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第7話-波紋の広がりと不穏な視線-
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美咲と健太がミニダンジョンの恩恵を享受し始めてから、いくつかの「偶然」が重なった。
美咲がバイト先の同僚に勧めた癒し草入りの手作りパックは、いつの間にか「美咲スペシャル」と呼ばれ、密かに人気を集めていた。彼女の肌の劇的な改善を見て、半信半疑だった同僚たちも、興味本位で試してみるようになったのだ。もちろん、美咲は素材の出所については一切明かさなかったが、「どこかで買えるなら欲しい」という声がちらほら聞こえるようになっていた。
一方、健太は、大学のプログラミングコンテストで、驚くべきパフォーマンスを発揮した。彼は、集中木の実を口にした状態で臨み、これまで誰も成し遂げられなかった複雑なアルゴリズムを、制限時間内に完璧に記述して見せたのだ。結果はぶっちぎりの優勝。周囲は彼の才能を再認識したが、中には「鈴木が最近、異様に冴えてる気がする」「何か裏でもあるんじゃないか」と、訝しげな視線を向ける者もいた。
私自身も、無意識のうちに、ミニダンジョンの恩恵を享受していた。風邪をひきそうになった時、ミニダンジョンから採れた「活力の実」を食べれば、翌日にはすっかり体調が回復している。夜遅くまで課題をしても、「安眠の葉」を枕元に置けば、短時間でも熟睡できた。私の体は、以前よりも健康的で、疲れ知らずになっていた。
そんなある日のことだった。
大学の図書館で、参考書を探していた私の視界に、一人の女性が入ってきた。彼女は、私と同じくらいの年齢に見えるが、纏う雰囲気がどこか違っていた。すらりとした体躯に、知的な眼鏡、そして、どこか遠くを見るような、冷たい眼差し。
彼女は、図書館の奥にある「ダンジョン学」の専門書コーナーで、熱心に書物を読み漁っていた。その時、彼女のスマートフォンが鳴り、少し離れた場所にいた私の耳にも、ごく一部の会話が聞こえてきた。
「ええ、はい……。最近、都内の大学で、奇妙な『効果』を持つ物品が出回っているという報告が数件……。詳細については、まだ不明ですが、既存のダンジョン素材とは異なる特性を示している、と」
彼女の声は抑揚がなく、しかし、その内容は私の心臓を強く締め付けた。既存のダンジョン素材とは異なる特性。それは、まさしく私のミニダンジョンからドロップする素材のことではないだろうか。
彼女は電話を終えると、再び書物に目を向けたが、その視線が、ふと、私の方へ向いたような気がした。私は思わず、手にしていた本の陰に身を隠した。気のせいだろうか。
その出来事から数日後、健太が少し興奮した様子で私に連絡してきた。
「花梨、実はさ、うちの研究室に、新しく外部から研究員が来るらしいんだ。なんでも、特殊なダンジョン素材の解析を専門にしている人だってさ」
健太は、ダンジョンの世界に詳しい人間が増えることに純粋な期待を抱いているようだった。しかし、私の胸には、あの図書館の女性の言葉が、重く響いていた。
「特殊なダンジョン素材の解析……?」
「ああ。どうやら、最近、市場に流通しているわけではないが、一部で『異常な効果』を持つ素材が確認されているらしくてな。それを研究するために、うちの大学に来るらしい」
健太の言葉は、私の不安を一層掻き立てた。異常な効果。それは、私のダンジョン素材のことではないか。そして、その研究員が、もしあの図書館の女性だったら……。
私のミニダンジョンが巻き起こす波紋は、小さな日常の範囲を超え、やがて専門家たちの関心を引き寄せるまでになっていたのだ。それは、私が抱え込んだ秘密が、もはや隠し通せるものではないことを示唆しているようだった。
