
「――接続(コネクト)!!」
次の瞬間。
私の身体から、金色の光の糸が、無数に、ほとばしった。
それは、魔力ではない。
この世界の理(ことわり)の外側から来た、私という“不可能な変数(インポッシブル・バリアブル)”だけが、紡ぐことのできる、運命の、糸。
観客席の誰もが、息を呑んだ。
特別観覧席に座る、ただの、か弱き侯爵令嬢から、神々しいまでの光が放たれたのだから。
金色の糸は、闘技場の空を、縦横無尽に駆け巡り、二つの“器”へと、殺到した。
一つは、レオンハルト様の胸当てに刻まれた、アークライト家の紋章。
もう一つは、彼を、まさに、貫かんとする、“英雄の剣”。
「……なっ!?」
剣を握る、チャンピオンが、驚愕に目を見開く。
彼の剣と、対戦相手の鎧が、突如として、金色の光の回路で、直結されたのだから。
そして、私は、見た。
私の、観測者の瞳だけが、その、おぞましい、真実の姿を。
レオンハルト様の、鎧の奥。その魂の、さらに、奥底。
そこに、それは、いた。
千年もの間、アークライト家の長子を、宿主として、蝕み続けてきた、黒い、呪いの奔流。
それは、まるで、意思を持つ、蛇のようだった。
憎悪と、悲劇を、糧とする、理不尽な、筋書き(システム)の、化身。
私は、命じた。
私の、魂の、全てを以て。
(――出ていきなさい)
金色の光の糸が、その、黒い蛇に、絡みつく。
『―――ッ!?』
呪いが、悲鳴を上げた。
千年間、安住の地だった、魂の器から、無理矢理に、引き剥がされる、その、激痛に。
レオンハルト様の身体が、大きく、のけぞった。
「ぐ……あああああああああっ!!」
彼の、絶叫が、闘技場に、響き渡る。
それは、呪いの悲鳴であり、そして、産まれ変わるための、彼の、産声でもあった。
黒い、影のような魔力が、彼の身体から、ずるり、ずるりと、金色の糸を伝って、引きずり出されていく。
それは、おぞましく、そして、どこか、神々しい、光景だった。
「な、なんだ、あれは……!?」
「サー・レオンハルトの、身体から、黒い、影が……!」
観客たちが、何が起きているのか、理解できないまま、叫ぶ。
黒い呪いは、全て、金色の光の奔流に乗り、“英雄の剣”へと、吸い込まれていった。
儀礼剣の、白く、清浄に輝いていた刀身が、みるみるうちに、その光を失い、代わりに、禍々しい、紫黒の光を、放ち始める。
まるで、毒を、飲み干したかのように。
そして。
最後の、一滴の、闇が、レオンハルト様の魂から、引き剥がされた、その瞬間。
パリンッ。
と、何かが、砕けるような、音がした。
金色の、光の糸が、消える。
黒い輝きを放っていた、“英雄の剣”から、光が消え、ただの、重い、鉄の塊へと、戻る。
チャンピオンは、その、あまりの、不気味さに、剣を、取り落とした。
そして、レオンハルト様は――
まるで、全身を縛り付けていた、見えない糸が、切れたかのように、ゆっくりと、その場に、崩れ落ちた。
シン……と。
あれほど、熱狂に満ちていた、闘技場から、完全に、音が、消えた。
全ての観客が、全ての騎士が、そして、王族たちさえも、目の前で起きた、人智を超えた現象に、ただ、言葉を、失っていた。
「……は……っ、はぁ……っ」
私の、世界にも、音が、戻ってきた。
全身の、力が、抜けていく。
鼻の奥が、ツン、と熱くなり、一筋の、赤い血が、私の唇を、濡らした。
魂の、全てを、使い果たした、代償。
私は、その場に、崩れ落ちるように、椅子に、座り込んだ。
隣で、ヴァレリウス老が、震える声で、呟いていた。
「……やりおった……。あの、狂人の、千年の呪いを……。本当に、書き換えおった、わ……」
私は、ただ、笑っていた。
涙が、止まらなかった。
嬉しいのか、安堵したのか、もう、分からなかった。
闘技場の、中心。
医療班の者たちが、慌てて、駆け寄ろうとする、その、先で。
倒れていた、白銀の騎士が、ゆっくりと、身を、起こした。
彼は、誰の声にも、応えなかった。
ただ、その、アクアマリンの瞳で、まっすぐに、一つの場所だけを、見つめていた。
この、観覧席にいる、私だけを。
その瞳には、もう、何の、影も、なかった。
呪いも、絶望も、悲劇の筋書き(シナリオ)も、ない。
ただ、どこまでも、澄み切った、魂の輝きだけが、そこにあった。
彼は、ゆっくりと、その顔を、綻ばせた。
それは、私が、ずっと、見たかった、彼の、本当の、心からの、笑顔だった。
私も、涙で、ぐしゃぐしゃの顔のまま、彼に、笑い返した。
もう、言葉は、いらなかった。
私たちの、魂は、確かに、繋がっていたのだから。
千年の呪いは、今、終わった。
理不尽な、ゲームは、終わった。
私たちの、本当の物語は、ここから、始まるのだ。
この、星降る夜の、奇跡を、胸に抱いて。
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