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第48話 仲間(パートナー)のための設計図と、深き道への旅立ち
私の聖域(ライブラリー)は、一夜にして、前代未聞の大プロジェクトのための、騒がしい作戦司令室へと姿を変えた。
とは言っても、騒がしいのは、私の頭の中と、通信の向こう側にいる、私の秘書だけだ。
『師匠! 神界のデータベースを、過去一万年分、遡って調査しました! ですが、『石化の呪い』に、完全に一致する記録は、一件も…! ただ、古代のドワーフ族が、「不滅」を求めて、大地そのものに手を加える、禁断の儀式を行った、という、おとぎ話のような記述が一つだけ…!』
画面の向こうで、アストライアが、山のような資料に埋もれながら、報告してくる。彼女は、今や、ただの秘書ではない。このプロジェクトにおける、情報分析を担う、重要な一員だ。
「結構です。どんな情報も、ないよりはまし。引き続き、調査を。特に、その儀式とやらで使われた、『素材』について、重点的に」
私は、彼女に指示を出しながら、自らは、目の前のホログラムに、新たな「神具」の設計図を描き出すことに、全神経を集中させていた。
今回の現場は、光の届かない、未知の地下空間。そして、敵は、これまでのどんな汚れとも違う、絶対的な「停滞」の呪い。
既存の装備では、話にならない。
「アシスタント。この設計図の、耐圧性能をシミュレート。同時に、地脈ソナーのデータを元に、最適な掘削ルートを、三通り、提示してください」
『御意ニ、マスター。シミュレーションヲ、開始シマス』
私の傍らでは、アーカイビスト・ゴーレムが、私とジルドンの技術を結集させた、新たな探査車――【プロジェクト・モール】の、最終設計を行っている。
そして、部屋の隅では。
リオが、石化した歯車のかけらを前に、腕を組み、唸っていた。
「…くそっ。やっぱ、ダメだ。俺の力は、『在る』ものを『無い』ものにするだけだ。…『在る』けど、『動かない』、この、停滞した状態そのものを、どうこうすることは…」
彼の顔には、初めて見る、プロとしての「壁」にぶつかった、苦悩の色が浮かんでいた。
私は、そんな彼に、一枚の設計図を転送した。
「研修生。いつまで、自分の力だけで、何とかしようとしているのですか」
「あ?」
「プロの仕事は、チームで行うもの。あなたのその大雑把な力を、精密な『針』の先端に集め、撃ち出すための、増幅器(アンプリファイア)です。…あなたの新しい『仕事道具』ですよ」
画面に表示された、音叉のような形をした、複雑な魔導具の設計図。
リオは、それを見て、一瞬、呆然とし、やがて、その口元に、不敵な笑みを浮かべた。
「…へぇ。なるほどな。…俺の、この、クソ面倒な力を、使いこなすための道具、か。…いいじゃねえか」
こうして、私たちのチームは、それぞれの持ち場で、一つの目的のために、動き出した。
アストライアは、情報で。
ゴーレムたちは、分析と、後方支援で。
リオは、自らの力の、新たな可能性で。
そして、私は、その全てを束ね、最適化する、設計と、指揮で。
全ての準備が整った日。
私は、ジルドンへと、【プロジェクト・モール】の完成版の設計図と、チーム全員の、新たな専用装備のデータを、転送した。
報酬の魔晶石は、添えない。
ただ、一言、メッセージを、付け加えた。
――『あなたの家に、行きます。最高の道具と、最高の仲間と、共に』
その夜。
遠く、ジルドンの工房があるであろう山脈の方角が、オーロラのように、七色に、輝いた。
それは、ドワーフ族の伝説の鍛冶師が、自らの魂の、その全てを、炉にくべる時にだけ、見られるという、奇跡の光だった。
言葉はいらない。それが、彼の、最高の「返事」だった。
数日後。
ジルドンが、地図で示してきた、古代の地下道『深き道(ディープ・ロード)』の入り口。
そこに、私たちは、立っていた。
私の前には、ジルドンの魂が宿った、最新鋭の地底探査車【モール】と、私たちの、新たな専用装備一式が、完璧な状態で、届けられていた。
私は、新たな作業着――深部の高圧環境にも耐える、特殊な地底活動用スーツを身にまとう。
リオもまた、背中に、音叉のような増幅器を背負い、その顔つきは、もはや、ただの研修生ではない。一人の、専門家の顔つきだ。
「アストライア。地上との通信は、あなたに、全て任せます。内部の状況は、リアルタイムで、あなたに送る」
『はい、師匠! ご武運を…! いえ、最高の『お仕事』を!』
彼女らしい、激励の言葉に、私は、小さく頷く。
私は、モールの操縦席に乗り込むと、固く閉ざされた、古代の巨大な扉を、見据えた。
この先に、私の、大切なパートナーが、待っている。
そして、彼を苦しめる、史上最も硬質で、最も厄介な「汚れ」が、待ち構えている。
「これより、わたくしたちの、初めての、チームによる『お仕事』を開始します」
私は、静かに、しかし、力強く、宣言した。
「――行きましょう。相棒の、故郷へ」
私の言葉を合図に、モールの、巨大なドリルが、回転を始める。
数千年の沈黙を破り、重々しい音を立てて、古代の扉が、ゆっくりと、開いていった。