ミニダンジョンは、今も私の部屋の鉢の中に、静かにそこにある。しかし、その存在が、私と友人たちの日常を、大きく揺るがし始めていることを、私は確かに感じていた。
美咲がバイト先の同僚に勧めた癒し草入りの手作りパックは、いつの間にか「美咲スペシャル」と呼ばれ、密かに人気を集めていた。彼女の肌の劇的な改善を見て、半信半疑だった同僚たちも、興味本位で試してみるようになったのだ。もちろん、美咲は素材の出所については一切明かさなかったが、「どこかで買えるなら欲しい」という声がちらほら聞こえるようになっていた。
一方、健太は、大学のプログラミングコンテストで、驚くべきパフォーマンスを発揮した。彼は、集中木の実を口にした状態で臨み、これまで誰も成し遂げられなかった複雑なアルゴリズムを、制限時間内に完璧に記述して見せたのだ。結果はぶっちぎりの優勝。周囲は彼の才能を再認識したが、中には「鈴木が最近、異様に冴えてる気がする」「何か裏でもあるんじゃないか」と、訝しげな視線を向ける者もいた。
私自身も、無意識のうちに、ミニダンジョンの恩恵を享受していた。風邪をひきそうになった時、ミニダンジョンから採れた「活力の実」を食べれば、翌日にはすっかり体調が回復している。夜遅くまで課題をしても、「安眠の葉」を枕元に置けば、短時間でも熟睡できた。私の体は、以前よりも健康的で、疲れ知らずになっていた。
そんなある日のことだった。
大学の図書館で、参考書を探していた私の視界に、一人の女性が入ってきた。彼女は、私と同じくらいの年齢に見えるが、纏う雰囲気がどこか違っていた。すらりとした体躯に、知的な眼鏡、そして、どこか遠くを見るような、冷たい眼差し。
彼女は、図書館の奥にある「ダンジョン学」の専門書コーナーで、熱心に書物を読み漁っていた。その時、彼女のスマートフォンが鳴り、少し離れた場所にいた私の耳にも、ごく一部の会話が聞こえてきた。
「ええ、はい……。最近、都内の大学で、奇妙な『効果』を持つ物品が出回っているという報告が数件……。詳細については、まだ不明ですが、既存のダンジョン素材とは異なる特性を示している、と」
彼女の声は抑揚がなく、しかし、その内容は私の心臓を強く締め付けた。既存のダンジョン素材とは異なる特性。それは、まさしく私のミニダンジョンからドロップする素材のことではないだろうか。
彼女は電話を終えると、再び書物に目を向けたが、その視線が、ふと、私の方へ向いたような気がした。私は思わず、手にしていた本の陰に身を隠した。気のせいだろうか。
その出来事から数日後、健太が少し興奮した様子で私に連絡してきた。
「花梨、実はさ、うちの研究室に、新しく外部から研究員が来るらしいんだ。なんでも、特殊なダンジョン素材の解析を専門にしている人だってさ」
健太は、ダンジョンの世界に詳しい人間が増えることに純粋な期待を抱いているようだった。しかし、私の胸には、あの図書館の女性の言葉が、重く響いていた。
「特殊なダンジョン素材の解析……?」
「ああ。どうやら、最近、市場に流通しているわけではないが、一部で『異常な効果』を持つ素材が確認されているらしくてな。それを研究するために、うちの大学に来るらしい」
健太の言葉は、私の不安を一層掻き立てた。異常な効果。それは、私のダンジョン素材のことではないか。そして、その研究員が、もしあの図書館の女性だったら……。
私のミニダンジョンが巻き起こす波紋は、小さな日常の範囲を超え、やがて専門家たちの関心を引き寄せるまでになっていたのだ。それは、私が抱え込んだ秘密が、もはや隠し通せるものではないことを示唆しているようだった。
ミニダンジョンは、今も私の部屋の鉢の中に、静かにそこにある。しかし、その存在が、私と友人たちの日常を、大きく揺るがし始めていることを、私は確かに感じていた。
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