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第15話 カタブツ中佐と踊る文字、そして月蝕の夜
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カレルの不吉な警告を胸に刻み、私はヴォルフガング中佐への接触方法を慎重に練り直した。直接会うのは、あまりにもリスクが高い。特に「正体がバレかけている」となれば、なおさらだ。
「ミラベル、お願いがあるの。絶対に追跡されたり、筆跡から身元が割れたりしない、特殊なインクで手紙を書いてほしいの」
私の無茶なお願いに、ミラベルは一瞬目を丸くしたが、すぐに「お任せください、花季様!」と錬金術師の血を騒がせた。そして数時間後、彼女が差し出したのは、見た目は普通のインク壺に入った、瑠璃色の液体だった。
「『踊る妖精のインク(試作品)』です! これで書いた文字は、しばらくすると勝手に踊り出して、元の筆跡が分からなくなるんです! …ただ、たまに、書いた覚えのないメッセージが追加されることが…」
「…もう、その『たまに』が怖すぎるのよ、あなたは!」
ツッコミを入れつつも、他に手段はない。私はそのインクで、極めて簡潔な手紙を書いた。『月蝕の夜、王家の至宝に危機迫る。詳細は明朝、東地区の廃教会にて。紅灯区の情報屋 花季より』と。これをリナに託し、守備隊の信頼できる(とリナが判断した)下級兵士経由で、ヴォルフガング中佐の元へ届けてもらう手筈を整えた。…どうか、変なメッセージが追加されませんように!
翌朝、私はミラベル特製の『誰にも気づかれない☆地味変装セット(帽子を深くかぶると本当に誰だか分からなくなるが、視界もほぼゼロになる欠点あり!)』で身を固め、廃教会へと向かった。帽子のつばをギリギリまで下げ、視界の端で周囲を警戒する。
廃教会の祭壇の前に、約束通りヴォルフガング中佐は一人で現れた。腕を組み、厳しい表情で私を待っている。その佇まいは、まさにカタブツそのものだ。
「…貴様が、"花季"か」
低い、威圧するような声。私は帽子のつばを僅かに上げ、彼と視線を合わせた(つもり)。
「いかにも。お忙しい中、お越しいただき感謝いたします、ヴォルフガング中佐」
「回りくどい挨拶は不要だ。単刀直入に聞く。昨夜の手紙、一体何事か。王家の至宝に危機とは? そして、貴様の正体は何だ」
矢継ぎ早の質問。やはり、簡単には信用してくれそうにないわね。
私は冷静に、しかし言葉を選びながら、〇〇侯爵派閥の残党による月蝕の夜の襲撃計画、狙いが宝物庫の「王家の至宝」であること、そしてカレルから(情報源は濁したが)得た情報を説明した。武器密輸の件や、貴族会議での一連の出来事についても触れ、彼らが追い詰められているからこそ、暴挙に出る可能性が高いことを強調する。
ヴォルフガング中佐は、私の話を黙って聞いていたが、その表情は険しいままだった。
「一介の情報屋が、なぜそこまでの情報を知り得る? 貴様が提示する『証拠』とやらは、どこにある?」
「証拠は、これまでの私の行動と、中佐ご自身が掴んでいる情報の中にあります。そして…これですわ」
私は懐から、ミラベルが徹夜で(またしても!)まとめてくれた資料を取り出した。それは、例の心霊写真付き帳簿の写し(心霊部分は丁寧に修正済み!)、武器密輸のルート図(ミラベルの独特な画風で描かれている)、そして、襲撃犯の予測侵入経路(これもミラベル画。なぜか可愛らしい動物の足跡で示されている)だった。
