汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈

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第9話 女神(ポンコツ新人)の初仕事と、プロの矜持

 翌朝、私がプライベートゲートを抜けると、女神アストライアは昨日とまったく同じ場所に、石像のように佇んでいた。
 その手には、私が置いていった作業日報が、まるで聖典のように固く握りしめられている。

『あ、アカリ様! おはようございます! 本日の業務、開始ですね!』

 その瞳は、昨日までの絶望の色ではなく、新入社員のような、どこか場違いなやる気に満ちていた。
 …少し、いや、かなり面倒くさい予感がする。

「ええ、定時ですので。本日はエリアA-2、通称『アンブロシアの濁流』地帯の浄化作業を行います」
『はい! それで、わたくしめには、何かお手伝いできることは…!?』

 キラキラとした期待の眼差し。
 私は一瞬、こめかみがピクッと動くのを感じた。
 プロの現場に、素人は不要。それが私の信条だ。ましてや、この女神は、汚部屋を千年放置した筋金入りのズボラなのだ。手伝わせて、事態が悪化しない保証がどこにある。

「クライアント様は、クライアント様でいてくださるのが一番です。お気持ちだけ」
『そ、そんな! わたくしも、この奇跡を、この手で…! アカリ様のようなプロのお仕事を、間近で学びたいのです! お願いします!』

 必死に食い下がってくるアストライア。
 ここで断固拒否して、一日中「手伝わせてください」とまとわりつかれるのと、何か簡単な作業を言いつけて黙らせるのと、どちらが効率的か。
 私は脳内で素早く損益計算を行った。

「……はぁ。わかりました。では、一つだけ、特別に研修を兼ねた作業をお任せします」

 私はアイテムボックスから、先日「迷惑料」として受け取った秘宝の数々を取り出し、床に並べた。

「ここに、神界の秘宝があります。これを、『キラキラしているもの』と『そうでもないもの』の二種類に仕分ける。これが、本日のあなたの業務です。以上」
『し、仕分け…でありますか!』
「ええ。ただし、許可なく作業エリアに侵入したり、機材に触れたりした場合は、即刻クビ…いえ、契約内容の見直しを検討しますので、そのつもりで」

 釘を刺すと、アストライアは『はいっ!』と、人生で一番良い返事をして、お宝の山へと向かっていった。
 ふぅ、と息をつく。これで少しは、静かに作業ができるだろう。

 私は気を取り直し、本日の現場――アンブロシアの濁流跡へと向かった。
 神々の飲み物であるアンブロシアが、長い年月をかけて発酵し、床にべったりとこびりついている。しかも、ただの汚れではない。糖分が魔力と結合し、小さな『シュガー・ゴーレム』となって、うごめいていた。

「なるほど、第二形態ってわけね」

 キタナギツネより、明らかに厄介そうだ。
 私はマジカルモップを構え、まずは一体に浄化液を噴射した。ジュッと音を立て、ゴーレムの体が溶け始める。だが、完全に消滅する前に、他のゴーレムが仲間を助けようと、ねちゃねちゃとした腕を伸ばしてきた。

「連携までしてくるとは…! 面白い!」

 私の闘争心に火が付いた。
 左手に持ったブラシで敵の攻撃をいなし、右手のモップで的確に弱点を突く。まるで、ダンスを踊るように、私は次々とシュガー・ゴーレムを無力化し、床から完全に除去していく。

 作業に没頭していると、ふと、背後から視線を感じた。
 振り返ると、アストライアが、仕分け作業もそっちのけで、うっとりとした表情で私の「お仕事」に見惚れていた。

『すごい…アカリ様の動き、まるで戦乙女(ヴァルキリー)のようです…! 一点の無駄もない、究極の機能美…!』

 その手元では、「キラキラしているもの」の山に、どう見てもくすんだ色の石が混じっている。…まあ、いいか。

 小一時間ほどで、アンブロシアの川は完全に浄化され、床は元の輝きを取り戻した。
 額の汗を拭い、私は自分の仕事に満足げに頷く。

「よし。次は…」

 ふと、マジカルモップの先端に、ゴーレムの粘液がわずかにこびりついているのに気がついた。
(この粘着性…もう少し、ブラシの毛先を硬質化させるアタッチメントがあれば、もっと効率が上がるな)
 私は頭の中に新しい設計図を描き、後でジルドンへの「発注書」を書くことを心に決めた。

 その日の作業を終え、私が日報を書き上げていると、アストライアが自分の「成果」を、もじもじしながら差し出してきた。

『あ、あの…本日の業務、完了しました…!』
「…拝見します」

 二つの山は、まあ、素人目に見ても仕分けが甘かった。だが、彼女なりに一生懸命やったのだろう。
 私はペンで日報に追記する。「研修項目:仕分け作業。評価:可」。

「…及第点です。明日のあなたの業務は、今日の続きと、この聖域内の床の乾拭きです」
『か、乾拭き! ステップアップしました!』

 大げさに喜ぶ女神を尻目に、私はプライベートゲートへと向かう。
 去り際に、ちらりと振り返る。
 アストライアは、一人、広くなった清浄な空間に佇み、そっと、磨き上げられた大理石の壁に触れていた。
 その横顔は、ただのダメな女神ではなく、自分の「家」の温かさを、初めて知った少女のようにも見えた。

(……まあ、ほんの少しだけ、ほんの少しだけ、見込みはある、のかも)

 そんなことを思いながら、私はダンジョンの我が家へと帰還した。
 明日のログインボーナスは、何だろうか。そんなことを考えるのが、最近の私のささやかな楽しみになっていた。
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