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第30話 環境デザインという名の大掃除
私の号令と共に、【ケルベロス】のアームが、超振動粒子(バイブロ・パーティクル)ソーへと換装された。
それは、刃物ではない。高周波で振動する魔力の刃が、対象物を分子レベルで「切断」するのではなく、「分離」させる、究極の整地ツールだ。
「これより、エリア全体の剪定(せんてい)と、区画整理(ゾーニング)を開始します」
私は、ケルベロスの操縦席で、魔法の石板(タブレット)に表示された、自らがデザインした完成予想図を確認する。
そして、ケルベロスを、生命力が暴走するジャングルの奥深くへと進ませた。
ブゥン、と低い駆動音を立てて、ソーが起動する。
暴れるように生い茂っていた魔植物の群れが、ケルベロスの前では、まるで柔らかいバターのように、スッ、スッと、切り分けられていく。
私は、ただ闇雲に木々を伐採するのではない。
「この丘は、なだらかな曲線を描くように」「ここには、将来、小川が流れるための水路を」「この区画は、日当たりを確保して、広場にしよう」
頭の中の設計図に基づき、私は、大地そのものを、巨大な彫刻のように、削り、整え、デザインしていく。
その、あまりに創造的な「整地」作業を、後方のスクリーンで見ていた者たちは、もはや言葉もなかった。
『す、すごい…! 師匠は、ただ森を切り開いているのではない…! 新しい景観を、ゼロから創造しているのだ! これは、戦術的整地術と、神の領域の箱庭デザインの融合…!』
「…美しい」
騎士団長が、ぽつりと呟いた。
彼には、アカリが作り出す、なだらかな丘や、見晴らしの良い広場が、完璧な防衛陣地にも、民が憩う平和な公園にも見えていた。
「…いや、待て! あのソーの切断面! 魔力の流出が、完全に停止している! あれは、切断と同時に、植物の魔力循環系を自己修復させているのか!? なんという芸当だ…!」
グレンダルは、もはや学術的な興奮のあまり、地面に蹲って数式を書きなぐり始めている。
数時間が経過し、混沌のジャングルは、見通しの良い、なだらかな丘陵地帯へと姿を変えた。
だが、私の仕事は、まだ半分も終わっていない。
「ハードウェアの整備は完了。次は、ソフトウェアのインストールです」
私は、ケルベロスのアームを、次のアタッチメントへと換装した。
ジルドンが、私の無茶な要求に見事に応えてくれた、【プログラム式・種子散布機(プログラマブル・シードスプレイヤー)】だ。
「アストライア」
『は、はい、師匠!』
「例のものは?」
『もちろんです! 神界の庭園から、極秘に拝借してまいりました! 『星屑のユリ』と『月光の苔』の種子です!』
アストライアが、誇らしげに差し出した、神々しい輝きを放つ種子を受け取り、散布機のタンクに充填する。
私は、再びタブレットを操作し、土壌の魔力データに合わせて、どの場所に、どの種子を、どれくらいの密度で撒くか、緻密なプログラムを組んでいく。
「散布、開始」
ケルベロスが、静かに丘陵地帯を走り回り、その背後から、美しい光の粒子となった種子が、大地へと優しく降り注いでいった。
そして、最後の仕上げ。
生態系に、命の源である「水」を与える。
私は、地脈ソナーが特定した、地下水脈が最も浅い地点を指し示した。
「騎士団長」
「はっ!」
「あそこです。あの地点の岩盤を、あなたの、最も威力のある一撃で、打ち砕いてください。ただし、衝撃が深層の地脈に影響を与えぬよう、一点集中の、精密な攻撃を」
「…御意! 我らルミナ騎士団の、誇りにかけて!」
それは、アカリが、初めて彼らに託した、重要な「仕事」だった。
騎士団長は、配下の最強の騎士たちと共に、指定された地点へと向かう。
そして、全員の力を一つに合わせた、渾身の一撃を、大地へと叩き込んだ。
ゴッッ…! と、地響きが轟く。
次の瞬間。
乾いた大地が割れ、そこから、清らかで、豊かな水が、勢いよく噴き出した。
水は、私がケルベロスで掘り進めておいた水路を、まるで定められた運命のように流れ、あっという間に、一本の美しい小川を形成していった。
その、清らかな水を合図にするかのように。
大地に撒かれた神々の種子が、一斉に、穏やかな光と共に芽吹き始めた。
暴走ではない。健やかで、穏やかで、調和の取れた、生命の息吹。
真っ白な不毛の大地は、わずか一日で、緑の丘と、せせらぎと、星屑のように輝く花々が咲き誇る、美しい公園へと、完全に生まれ変わったのだ。
私は、その光景を見下ろせる丘の上に、いつものリクライニングチェアを設置し、満足げにハーブティーを一口飲んだ。
隣には、言葉を失って、ただ、目の前の美しい故郷の姿を見つめる、騎士団長とグレンダル、そして、涙ぐむアストライアがいた。
「廃棄物処理、土壌改善、インフラ整備、そして、景観デザインと生態系の再構築」
私は、静かに呟く。
「これで、わたくしの仕事は、全ての工程において、完了です。…ええ、完璧にね」
それは、プロの清掃員が、一つの現場をやり遂げた、静かな、しかし、何よりも誇らしい満足感に満ちた呟きだった。