その向こうに広がるのは、光の届かない、未知の、暗闇だけだった。
とは言っても、騒がしいのは、私の頭の中と、通信の向こう側にいる、私の秘書だけだ。
『師匠! 神界のデータベースを、過去一万年分、遡って調査しました! ですが、『石化の呪い』に、完全に一致する記録は、一件も…! ただ、古代のドワーフ族が、「不滅」を求めて、大地そのものに手を加える、禁断の儀式を行った、という、おとぎ話のような記述が一つだけ…!』
画面の向こうで、アストライアが、山のような資料に埋もれながら、報告してくる。彼女は、今や、ただの秘書ではない。このプロジェクトにおける、情報分析を担う、重要な一員だ。
「結構です。どんな情報も、ないよりはまし。引き続き、調査を。特に、その儀式とやらで使われた、『素材』について、重点的に」
私は、彼女に指示を出しながら、自らは、目の前のホログラムに、新たな「神具」の設計図を描き出すことに、全神経を集中させていた。
今回の現場は、光の届かない、未知の地下空間。そして、敵は、これまでのどんな汚れとも違う、絶対的な「停滞」の呪い。
既存の装備では、話にならない。
「アシスタント。この設計図の、耐圧性能をシミュレート。同時に、地脈ソナーのデータを元に、最適な掘削ルートを、三通り、提示してください」
『御意ニ、マスター。シミュレーションヲ、開始シマス』
私の傍らでは、アーカイビスト・ゴーレムが、私とジルドンの技術を結集させた、新たな探査車――【プロジェクト・モール】の、最終設計を行っている。
そして、部屋の隅では。
リオが、石化した歯車のかけらを前に、腕を組み、唸っていた。
「…くそっ。やっぱ、ダメだ。俺の力は、『在る』ものを『無い』ものにするだけだ。…『在る』けど、『動かない』、この、停滞した状態そのものを、どうこうすることは…」
彼の顔には、初めて見る、プロとしての「壁」にぶつかった、苦悩の色が浮かんでいた。
私は、そんな彼に、一枚の設計図を転送した。
「研修生。いつまで、自分の力だけで、何とかしようとしているのですか」
「あ?」
「プロの仕事は、チームで行うもの。あなたのその大雑把な力を、精密な『針』の先端に集め、撃ち出すための、増幅器(アンプリファイア)です。…あなたの新しい『仕事道具』ですよ」
画面に表示された、音叉のような形をした、複雑な魔導具の設計図。
リオは、それを見て、一瞬、呆然とし、やがて、その口元に、不敵な笑みを浮かべた。
「…へぇ。なるほどな。…俺の、この、クソ面倒な力を、使いこなすための道具、か。…いいじゃねえか」
こうして、私たちのチームは、それぞれの持ち場で、一つの目的のために、動き出した。
アストライアは、情報で。
ゴーレムたちは、分析と、後方支援で。
リオは、自らの力の、新たな可能性で。
そして、私は、その全てを束ね、最適化する、設計と、指揮で。
全ての準備が整った日。
私は、ジルドンへと、【プロジェクト・モール】の完成版の設計図と、チーム全員の、新たな専用装備のデータを、転送した。
報酬の魔晶石は、添えない。
ただ、一言、メッセージを、付け加えた。
――『あなたの家に、行きます。最高の道具と、最高の仲間と、共に』
その夜。
遠く、ジルドンの工房があるであろう山脈の方角が、オーロラのように、七色に、輝いた。
それは、ドワーフ族の伝説の鍛冶師が、自らの魂の、その全てを、炉にくべる時にだけ、見られるという、奇跡の光だった。
言葉はいらない。それが、彼の、最高の「返事」だった。
数日後。
ジルドンが、地図で示してきた、古代の地下道『深き道(ディープ・ロード)』の入り口。
そこに、私たちは、立っていた。
私の前には、ジルドンの魂が宿った、最新鋭の地底探査車【モール】と、私たちの、新たな専用装備一式が、完璧な状態で、届けられていた。
私は、新たな作業着――深部の高圧環境にも耐える、特殊な地底活動用スーツを身にまとう。
リオもまた、背中に、音叉のような増幅器を背負い、その顔つきは、もはや、ただの研修生ではない。一人の、専門家の顔つきだ。
「アストライア。地上との通信は、あなたに、全て任せます。内部の状況は、リアルタイムで、あなたに送る」
『はい、師匠! ご武運を…! いえ、最高の『お仕事』を!』
彼女らしい、激励の言葉に、私は、小さく頷く。
私は、モールの操縦席に乗り込むと、固く閉ざされた、古代の巨大な扉を、見据えた。
この先に、私の、大切なパートナーが、待っている。
そして、彼を苦しめる、史上最も硬質で、最も厄介な「汚れ」が、待ち構えている。
「これより、わたくしたちの、初めての、チームによる『お仕事』を開始します」
私は、静かに、しかし、力強く、宣言した。
「――行きましょう。相棒の、故郷へ」
私の言葉を合図に、モールの、巨大なドリルが、回転を始める。
数千年の沈黙を破り、重々しい音を立てて、古代の扉が、ゆっくりと、開いていった。
その向こうに広がるのは、光の届かない、未知の、暗闇だけだった。
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