6 / 39
第一章 最強の攻略対象がとんでもない爆弾だった
第6話 リ・ユエの「鎖」と、悪役令息の書庫
しおりを挟む
俺とリ・ユエは、シン・ジエン侯爵家の広大な屋敷の一室にいた。リ・ユエは警戒を解いていないものの、俺の提案に乗った以上、行動を共にせざるを得ない状況だ。
「ここが、この屋敷の『知の要塞』だ」
俺が指し示したのは、シン・ジエン家の広大な私設書庫。壁一面に天井まで届く書架が並び、古びた紙とインクの匂いが満ちている。ゲームでは、悪役令息が主人公を罠にかけるための資料を探す場所だったが、今、俺は全く別の目的でこの場所に立っている。
リ・ユエは無言で書架を見上げた。彼の視線は、背表紙の文字を追うというより、その奥にある空間の歪みを探っているようだった。
「あんたの『鎖』――その呪文に関する手がかりを探す。古代の異能や、この世界の成り立ちについて記された文献があれば、何かヒントがあるはずだ」
俺は袖をまくり上げ、早速書架の奥へ進む。リ・ユエは、その場から動かず、静かに問いかけてきた。
「…君は、本当にこの世界の救済を信じているのか? それとも、私を利用して、破滅を回避しようとしているのか」
その質問に、俺は立ち止まり、振り返った。
「元々は、破滅回避が目的だった。だが、もう違う」
俺は一つ息をつく。
「シン・ジエンの破滅ルートなんて、所詮、ゲームの小さなシナリオだ。あんたが背負っているのは、この世界そのもののバッドエンド。より大きなバッドエンドを前にして、小さな破滅なんてどうでもよくなった」
俺は、一冊の古びた文献を引き抜く。その表紙には、見慣れない象形文字が刻まれていた。
「俺は、システムのエラーを解決するのが仕事だった。そして、あんたは今、世界最大のエラーだ。このエラーを放置したら、俺自身も含めて全てが消える。だから、これは俺自身の生存戦略でもある」
リ・ユエは、俺の言葉にわずかに目を細めた。彼の口元に、微かな笑みが浮かんだように見えたが、すぐに消えた。
「実に論理的だ。私を利用すると、明確に宣言している」
「当然だ。俺には、あんたの狂気的な力を制御する知略しかない。あんたの力と俺の頭脳。それが、この物語をハッピーエンドに導く唯一のチート能力だ」
俺はそう言って、再び書架に向き直る。
「さて、この古文書だ。古代の異能に関する記述がある。リ・ユエ、あんたが能力を使うときに呟く呪文を、もう一度教えてくれないか?」
リ・ユエは、一瞬ためらった後、極めて低い声で、その音を発した。それは、耳慣れない音の連なりだったが、不思議と体の中に響くような振動があった。まるで、この世界の初期設定を呼び出すコマンドのようだった。
俺は、その音を何度も反芻し、古文書の象形文字と照らし合わせていく。シン・ジエンの卓越した頭脳と、前世の俺の分析力が融合し、思考が加速する。
「見つけた」
数刻後、俺は一冊の分厚い文献を広げ、声を上げた。そこには、リ・ユエが呟いた音と酷似した文字が記されていた。
『天啓の柱と、その贄』
「『贄』だと…?」
リ・ユエは、静かに俺の隣に立つと、その文字を覗き込んだ。彼の瞳に映る文字は、まるで彼自身の運命を示しているようだった。
「この文献によると、あんたの呪文は、世界を維持するための『盟約』だ。そして、その盟約を結んだ者は、世界の柱となる代わりに、その魂と命を、世界に『贄』として捧げなければならない」
俺はリ・ユエを見上げた。彼の瞳は、絶望的な孤独の色を帯びていた。
「…知っていた。だから、私はこの世界を救う義務があると、諦めていた」
リ・ユエがそう呟くと、彼の周囲の空気が再び重くなる。世界を壊しかねない、不安定な力が渦巻き始めていた。
「待て! まだだ!」
俺は慌てて、古文書のさらに奥のページをめくった。そこには、小さな注釈が付け加えられていた。
『ただし、贄の魂を鎖から解き放つ術が、一つだけ存在する。それは…』
俺は、その注釈に記された、たった一つの可能性を信じ、リ・ユエに告げた。その言葉は、リ・ユエの狂気を一瞬で鎮め、彼の瞳に、初めて希望の光を灯すものだった。
「ここが、この屋敷の『知の要塞』だ」
俺が指し示したのは、シン・ジエン家の広大な私設書庫。壁一面に天井まで届く書架が並び、古びた紙とインクの匂いが満ちている。ゲームでは、悪役令息が主人公を罠にかけるための資料を探す場所だったが、今、俺は全く別の目的でこの場所に立っている。
リ・ユエは無言で書架を見上げた。彼の視線は、背表紙の文字を追うというより、その奥にある空間の歪みを探っているようだった。
「あんたの『鎖』――その呪文に関する手がかりを探す。古代の異能や、この世界の成り立ちについて記された文献があれば、何かヒントがあるはずだ」
俺は袖をまくり上げ、早速書架の奥へ進む。リ・ユエは、その場から動かず、静かに問いかけてきた。