ヴォルフガング中佐は、その奇妙な資料を怪訝な顔で受け取り、まじまじと見つめている。特に、動物の足跡で描かれた侵入経路図を前にして、彼の眉間の皺が深くなった気がする。
「…ふざけているのか?」
「いいえ、大真面目ですわ。これらの情報は、命がけで掴んだものです。信じるか信じないかは、中佐のご判断にお任せいたします。ですが、もしこの情報が真実だった場合、手をこまねいていては王都が…いえ、この国が危機に瀕します」
私は彼の正義感に訴えかける。彼がカタブツであればあるほど、国への忠誠心は篤いはずだ。
しばらくの沈黙の後、ヴォルフガング中佐は重々しく口を開いた。
「…貴様の言う襲撃計画、そして武器密輸の件については、私自身も内偵を進めていた。貴様の情報は、確かに私の掴んでいるいくつかの事実と符合する。…そして、守備隊内部にも、不審な動きをする者がいることも、薄々気づいてはいた」
彼の言葉に、私は息を呑んだ。カレルの警告は、やはり正しかったのだ。
「よかろう、"花季"。貴様の情報を信じる。だが、これは正式な協力関係ではない。あくまで、利害の一致による一時的な共同戦線と心得よ。そして、もしこれが偽りであった場合、貴様には厳罰が下ることを覚悟しておけ」
「…感謝いたします。その覚悟はできておりますわ」
こうして、私とヴォルフガング中佐の間に、秘密の(そして綱渡りのような)協力関係が結ばれた。すぐに私たちは、襲撃計画の全貌を解明するための情報交換を行った。中佐からもたらされた守備隊内部の情報(宝物庫周辺の正規の警備配置図、最近リストアップされた要注意人物のリストなど)は、私の情報を補強し、襲撃犯の侵入ルートや規模(やはり数十名規模、中には手練れの傭兵も含まれているらしい)をより具体的に特定するのに役立った。
奴らの狙いは、やはり宝物庫に眠る「王家の初代国王が使ったとされる伝説の聖剣」。それを奪い、新たな王を擁立し、その権威付けに利用するつもりなのだろう。なんとも古臭いが、それ故に民衆を扇動しやすい計画だ。
隠れ家に戻り、ミラベル、そしてリナ(彼女も何か手伝いたいと志願してくれたのだ)と共に、ヴォルフガング中佐(彼も変装してこっそり隠れ家を訪れた! カタブツのくせに意外と大胆ね!)を交えての最終作戦会議が開かれた。
宝物庫周辺に罠を張り、襲撃犯を待ち伏せ、一網打尽にする。これが基本方針だ。
ミラベルは「任せてください! 『一網打尽☆ねばねばネットランチャー(改良版・今度はちゃんと狙ったところに飛ぶはず!)』と、『びっくり箱式☆強力催眠ガス噴射装置(今回は無臭!でも効果は3倍!)』で、ネズミ一匹逃しません!」と、相変わらずのネーミングセンスで意気込む。ヴォルフガング中佐は、その発明品(の設計図)を見て、言葉を失っていた。…心中お察しするわ。
作戦準備が進む中、カレルの「お前の正体、そろそろバレかけてるぜ」という言葉が、私の頭の中で何度も繰り返される。ヴォルフガング中佐も、時折、探るような目で私を見ている。彼は、私の正体にどこまで気づいているのだろうか…。
そして、ついに月蝕の夜がやってきた。
空には、赤黒く欠けた月が、まるで血を吸ったかのように不気味な光を放っている。王都は異様な静寂に包まれ、それがかえって嵐の前の静けさを思わせた。
私とミラベル、そしてヴォルフガング中佐と彼が選抜した信頼できる数名の部下たちは、王宮の宝物庫周辺に配置につき、息を潜めて敵の到着を待つ。
リナは、万が一の際の外部との連絡役と、庶民街の仲間たちへの避難勧告(もしもの時のために)という重要な役目を担ってくれている。