私の長い休日出勤も、ようやく、終わりを告げたのだ。
それは、刃物ではない。高周波で振動する魔力の刃が、対象物を分子レベルで「切断」するのではなく、「分離」させる、究極の整地ツールだ。
「これより、エリア全体の剪定(せんてい)と、区画整理(ゾーニング)を開始します」
私は、ケルベロスの操縦席で、魔法の石板(タブレット)に表示された、自らがデザインした完成予想図を確認する。
そして、ケルベロスを、生命力が暴走するジャングルの奥深くへと進ませた。
ブゥン、と低い駆動音を立てて、ソーが起動する。
暴れるように生い茂っていた魔植物の群れが、ケルベロスの前では、まるで柔らかいバターのように、スッ、スッと、切り分けられていく。
私は、ただ闇雲に木々を伐採するのではない。
「この丘は、なだらかな曲線を描くように」「ここには、将来、小川が流れるための水路を」「この区画は、日当たりを確保して、広場にしよう」
頭の中の設計図に基づき、私は、大地そのものを、巨大な彫刻のように、削り、整え、デザインしていく。
その、あまりに創造的な「整地」作業を、後方のスクリーンで見ていた者たちは、もはや言葉もなかった。
『す、すごい…! 師匠は、ただ森を切り開いているのではない…! 新しい景観を、ゼロから創造しているのだ! これは、戦術的整地術と、神の領域の箱庭デザインの融合…!』
「…美しい」
騎士団長が、ぽつりと呟いた。
彼には、アカリが作り出す、なだらかな丘や、見晴らしの良い広場が、完璧な防衛陣地にも、民が憩う平和な公園にも見えていた。
「…いや、待て! あのソーの切断面! 魔力の流出が、完全に停止している! あれは、切断と同時に、植物の魔力循環系を自己修復させているのか!? なんという芸当だ…!」
グレンダルは、もはや学術的な興奮のあまり、地面に蹲って数式を書きなぐり始めている。
数時間が経過し、混沌のジャングルは、見通しの良い、なだらかな丘陵地帯へと姿を変えた。
だが、私の仕事は、まだ半分も終わっていない。
「ハードウェアの整備は完了。次は、ソフトウェアのインストールです」
私は、ケルベロスのアームを、次のアタッチメントへと換装した。
ジルドンが、私の無茶な要求に見事に応えてくれた、【プログラム式・種子散布機(プログラマブル・シードスプレイヤー)】だ。
「アストライア」
『は、はい、師匠!』
「例のものは?」
『もちろんです! 神界の庭園から、極秘に拝借してまいりました! 『星屑のユリ』と『月光の苔』の種子です!』
アストライアが、誇らしげに差し出した、神々しい輝きを放つ種子を受け取り、散布機のタンクに充填する。
私は、再びタブレットを操作し、土壌の魔力データに合わせて、どの場所に、どの種子を、どれくらいの密度で撒くか、緻密なプログラムを組んでいく。
「散布、開始」
ケルベロスが、静かに丘陵地帯を走り回り、その背後から、美しい光の粒子となった種子が、大地へと優しく降り注いでいった。
そして、最後の仕上げ。
生態系に、命の源である「水」を与える。
私は、地脈ソナーが特定した、地下水脈が最も浅い地点を指し示した。
「騎士団長」
「はっ!」
「あそこです。あの地点の岩盤を、あなたの、最も威力のある一撃で、打ち砕いてください。ただし、衝撃が深層の地脈に影響を与えぬよう、一点集中の、精密な攻撃を」
「…御意! 我らルミナ騎士団の、誇りにかけて!」
それは、アカリが、初めて彼らに託した、重要な「仕事」だった。
騎士団長は、配下の最強の騎士たちと共に、指定された地点へと向かう。
そして、全員の力を一つに合わせた、渾身の一撃を、大地へと叩き込んだ。
ゴッッ…! と、地響きが轟く。
次の瞬間。
乾いた大地が割れ、そこから、清らかで、豊かな水が、勢いよく噴き出した。
水は、私がケルベロスで掘り進めておいた水路を、まるで定められた運命のように流れ、あっという間に、一本の美しい小川を形成していった。
その、清らかな水を合図にするかのように。
大地に撒かれた神々の種子が、一斉に、穏やかな光と共に芽吹き始めた。
暴走ではない。健やかで、穏やかで、調和の取れた、生命の息吹。
真っ白な不毛の大地は、わずか一日で、緑の丘と、せせらぎと、星屑のように輝く花々が咲き誇る、美しい公園へと、完全に生まれ変わったのだ。
私は、その光景を見下ろせる丘の上に、いつものリクライニングチェアを設置し、満足げにハーブティーを一口飲んだ。
隣には、言葉を失って、ただ、目の前の美しい故郷の姿を見つめる、騎士団長とグレンダル、そして、涙ぐむアストライアがいた。
「廃棄物処理、土壌改善、インフラ整備、そして、景観デザインと生態系の再構築」
私は、静かに呟く。
「これで、わたくしの仕事は、全ての工程において、完了です。…ええ、完璧にね」
それは、プロの清掃員が、一つの現場をやり遂げた、静かな、しかし、何よりも誇らしい満足感に満ちた呟きだった。
私の長い休日出勤も、ようやく、終わりを告げたのだ。
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