汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈

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第33話 宣戦布告(スペシャル・クリーニング)と、新たな仕事着(バトルスーツ)

 私の拠点に、かつてないほどの、冷たい静寂が満ちていた。
 それは、私のソロライフがもたらす、心地よい静寂ではない。
 プロフェッショナルが、自らの仕事と、大切なパートナーの誇りを汚された時にだけ発する、絶対零度の怒りの静寂だった。

 画面の向こうで、アストライアが、私のただならぬ雰囲気に、ごくりと喉を鳴らすのが見えた。

『し、師匠…? あの、蒼穹商会の不法投棄の件、わたくしの神名において、厳罰を要求する神託を…!』
「いえ、その必要はありません、アストライア」

 私は、彼女の言葉を、穏やかに、しかし、有無を言わさぬ口調で遮った。

「彼らは、わたくしを怒らせた。…それ以上に、わたくしの仕事を、冒涜した。これは、神の裁きなどという、生温いものでは、到底、足りません」
『え…?』
「新規の依頼(案件)です。クライアントは、蒼穹商会。…依頼内容は、彼らの腐りきった組織体制と、その汚れた経営方針の、完全なる浄化」

 私の言葉に、アストライアは目を白黒させている。

『む、無茶です! 相手は大陸最大手の商会ですよ!? わたくしたちだけで、どうこうできる相手では…!』
「誰が、正面から戦うと言いました?」

 私は、書庫のホログラムディスプレイを起動し、巨大な組織図を映し出した。それは、この数時間で、私が王立大書庫のデータベースからハッキングして抜き出した、蒼穹商会の内部資料だ。

「彼らの“汚職”という名の染み。非効率な“派閥”という名の詰まり。そして、トップに鎮座する“会頭”という名の汚染源。…構造は、神殿のゴミ屋敷や、王都の廃工場と、何ら変わりません。ただ、掃除の仕方が、少し違うだけです」

 私は、アストライアに向き直る。

「あなたは、わたくしの秘書として、商会からの『顧問になってほしい』という、あのふざけた申し出を、正式に受諾してください。そして、初回の会合の日時を取り付ける。それが、あなたの仕事です」
『わ、わたくしが、あの狸オヤジと交渉を!?』
「ええ。わたくしは、あなたの『助手』として、その会合に同行します。口は利きません。ただ、静かに、観察するだけです」

 私の計画に、アストライアは顔を青くしながらも、師匠の「本気の目」を見て、コクコクと頷くしかなかった。

 その夜、私は、ジルドンへと、新たな「神具」の設計図を送った。
 それは、もはや掃除道具ではなかった。

【真実のインク】。帳簿に一滴垂らせば、魔術的に改竄された箇所だけが、赤く浮かび上がる。
【概念的盗聴器】。ペンの形をしたそれは、会話における「嘘」や「欺瞞」が発する、微細な魔力の不協和音を検知する。
 そして――。
 どんな高位の呪詛も、物理的な汚れも、完全に弾く。それでいて、見る者に、絶対的な信頼感と、侵しがたい威圧感を与える、完璧なオーダーメイドの【戦闘用ビジネススーツ】。

 私は、お供え場所に、設計図と共に、ジルドンの傷つけられたハンマーを置いた。
 ただし、それは、私が持つ最高の技術で完璧に修復し、さらに、使い手の疲労を軽減する微弱な神聖魔法を付与しておいた。
 メモを添える。「――次の仕事の、道具です。最高の仕上がりを、期待しています」と。

 数日後。
 ジルドンから届けられたのは、私の想像を遥かに超える、完璧な「仕事着」と「仕事道具」だった。
 滑らかな黒の生地で作られたスーツは、私の体に寸分の狂いもなくフィットし、まるで第二の皮膚のように軽い。それでいて、その防御力は、並の騎士が着る鎧を遥かに凌駕する。

 鏡の前に立った私は、そこに映る自分の姿に、小さく、満足げに頷いた。
 そこにいたのは、ダンジョンに引きこもる、ただのオタク清掃員ではない。
 巨大な悪意に、たった一人で立ち向かう、冷徹で、有能な、プロフェッショナルだった。

 アストライアが手配した、商会との初会合の日。
 彼女が、緊張した面持ちで、私の拠点に設置されたゲートの前に立つ。

「準備はいいですか、秘書」
『は、はい、師匠!…うわっ!』

 ゲートの前に現れた私の姿を見て、アストライアが、素っ頓狂な声を上げた。

『し、師匠!? そのお姿は…! いつもの作業着と、全然…! か、かっこいい…!』
「当然です。仕事ですから。…行きますよ」

 私は、アストライアを促し、蒼穹商会本社ビルへと繋がるゲートを、静かにくぐった。
 その表情に、もはや、いつもの面倒くさそうな色は、ない。

(さて、始めましょうか、業務監査を)

 私の頭の中では、すでに、天文学的な数字の、特別迷惑料と、コンサルティングフィーの請求書が、作成され始めていた。

(いったい、どれだけの追加料金を請求できるか。…楽しみですね)
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