私はミラベル特製『気合一発☆覚醒ドリンク(改訂版・飲むと3時間眠れないのは変わらないが、視界のキラキラが星屑レベルにアップ!副作用で鼻歌を歌いたくなる)』をぐいっと飲み干し、懐に隠した短剣の柄を強く握りしめた。
最後の戦いが、今、始まろうとしていた。
(第15話 了)
「ミラベル、お願いがあるの。絶対に追跡されたり、筆跡から身元が割れたりしない、特殊なインクで手紙を書いてほしいの」
私の無茶なお願いに、ミラベルは一瞬目を丸くしたが、すぐに「お任せください、花季様!」と錬金術師の血を騒がせた。そして数時間後、彼女が差し出したのは、見た目は普通のインク壺に入った、瑠璃色の液体だった。
「『踊る妖精のインク(試作品)』です! これで書いた文字は、しばらくすると勝手に踊り出して、元の筆跡が分からなくなるんです! …ただ、たまに、書いた覚えのないメッセージが追加されることが…」
「…もう、その『たまに』が怖すぎるのよ、あなたは!」
ツッコミを入れつつも、他に手段はない。私はそのインクで、極めて簡潔な手紙を書いた。『月蝕の夜、王家の至宝に危機迫る。詳細は明朝、東地区の廃教会にて。紅灯区の情報屋 花季より』と。これをリナに託し、守備隊の信頼できる(とリナが判断した)下級兵士経由で、ヴォルフガング中佐の元へ届けてもらう手筈を整えた。…どうか、変なメッセージが追加されませんように!
翌朝、私はミラベル特製の『誰にも気づかれない☆地味変装セット(帽子を深くかぶると本当に誰だか分からなくなるが、視界もほぼゼロになる欠点あり!)』で身を固め、廃教会へと向かった。帽子のつばをギリギリまで下げ、視界の端で周囲を警戒する。
廃教会の祭壇の前に、約束通りヴォルフガング中佐は一人で現れた。腕を組み、厳しい表情で私を待っている。その佇まいは、まさにカタブツそのものだ。
「…貴様が、"花季"か」
低い、威圧するような声。私は帽子のつばを僅かに上げ、彼と視線を合わせた(つもり)。
「いかにも。お忙しい中、お越しいただき感謝いたします、ヴォルフガング中佐」
「回りくどい挨拶は不要だ。単刀直入に聞く。昨夜の手紙、一体何事か。王家の至宝に危機とは? そして、貴様の正体は何だ」
矢継ぎ早の質問。やはり、簡単には信用してくれそうにないわね。
私は冷静に、しかし言葉を選びながら、〇〇侯爵派閥の残党による月蝕の夜の襲撃計画、狙いが宝物庫の「王家の至宝」であること、そしてカレルから(情報源は濁したが)得た情報を説明した。武器密輸の件や、貴族会議での一連の出来事についても触れ、彼らが追い詰められているからこそ、暴挙に出る可能性が高いことを強調する。
ヴォルフガング中佐は、私の話を黙って聞いていたが、その表情は険しいままだった。
「一介の情報屋が、なぜそこまでの情報を知り得る? 貴様が提示する『証拠』とやらは、どこにある?」
「証拠は、これまでの私の行動と、中佐ご自身が掴んでいる情報の中にあります。そして…これですわ」
私は懐から、ミラベルが徹夜で(またしても!)まとめてくれた資料を取り出した。それは、例の心霊写真付き帳簿の写し(心霊部分は丁寧に修正済み!)、武器密輸のルート図(ミラベルの独特な画風で描かれている)、そして、襲撃犯の予測侵入経路(これもミラベル画。なぜか可愛らしい動物の足跡で示されている)だった。
ヴォルフガング中佐は、その奇妙な資料を怪訝な顔で受け取り、まじまじと見つめている。特に、動物の足跡で描かれた侵入経路図を前にして、彼の眉間の皺が深くなった気がする。
「…ふざけているのか?」
「いいえ、大真面目ですわ。これらの情報は、命がけで掴んだものです。信じるか信じないかは、中佐のご判断にお任せいたします。ですが、もしこの情報が真実だった場合、手をこまねいていては王都が…いえ、この国が危機に瀕します」
私は彼の正義感に訴えかける。彼がカタブツであればあるほど、国への忠誠心は篤いはずだ。
しばらくの沈黙の後、ヴォルフガング中佐は重々しく口を開いた。
「…貴様の言う襲撃計画、そして武器密輸の件については、私自身も内偵を進めていた。貴様の情報は、確かに私の掴んでいるいくつかの事実と符合する。…そして、守備隊内部にも、不審な動きをする者がいることも、薄々気づいてはいた」
彼の言葉に、私は息を呑んだ。カレルの警告は、やはり正しかったのだ。
「よかろう、"花季"。貴様の情報を信じる。だが、これは正式な協力関係ではない。あくまで、利害の一致による一時的な共同戦線と心得よ。そして、もしこれが偽りであった場合、貴様には厳罰が下ることを覚悟しておけ」
「…感謝いたします。その覚悟はできておりますわ」
こうして、私とヴォルフガング中佐の間に、秘密の(そして綱渡りのような)協力関係が結ばれた。すぐに私たちは、襲撃計画の全貌を解明するための情報交換を行った。中佐からもたらされた守備隊内部の情報(宝物庫周辺の正規の警備配置図、最近リストアップされた要注意人物のリストなど)は、私の情報を補強し、襲撃犯の侵入ルートや規模(やはり数十名規模、中には手練れの傭兵も含まれているらしい)をより具体的に特定するのに役立った。
奴らの狙いは、やはり宝物庫に眠る「王家の初代国王が使ったとされる伝説の聖剣」。それを奪い、新たな王を擁立し、その権威付けに利用するつもりなのだろう。なんとも古臭いが、それ故に民衆を扇動しやすい計画だ。
隠れ家に戻り、ミラベル、そしてリナ(彼女も何か手伝いたいと志願してくれたのだ)と共に、ヴォルフガング中佐(彼も変装してこっそり隠れ家を訪れた! カタブツのくせに意外と大胆ね!)を交えての最終作戦会議が開かれた。
宝物庫周辺に罠を張り、襲撃犯を待ち伏せ、一網打尽にする。これが基本方針だ。
ミラベルは「任せてください! 『一網打尽☆ねばねばネットランチャー(改良版・今度はちゃんと狙ったところに飛ぶはず!)』と、『びっくり箱式☆強力催眠ガス噴射装置(今回は無臭!でも効果は3倍!)』で、ネズミ一匹逃しません!」と、相変わらずのネーミングセンスで意気込む。ヴォルフガング中佐は、その発明品(の設計図)を見て、言葉を失っていた。…心中お察しするわ。
作戦準備が進む中、カレルの「お前の正体、そろそろバレかけてるぜ」という言葉が、私の頭の中で何度も繰り返される。ヴォルフガング中佐も、時折、探るような目で私を見ている。彼は、私の正体にどこまで気づいているのだろうか…。
そして、ついに月蝕の夜がやってきた。
空には、赤黒く欠けた月が、まるで血を吸ったかのように不気味な光を放っている。王都は異様な静寂に包まれ、それがかえって嵐の前の静けさを思わせた。
私とミラベル、そしてヴォルフガング中佐と彼が選抜した信頼できる数名の部下たちは、王宮の宝物庫周辺に配置につき、息を潜めて敵の到着を待つ。
リナは、万が一の際の外部との連絡役と、庶民街の仲間たちへの避難勧告(もしもの時のために)という重要な役目を担ってくれている。
私はミラベル特製『気合一発☆覚醒ドリンク(改訂版・飲むと3時間眠れないのは変わらないが、視界のキラキラが星屑レベルにアップ!副作用で鼻歌を歌いたくなる)』をぐいっと飲み干し、懐に隠した短剣の柄を強く握りしめた。
最後の戦いが、今、始まろうとしていた。
(第15話 了)
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