汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈

文字の大きさ
20 / 54

第20話 汚れの迷宮(ダンジョン)と、壊れた番人(おそうじゴーレム)

 廃工場の内部は、外から見た以上の、まさに「汚れの迷宮」だった。
 ひんやりと湿った空気は、鉄錆と、正体不明の化学薬品の匂いが混じり合い、呼吸するだけで気分が悪くなりそうだ。私は即座に、【ケルベロス】のコクピットを密閉し、内部の空気清浄機を最大レベルで稼働させた。

「まずは、進行ルートの確保からですね」

 目の前には、固形化した紫色のヘドロが、まるで川のように道を塞いでいる。
 私は、ケルベロスのアームの一本、高圧洗浄ノズルを展開。ノズルから噴射されたのは、ただの水ではない。私が調合した、特殊なヘドロ分解剤だ。

 シュゴオオオオッ!

 高圧で噴射された分解剤が、頑固なヘドロを、まるでシャーベットのように溶かしていく。すかさず、もう一本のアーム、空間圧縮式バキュームを起動。溶けたヘドロを、残らず吸い上げていく。
 数分後、そこには、本来のコンクリートの床へと続く、一本の綺麗な道が出来上がっていた。

「ふん。汚染レベルC+、といったところですか」

 私が冷静に分析しながら進んでいくと、今度は壁や天井の配管から、スモッグ・ビーストたちが、ぬるり、と姿を現した。工場内部の瘴気を吸っているせいか、外にいた個体より一回り大きく、動きも俊敏だ。

 だが、ケルベロスの前では、ただのホコリの塊に過ぎない。
 私は、三本目のアーム、超高速回転ポリッシャーを起動。その回転が生み出す風圧と浄化作用で、スモッグ・ビーストたちを、近づくことすら許さずに分解・消滅させていく。
 戦いではない。あくまで、害虫駆除だ。

 その様子は、アストライアが展開した魔力スクリーンを通じて、後方の騎士団長たちにも中継されていた。

『なんと…! あの密集した魔物の群れを、一切危なげなく…! 一種の集団制圧術として、完璧ではないか!』
『違う、騎士団長! あれは戦闘ではない! 汚染物質の構造的脆弱性を突き、最小の魔力で連鎖的に分解しているのだ! あの効率! あの精度! ああ、なんという応用魔術…いや、もはやこれは、魔術ではない、新たな科学(サイエンス)だ!』

 騎士団長が戦術として、グレンダルが学術として、私の「お掃除」に感嘆の声を上げている。
 私は、そんな彼らの反応など気にも留めず、ただひたすらに、汚染源の中心へと進んでいった。

 やがて、たどり着いたのは、工場の心臓部である、巨大な制御室(コントロールーム)だった。
 無数のケーブルが火花を散らし、壊れた計器類が悲鳴のような音を立てている。そして、その中央。巨大な魔力水晶(マナ・クリスタル)が、禍々しい紫色の光を放っていた。
 そして、そのクリスタルを守るように、一体の巨大なゴーレムが立ちはだかっていた。

 そのゴーレムは、敵意や殺意といったオーラを放っていない。ただ、ひたすらに、悲しげな、そして、どこか歪んだ使命感に満ちていた。

『キケン…キケン…セイジョウナ…カオスヲ…ミダス…ハイジョ…スル…』

 ゴーレムが、歪んだ合成音声で呟くと、その腕から、新たなヘドロを床に撒き散らし始めた。
 攻撃ではない。私が綺麗にした道を、再び「汚そう」としているのだ。

 私は、その行動を見て、全てを理解した。

「なるほどね。あなたは、敵じゃない。…ただ、壊れてしまっているだけなんだ」
『アカリ師匠?』
「あれは、この工場を清潔に保つための、お掃除ゴーレムよ。でも、長年の汚染で、そのプログラムがバグを起こしている。『綺麗』と『汚い』の認識が、完全に反転してしまっているのね」

 私は、ケルベロスの武装を全て収納した。

「アストライア。これより、この現場の責任者(ボス)の、修復(メンテナンス)作業に入ります」

 私はコクピットを開けると、一つのアームだけを起動させた。超高速回転ポリッシャーだ。
 私は、そのアームで、ゴーレムの目の前の床を、一点だけ、ピカピカに磨き上げた。
 すると、ゴーレムは、その輝く床を見て、『ヨゴレ…ハッケン…! ジョキョ…スル!』と、一直線にそこへ向かい、ヘドロを塗りつけようと躍起になる。

 その隙に、私はゴーレムの背後にある、制御盤へと駆け寄った。
 カバーを開けると、そこには、ホコリとススにまみれた、複雑な魔力回路が広がっていた。

「ここね、故障の原因は」

 私は、戦闘用の神具ではなく、腰のポーチから、小さな、精密機器用の清掃キットを取り出した。
 特殊な洗浄液を染み込ませた綿棒で、回路の基盤を優しく拭き上げ、固着したススをエアダスターで吹き飛ばす。そして、最後に、腐食した魔力端子を、導電性の研磨剤で、丁寧に、丁寧に磨き上げた。
 それは、まるで、壊れたアンティーク時計を修理する職人のような、静かで、平和な作業だった。

 全てのメンテナンスを終え、私は、制御盤にあった、一つの赤い『再起動(リブート)』スイッチを、強く押し込んだ。

 瞬間、巨大なゴーレムの動きが、ピタリ、と止まる。
 その全身から放たれていた禍々しいオーラが霧散し、不気味な赤い光が、穏やかな青い光へと変わった。

 ゴーレムは、自分のヘドロにまみれた腕と、周囲の惨状を見下ろし、そして、クリアになった合成音声で、静かに呟いた。

『……システム、再起動。清掃プロトコル、正常化。…工場内汚染レベル、カテゴリーS。危険。…これより、オペレーション・クレンリネスを開始します』

 巨大な番人は、私に深々と一礼すると、向き直り、自らの腕を高圧洗浄ノズルへと変形させ、自分が汚した制御室の床を、勢いよく清掃し始めた。

 私は、その頼もしい後ろ姿を見ながら、満足げに頷いた。
 敵を倒す必要なんてない。
 だって、わたくしは、プロの清掃員。
 汚れているものは、綺麗にすればいい。壊れているものは、直せばいい。
 ただ、それだけのことなのだから。
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結