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蝕まれし王冠と、世界の真実
第44話 君のいる世界の夜明け
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私が中央システムの制御核に手を触れた瞬間、この世界の全ての「情報」が、奔流となって私の意識へと流れ込んできた!
初代国王の悲壮な覚悟。歴代の王たちが背負ってきた苦痛。人々の喜び、悲しみ、そして、システムの綻びを修正しようとする、冷たい機械的な意志。あまりの情報量に、私の精神は悲鳴を上げ、意識が遠のきそうになる。
『リアナ!』
『花季様!』
『リアナ嬢、しっかりしろ!』
仲間たちの声が、遠ざかる私の意識を必死に繋ぎ止めてくれた。そうだ、私は一人じゃない。私は、情報分析官としての全ての能力を、そして、仲間たちと出会ってから得た全ての想いを、この一瞬に注ぎ込んだ。
(違う…! やり方が、根本的に間違っているのよ!)
この世界のシステムは、発生したバグ(矛盾や歪み)を、王家という単一の「フィルター」に押し付け、濾過することで安定を保ってきた。しかし、そのフィルターは、もう限界だった。
ならば、新しいフィルターを作ればいい? 違う。それでは、また誰かが犠牲になるだけだ。
必要なのは、負荷を一点に集中させることじゃない。システム全体で、その負荷を分散させ、浄化する、新しいサイクルを作ることだ!
私は、転生前の世界で知ったネットワーク理論――分散処理システムの概念を応用し、この世界の魔力循環の“プログラム”そのものを、根底から書き換えようと試みた。それは、この世界の創造主ですら想定していなかったであろう、あまりにも無謀で、大胆な挑戦だった。
その、世界の理に反する行為を、システムは「致命的なエラー」と認識した。
制御核から溢れ出した「影の怪物」が、最後の抵抗として、全ての憎悪と絶望を込めて、無防備な私に襲いかかる!
「リアナ!」
カレルが、傷ついた体で私を庇おうと叫んだ。だが、もう間に合わない!
影の巨大な爪が、私を捉えようとした、まさにその瞬間。
私の前に、静かに、一人の男が立ちはだかった。ノアだった。
「…君の選ぶ結末を、この目で、見てみたくなった」
彼は初めて、ほんの少しだけ、人間らしい皮肉な笑みを浮かべた。
影の爪は、ノアの体を、まるで光を吸い込むように貫いた。彼の体は、その一撃を吸収しながら、足元からゆっくりと、光の粒子となって崩れ始めていく。
「ノア!」
「案ずるな。私は、元々この世界の理の一部だ。本来あるべき場所へ還るだけだ。…だが、君のようなイレギュラーが生み出す未来は、私の計算を遥かに超えている。なかなか、面白そうだ」
「…ありがとう、観測者さん。あなたのことも、決して忘れないわ」
ノアが稼いでくれた、ほんの数秒の時間。
「今よ、ミラベル!」
「はいっ!」
私の合図で、ミラベルが、王都各地に仕掛けていた魔力循環調整装置のスイッチを入れる!
私は、最後の力を振り絞り、新たなプログラムを、世界の心臓部へと流し込んだ!
まばゆいばかりの黄金色の光が、世界の全てを包み込む。
中央システムの水晶の樹は、これまでの冷たい青白い光から、温かな、まるで朝日そのもののような光を放ち始めた。影の怪物は、その光の中に、苦しみではなく、安らぎの表情を浮かべたかのように、溶けて消えていった。
王を縛り付けていた、何百年もの長きにわたる「枷」が、完全に解き放たれた瞬間だった。
――そして、一年後。
季節は巡り、王都カルデアには、再び穏やかな春が訪れていた。
呪いから解放された国王陛下は、すっかり健康を取り戻し、賢君として、より一層民から慕われているという。
紅灯区の一角にある、私の「王都情報調査官・紅灯区支部」――かつての隠れ家では、温かな日差しの下、ささやかなお茶会が開かれていた。
「それにしても、ミラベル殿の発明された『ピコピコハンマー』が、まさか王宮警備隊に試験採用されるとはな…。私の戦術理論が、根底から覆されそうだ…」