「…君は、本当にこの世界の救済を信じているのか? それとも、私を利用して、破滅を回避しようとしているのか」
その質問に、俺は立ち止まり、振り返った。
「元々は、破滅回避が目的だった。だが、もう違う」
俺は一つ息をつく。
「シン・ジエンの破滅ルートなんて、所詮、ゲームの小さなシナリオだ。あんたが背負っているのは、この世界そのもののバッドエンド。より大きなバッドエンドを前にして、小さな破滅なんてどうでもよくなった」
俺は、一冊の古びた文献を引き抜く。その表紙には、見慣れない象形文字が刻まれていた。
「俺は、システムのエラーを解決するのが仕事だった。そして、あんたは今、世界最大のエラーだ。このエラーを放置したら、俺自身も含めて全てが消える。だから、これは俺自身の生存戦略でもある」
リ・ユエは、俺の言葉にわずかに目を細めた。彼の口元に、微かな笑みが浮かんだように見えたが、すぐに消えた。
「実に論理的だ。私を利用すると、明確に宣言している」
「当然だ。俺には、あんたの狂気的な力を制御する知略しかない。あんたの力と俺の頭脳。それが、この物語をハッピーエンドに導く唯一のチート能力だ」
俺はそう言って、再び書架に向き直る。
「さて、この古文書だ。古代の異能に関する記述がある。リ・ユエ、あんたが能力を使うときに呟く呪文を、もう一度教えてくれないか?」
リ・ユエは、一瞬ためらった後、極めて低い声で、その音を発した。それは、耳慣れない音の連なりだったが、不思議と体の中に響くような振動があった。まるで、この世界の初期設定を呼び出すコマンドのようだった。
俺は、その音を何度も反芻し、古文書の象形文字と照らし合わせていく。シン・ジエンの卓越した頭脳と、前世の俺の分析力が融合し、思考が加速する。
「見つけた」
数刻後、俺は一冊の分厚い文献を広げ、声を上げた。そこには、リ・ユエが呟いた音と酷似した文字が記されていた。
『天啓の柱と、その贄』
「『贄』だと…?」
リ・ユエは、静かに俺の隣に立つと、その文字を覗き込んだ。彼の瞳に映る文字は、まるで彼自身の運命を示しているようだった。
「この文献によると、あんたの呪文は、世界を維持するための『盟約』だ。そして、その盟約を結んだ者は、世界の柱となる代わりに、その魂と命を、世界に『贄』として捧げなければならない」
俺はリ・ユエを見上げた。彼の瞳は、絶望的な孤独の色を帯びていた。
「…知っていた。だから、私はこの世界を救う義務があると、諦めていた」
リ・ユエがそう呟くと、彼の周囲の空気が再び重くなる。世界を壊しかねない、不安定な力が渦巻き始めていた。
「待て! まだだ!」
俺は慌てて、古文書のさらに奥のページをめくった。そこには、小さな注釈が付け加えられていた。
『ただし、贄の魂を鎖から解き放つ術が、一つだけ存在する。それは…』
俺は、その注釈に記された、たった一つの可能性を信じ、リ・ユエに告げた。その言葉は、リ・ユエの狂気を一瞬で鎮め、彼の瞳に、初めて希望の光を灯すものだった。
4
あなたにおすすめの小説
異世界転生した悪役令息にざまぁされて断罪ルートに入った元主人公の僕がオメガバースBLゲームの世界から逃げるまで
0take
BL
ふとひらめいたオメガバースもの短編です。
登場人物はネームレス。
きっと似たような話が沢山あると思いますが、ご容赦下さい。
内容はタイトル通りです。
※2025/08/04追記
お気に入りやしおり、イイねやエールをありがとうございます! 嬉しいです!
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!
椿谷あずる
BL
かつて“災厄の魔導士”と呼ばれ恐れられたゼルファス・クロードは、転生後、平穏に暮らすことだけを望んでいた。
ある日、夜の森で倒れている銀髪の勇者、リアン・アルディナを見つける。かつて自分にとどめを刺した相手だが、今は仲間から見限られ孤独だった。
平穏を乱されたくないゼルファスだったが、森に現れた魔物の襲撃により、仕方なく勇者を連れ帰ることに。
天然でのんびりした勇者と、達観し皮肉屋の魔導士。
「……いや、回復したら帰れよ」「えーっ」
平穏には程遠い、なんかゆるっとした日常のおはなし。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?
水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。
断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。
しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。
これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる