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第51話 静寂の街路と、連携(チームワーク)という名の流儀
私たちが進む『深き道(ディープ・ロード)』は、やがて、巨大な城門へと繋がっていた。
それは、一枚岩から削り出された、あまりに見事な、しかし、完全に石化した門。その前で、私たちの探査車【モール】は、小さな玩具のように見えた。
「…さて、どうしますかね。わたくしのケルベロスでも、これを物理的に破壊するのは、骨が折れそうです」
「だろ? だから、俺の出番だって言ってんだろ」
私の独り言に、隣で、退屈そうに腕を組んでいたリオが、ニヤリと笑う。
彼は、もはや、私の指示を待たない。
自らの役割を、プロとして、完全に理解していた。
「――面倒な『鍵(ロック)』は、最初から、無かったことにする」
リオが、増幅器(アンプファイア)を、門の、巨大な錠前の部分へと向ける。
彼の集中が高まると、錠前を構成していたはずの「施錠されている」という、概念そのものが、掻き消えていく。
ゴゴゴ…と、重々しい音を立てて、数千年、閉ざされていた城門が、ゆっくりと、その口を開いた。
「…まあ、及第点です。行きますよ」
私たちは、ついに、ドワーフの都の、内部へと、足を踏み入れた。
そこは、先ほどまでの道以上に、異様な光景が広がっていた。
広場の中央には、ハンマーを振り上げたままの、石化した鍛冶屋の像。露店には、石化したパンや果物が、今も、並べられている。ベンチでは、石化した恋人たちが、永遠に、寄り添っていた。
それは、人々の営みが、悪意のない、しかし、絶対的な力によって、一瞬で、永遠に、封じ込められた、悲劇の博物館だった。
『なんて…なんて、悲しい街なのでしょう…』
通信機から聞こえる、アストライアの、震える声。
私たちが、その、静寂の街路を進んでいた、その時だった。
ガシャン! ガシャン!
前方の道から、複数の、重い足音が近づいてくる。
現れたのは、五体ほどの、鎧に身を包んだ、ドワーフサイズのゴーレムだった。おそらく、この都の警備兵だろう。
だが、その全身は、不気味な灰色の「石化の呪い」に、まだらに、侵されていた。その瞳には、もはや、理性はなく、ただ、動くもの全てを、敵とみなす、鈍い光だけが宿っていた。
「…『淀みの番人(ブラッド・センチネル)』。石化の呪いに、中途半端に抵抗した結果、その精神が、汚染された成れの果て、ですか」
私は、冷静に分析する。
リオが、舌打ちをした。
「チッ。面倒なのが出てきたな。…おい、アカリ! こいつらも、まとめて、動かなくしてやろうか!?」
「いえ、それは、悪手です」
私は、彼の提案を、即座に、却下した。
「彼らは、もともと、この都を守っていた、誇り高き番人。ただ、病に侵されているだけです。…ならば、わたくしたちの仕事は、彼らを破壊することではない。彼らの『病(汚れ)』を取り除き、本来の姿に戻してあげることです」
「…はっ。あんたらしい、面倒くさいこと、言うじゃねえか」
リオは、呆れたように笑う。だが、その目には、私の「流儀」に対する、完全な理解と、信頼があった。
「――始めますよ。チームでの、お仕事を」
私の号令一下、完璧な連携(チームワーク)が、開始された。
「リオ! 敵の足関節だけを狙い、石化を、一時的に、無効化! 機動力を奪いなさい!」
「へいへい! 『足元の面倒、消えろ』っと!」
リオの力が、番人たちの足元に炸裂。石化の鎧が、一瞬だけ、ただの金属へと戻り、彼らの動きが、ガクン、と、鈍くなる。
「カストディアン、アーカイビスト! 前へ! 動きの鈍った個体を、拘束!」
『御意ニ』
二体のゴーレムが、モールの左右から飛び出し、番人たちへと殺到。その屈強なアームで、暴れる番人たちを、がっしりと、押さえつける。
そして、最後に、私が、動く。
「…わたくしが、あなたの『汚れ』、お掃除します」
私は、ケルベロスのアームを、極細のドリルへと換装。
拘束された番人の、鎧の隙間から、その汚染された動力源――魔力炉心へと、ドリルを、寸分の狂いもなく、挿入する。
そして、内部に溜まった「淀み」だけを、ピンポイントで、吸い出し、浄化していく。
やがて、番人の全身から、禍々しいオーラが消え、その瞳の光が、穏やかな、守護者の青色へと、戻っていった。
彼は、私に、深々と、ドワーフ式の礼をすると、再び、自らの持ち場へと、静かに、戻っていった。
『す、すごい…! 敵を、一人も、傷つけることなく、無力化して、元に戻してしまった…!』
「これが、わたくしたちの、『お掃除』ですので」
アストライアの感嘆の声を、私は、静かに、受け流す。
その時、彼女から、緊急の報告が入った。
『師匠! 日記の記述と、都市の構造データを、照合しました! 全ての道が、やはり、都市の最高地点にある、『王の大溶鉱炉(グランド・フォージ)』へと繋がっています! そして、新たな情報が…! その炉に投じられたという、『星の心臓』。それは、古代の禁忌の遺物(アーティファクト)…。その権能は、『全ての運動エネルギーと魔力エネルギーを、吸収し、絶対的な“静止”へと変える、概念的なブラックホール』だそうです!』
なるほど。この街を覆う「停滞」の、正体。
私は、都市の中央に、ひときわ高く、そして、黒く、そびえ立つ、巨大な塔を、見据えた。
「…どうやら、ラスボスの居場所が、分かりましたね」
私は、モールの操縦桿を、再び、握りしめる。
「行きましょう。全ての元凶が眠る、一番、厄介で、一番、汚れた、あの場所へ」
「わたくしたちの、最高のチームで、最高の『お仕事』を、見せつけて差し上げますよ」
それは、一枚岩から削り出された、あまりに見事な、しかし、完全に石化した門。その前で、私たちの探査車【モール】は、小さな玩具のように見えた。
「…さて、どうしますかね。わたくしのケルベロスでも、これを物理的に破壊するのは、骨が折れそうです」
「だろ? だから、俺の出番だって言ってんだろ」
私の独り言に、隣で、退屈そうに腕を組んでいたリオが、ニヤリと笑う。
彼は、もはや、私の指示を待たない。
自らの役割を、プロとして、完全に理解していた。
「――面倒な『鍵(ロック)』は、最初から、無かったことにする」
リオが、増幅器(アンプファイア)を、門の、巨大な錠前の部分へと向ける。
彼の集中が高まると、錠前を構成していたはずの「施錠されている」という、概念そのものが、掻き消えていく。
ゴゴゴ…と、重々しい音を立てて、数千年、閉ざされていた城門が、ゆっくりと、その口を開いた。
「…まあ、及第点です。行きますよ」
私たちは、ついに、ドワーフの都の、内部へと、足を踏み入れた。
そこは、先ほどまでの道以上に、異様な光景が広がっていた。
広場の中央には、ハンマーを振り上げたままの、石化した鍛冶屋の像。露店には、石化したパンや果物が、今も、並べられている。ベンチでは、石化した恋人たちが、永遠に、寄り添っていた。
それは、人々の営みが、悪意のない、しかし、絶対的な力によって、一瞬で、永遠に、封じ込められた、悲劇の博物館だった。
『なんて…なんて、悲しい街なのでしょう…』
通信機から聞こえる、アストライアの、震える声。
私たちが、その、静寂の街路を進んでいた、その時だった。
ガシャン! ガシャン!
前方の道から、複数の、重い足音が近づいてくる。
現れたのは、五体ほどの、鎧に身を包んだ、ドワーフサイズのゴーレムだった。おそらく、この都の警備兵だろう。
だが、その全身は、不気味な灰色の「石化の呪い」に、まだらに、侵されていた。その瞳には、もはや、理性はなく、ただ、動くもの全てを、敵とみなす、鈍い光だけが宿っていた。
「…『淀みの番人(ブラッド・センチネル)』。石化の呪いに、中途半端に抵抗した結果、その精神が、汚染された成れの果て、ですか」
私は、冷静に分析する。
リオが、舌打ちをした。
「チッ。面倒なのが出てきたな。…おい、アカリ! こいつらも、まとめて、動かなくしてやろうか!?」
「いえ、それは、悪手です」
私は、彼の提案を、即座に、却下した。
「彼らは、もともと、この都を守っていた、誇り高き番人。ただ、病に侵されているだけです。…ならば、わたくしたちの仕事は、彼らを破壊することではない。彼らの『病(汚れ)』を取り除き、本来の姿に戻してあげることです」
「…はっ。あんたらしい、面倒くさいこと、言うじゃねえか」
リオは、呆れたように笑う。だが、その目には、私の「流儀」に対する、完全な理解と、信頼があった。
「――始めますよ。チームでの、お仕事を」
私の号令一下、完璧な連携(チームワーク)が、開始された。
「リオ! 敵の足関節だけを狙い、石化を、一時的に、無効化! 機動力を奪いなさい!」
「へいへい! 『足元の面倒、消えろ』っと!」
リオの力が、番人たちの足元に炸裂。石化の鎧が、一瞬だけ、ただの金属へと戻り、彼らの動きが、ガクン、と、鈍くなる。
「カストディアン、アーカイビスト! 前へ! 動きの鈍った個体を、拘束!」
『御意ニ』
二体のゴーレムが、モールの左右から飛び出し、番人たちへと殺到。その屈強なアームで、暴れる番人たちを、がっしりと、押さえつける。
そして、最後に、私が、動く。
「…わたくしが、あなたの『汚れ』、お掃除します」
私は、ケルベロスのアームを、極細のドリルへと換装。
拘束された番人の、鎧の隙間から、その汚染された動力源――魔力炉心へと、ドリルを、寸分の狂いもなく、挿入する。
そして、内部に溜まった「淀み」だけを、ピンポイントで、吸い出し、浄化していく。
やがて、番人の全身から、禍々しいオーラが消え、その瞳の光が、穏やかな、守護者の青色へと、戻っていった。
彼は、私に、深々と、ドワーフ式の礼をすると、再び、自らの持ち場へと、静かに、戻っていった。
『す、すごい…! 敵を、一人も、傷つけることなく、無力化して、元に戻してしまった…!』
「これが、わたくしたちの、『お掃除』ですので」
アストライアの感嘆の声を、私は、静かに、受け流す。
その時、彼女から、緊急の報告が入った。
『師匠! 日記の記述と、都市の構造データを、照合しました! 全ての道が、やはり、都市の最高地点にある、『王の大溶鉱炉(グランド・フォージ)』へと繋がっています! そして、新たな情報が…! その炉に投じられたという、『星の心臓』。それは、古代の禁忌の遺物(アーティファクト)…。その権能は、『全ての運動エネルギーと魔力エネルギーを、吸収し、絶対的な“静止”へと変える、概念的なブラックホール』だそうです!』
なるほど。この街を覆う「停滞」の、正体。
私は、都市の中央に、ひときわ高く、そして、黒く、そびえ立つ、巨大な塔を、見据えた。
「…どうやら、ラスボスの居場所が、分かりましたね」
私は、モールの操縦桿を、再び、握りしめる。
「行きましょう。全ての元凶が眠る、一番、厄介で、一番、汚れた、あの場所へ」
「わたくしたちの、最高のチームで、最高の『お仕事』を、見せつけて差し上げますよ」
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2020/9/19 第一章終了
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2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結