ヴォルフガング中佐が、こめかみを押さえながら、しみじみと呟く。彼の表情は、一年前より、ずっと柔らかくなった。
「えへへ、次は『自動でお茶を淹れてくれる☆ゴーレムメイドさん(たまに紅茶とスープを間違える)』を開発中なんです!」
王宮筆頭の若き天才錬金術師となったミラベルは、相変わらずの発明で、皆を笑顔に(そして、少しだけ不安に)させている。
「あら、カレルさん。また私のお菓子を盗み食いしましたね?」
艶楼の仕事の傍ら、私たちの活動を支えてくれるリナが、悪戯っぽくカレルの手を叩く。
「へっ、早い者勝ちだぜ」
カレルは、すっかり傷も癒え、以前にも増して飄々とした態度で、しかし、その瞳には確かな光を宿して、そこにいた。過去の呪縛から解放された彼は、自由な情報屋として、時々ふらりと、この私たちの「居場所」に帰ってくる。
夜。
私は、公爵令嬢として、王宮で開かれた夜会に出席していた。胸には、エスターニアの若き女王リリアーナから贈られた、黒百合のブローチが輝いている。
夜会の喧騒を抜け出し、一人、バルコニーで王都の夜景を見下ろす。無数の家々の窓から漏れる、温かな光。その一つ一つに、守るべき人々の暮らしがある。
「――いい夜だな」
いつの間にか、隣にカレルが立っていた。彼は、どこで手に入れたのか、上等な貴族の服を、それなりに着こなしている。
「ええ、本当に。…結局、世界の真実も、私がなぜここにいるのかも、完全には分からなかったけれど」
「だが、分かったこともあるだろ?」
カレルは、私の手を取り、その指を優しく絡めた。
「お前がいて、俺がいて、ミラベルやカタブツ中佐がいる。俺たちには、この世界で、生きていく理由がある。…それだけで、十分すぎるくらいだ」
彼の言葉に、私は静かに頷く。
そうだ。私がなぜここに生まれたのか、その答えはもう、どうでもいい。
大切なのは、この世界で誰と出会い、何を成し、そして、どう生きていくかだ。
「さあ、次の仕事は何だ? 我らが誇る、"令嬢スパイ"様」
カレルが、悪戯っぽく笑いかける。
私は、彼の隣で、満天の星空を見上げた。
「ふふ、そうね。退屈している暇は、当分なさそうだわ」
二人の影は、王都の煌めく夜景の中に、いつまでも、寄り添うように佇んでいた。
偽りの仮面を被り、真実を暴く、私の物語。
それは、ここで一つの終わりを告げ、そして、かけがえのない仲間たちと共に歩む、新たな未来のプレリュード(前奏曲)となって、どこまでも続いていくのだろう。
初代国王の悲壮な覚悟。歴代の王たちが背負ってきた苦痛。人々の喜び、悲しみ、そして、システムの綻びを修正しようとする、冷たい機械的な意志。あまりの情報量に、私の精神は悲鳴を上げ、意識が遠のきそうになる。
『リアナ!』
『花季様!』
『リアナ嬢、しっかりしろ!』
仲間たちの声が、遠ざかる私の意識を必死に繋ぎ止めてくれた。そうだ、私は一人じゃない。私は、情報分析官としての全ての能力を、そして、仲間たちと出会ってから得た全ての想いを、この一瞬に注ぎ込んだ。
(違う…! やり方が、根本的に間違っているのよ!)
この世界のシステムは、発生したバグ(矛盾や歪み)を、王家という単一の「フィルター」に押し付け、濾過することで安定を保ってきた。しかし、そのフィルターは、もう限界だった。
ならば、新しいフィルターを作ればいい? 違う。それでは、また誰かが犠牲になるだけだ。
必要なのは、負荷を一点に集中させることじゃない。システム全体で、その負荷を分散させ、浄化する、新しいサイクルを作ることだ!
私は、転生前の世界で知ったネットワーク理論――分散処理システムの概念を応用し、この世界の魔力循環の“プログラム”そのものを、根底から書き換えようと試みた。それは、この世界の創造主ですら想定していなかったであろう、あまりにも無謀で、大胆な挑戦だった。
その、世界の理に反する行為を、システムは「致命的なエラー」と認識した。
制御核から溢れ出した「影の怪物」が、最後の抵抗として、全ての憎悪と絶望を込めて、無防備な私に襲いかかる!
「リアナ!」
カレルが、傷ついた体で私を庇おうと叫んだ。だが、もう間に合わない!
影の巨大な爪が、私を捉えようとした、まさにその瞬間。
私の前に、静かに、一人の男が立ちはだかった。ノアだった。
「…君の選ぶ結末を、この目で、見てみたくなった」
彼は初めて、ほんの少しだけ、人間らしい皮肉な笑みを浮かべた。
影の爪は、ノアの体を、まるで光を吸い込むように貫いた。彼の体は、その一撃を吸収しながら、足元からゆっくりと、光の粒子となって崩れ始めていく。
「ノア!」
「案ずるな。私は、元々この世界の理の一部だ。本来あるべき場所へ還るだけだ。…だが、君のようなイレギュラーが生み出す未来は、私の計算を遥かに超えている。なかなか、面白そうだ」
「…ありがとう、観測者さん。あなたのことも、決して忘れないわ」
ノアが稼いでくれた、ほんの数秒の時間。
「今よ、ミラベル!」
「はいっ!」
私の合図で、ミラベルが、王都各地に仕掛けていた魔力循環調整装置のスイッチを入れる!
私は、最後の力を振り絞り、新たなプログラムを、世界の心臓部へと流し込んだ!
まばゆいばかりの黄金色の光が、世界の全てを包み込む。
中央システムの水晶の樹は、これまでの冷たい青白い光から、温かな、まるで朝日そのもののような光を放ち始めた。影の怪物は、その光の中に、苦しみではなく、安らぎの表情を浮かべたかのように、溶けて消えていった。
王を縛り付けていた、何百年もの長きにわたる「枷」が、完全に解き放たれた瞬間だった。
――そして、一年後。
季節は巡り、王都カルデアには、再び穏やかな春が訪れていた。
呪いから解放された国王陛下は、すっかり健康を取り戻し、賢君として、より一層民から慕われているという。
紅灯区の一角にある、私の「王都情報調査官・紅灯区支部」――かつての隠れ家では、温かな日差しの下、ささやかなお茶会が開かれていた。
「それにしても、ミラベル殿の発明された『ピコピコハンマー』が、まさか王宮警備隊に試験採用されるとはな…。私の戦術理論が、根底から覆されそうだ…」
ヴォルフガング中佐が、こめかみを押さえながら、しみじみと呟く。彼の表情は、一年前より、ずっと柔らかくなった。
「えへへ、次は『自動でお茶を淹れてくれる☆ゴーレムメイドさん(たまに紅茶とスープを間違える)』を開発中なんです!」
王宮筆頭の若き天才錬金術師となったミラベルは、相変わらずの発明で、皆を笑顔に(そして、少しだけ不安に)させている。
「あら、カレルさん。また私のお菓子を盗み食いしましたね?」
艶楼の仕事の傍ら、私たちの活動を支えてくれるリナが、悪戯っぽくカレルの手を叩く。
「へっ、早い者勝ちだぜ」
カレルは、すっかり傷も癒え、以前にも増して飄々とした態度で、しかし、その瞳には確かな光を宿して、そこにいた。過去の呪縛から解放された彼は、自由な情報屋として、時々ふらりと、この私たちの「居場所」に帰ってくる。
夜。
私は、公爵令嬢として、王宮で開かれた夜会に出席していた。胸には、エスターニアの若き女王リリアーナから贈られた、黒百合のブローチが輝いている。
夜会の喧騒を抜け出し、一人、バルコニーで王都の夜景を見下ろす。無数の家々の窓から漏れる、温かな光。その一つ一つに、守るべき人々の暮らしがある。
「――いい夜だな」
いつの間にか、隣にカレルが立っていた。彼は、どこで手に入れたのか、上等な貴族の服を、それなりに着こなしている。
「ええ、本当に。…結局、世界の真実も、私がなぜここにいるのかも、完全には分からなかったけれど」
「だが、分かったこともあるだろ?」
カレルは、私の手を取り、その指を優しく絡めた。
「お前がいて、俺がいて、ミラベルやカタブツ中佐がいる。俺たちには、この世界で、生きていく理由がある。…それだけで、十分すぎるくらいだ」
彼の言葉に、私は静かに頷く。
そうだ。私がなぜここに生まれたのか、その答えはもう、どうでもいい。
大切なのは、この世界で誰と出会い、何を成し、そして、どう生きていくかだ。
「さあ、次の仕事は何だ? 我らが誇る、"令嬢スパイ"様」
カレルが、悪戯っぽく笑いかける。
私は、彼の隣で、満天の星空を見上げた。
「ふふ、そうね。退屈している暇は、当分なさそうだわ」
二人の影は、王都の煌めく夜景の中に、いつまでも、寄り添うように佇んでいた。
偽りの仮面を被り、真実を暴く、私の物語。
それは、ここで一つの終わりを告げ、そして、かけがえのない仲間たちと共に歩む、新たな未来のプレリュード(前奏曲)となって、どこまでも続いていくのだろう。
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