理由探しの旅

kalm

文字の大きさ
上 下
1 / 4

少年を少年が辞めた日。

しおりを挟む
気づいたら、僕は知らない場所にいた。
辺りには砂の山が沢山、それと太陽。
たったこれだけ。
これ以外何も、何も、何も無く静かで熱い場所にいた。
どうしよう。
どうすればいんだろう。
わからない。
わからない。
わからない。
ねぇ、お母さん、僕は、僕はどうしてここにいるの?
今日は良い日だ、そうお母さんは僕に言った。
新しいお父さんが出来る、そう笑っていた。
久しぶりにちゃんとご飯を食べさしてくれた。
ねぇ、答えてよ。
僕はちゃんとお母さんの言う事を守ったよ?
――お父さんはね、みすとって所にいるの。だからご飯を食べて準備が終わったら、一緒に出かけましょ? お母さんは一度出かけるから、楽しみに待っててね――
ごめんなさい。
待ってなきゃ行けないのに。
家に居なきゃいけないのに。
ちゃんとみすとに早く行きたい、楽しみって思ってたのに。
僕はいい子じゃなくなっちゃった。
でも、でも、すぐ戻るから。
どうにかして、お母さんが家に帰ってくるまでに家に帰るから。
だから、だから、置いてかないで。
見捨てないで。
お母さん。
おかあ……さん……………………。


その世界は、昔神々と契約をした。
この世界を救済する代わりに、とある世界を攻略して欲しい。
契約を結び、救われた人々は契約通り、とある世界を攻略し始める準備をした。
「神、我々はどうすればその世界に行ける」
「なに、簡単だ。 ミストに行きたい、そう願うだけで簡単に行ける」
「わかりました、必ずこの恩返して見せます」
大人なら誰でも知っている当たり前の話。
子供から大人に変わる15の時に、教えられる話だ。
そして、15より下の子供に話すことは、禁忌とされている。
そんなお話が、この世界にはあった。


家に帰れない。
何処に行けば帰れるの?
周りには砂しかない。
ねぇ何か、何かないの?
もう、頭がおかしくなりそうだよ。
暑いよ、熱いよお母さん。
喉が……乾いた。
「わぁ!」
何時もなら、音を出すとお母さんが来てくれる。
音を出すな、静かにしろ、そう言ってくる。
だから僕は、何時も、静かに、音を立てないように、静かに、静かに…………
でも。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ……ぁ……………………aっハァハァ…がぁ…………はぁ…………」
息を切らすまで叫んでも、咳き込んでも、お母さんは来ない。
来てくれない。
ふと、力が抜ける。
――ズサ
少年は膝から崩れ落ちた。
何とか頭を打つ前に、両手で支えることはできたが、肩から直角に降ろされた腕は震えている。
今だ15にも満たない非力で、不健康な日々を過ごして来た少年に、この環境はとても過酷なものだった。
痛い痛い痛い痛い
太陽に照らされ続けた砂は、少年をじわじわと痛めつける。
それに、何だか頭が痛い、目が回る。
苦しい。
足が痛い、手が痛い、頭が痛い、喉が痛い、目が回る、力が入らない。
少年の脳にとてつもない大量の電気信号が流れる。
そして、

諦めた。

死ぬ。

これが死ぬって事?
そうか、こうやって人は死ぬのか……
少年は頭を支えていた腕の力を抜く。
高温の砂に焼ける様な痛みが走る。
それでも、さっきと比べれば苦しくはない。
ねぇお母さん、僕がこうして死ねば満足かな?
僕はお母さんがご飯をくれなくても、部屋から出そうとしなくても、音を出すたびに殴っても、僕はちゃんといい子にしたよ…………まだ、足りなかったの?
何がしたかったの?
僕にはお母さんが分からないよ。
でもさ、嫌だよ、嫌。
気に入らない。
僕は、お母さんと家族になりたかった。
でも、それは僕だけだったんだね。
ここまでしてもダメなら、もうしょうがないよね。
本当に気に入らない。
でも、でも…………僕も悪かったよ。
知らなかった、自分にこんな気持ちがあるって。
もっと早く気づけば良かった。
「しんで……たま…………るか」
僕は生きたい。
死んでもいい、今この瞬間死ぬのも、それはそれで悪くない。
けど、僕はこんなに生きたがってる。
お母さんはきっと、僕が死んだと思ってる。
僕は、死んでも良いと思ってる。
けど、僕は生きたい。
無意味に死にたくない。
毎日同じ生活をして、ただ何もせず、音を立てず、誰にも知られず、何もできない。
今の僕に価値は無い。
僕がどれだけ望んでもあっさりお母さんが捨てる程、僕には価値が無い。
許せないよ、あり得ない。
僕はこんなに良い子で、素晴らしいのに。
ここで死んでも良いと思い込む自分が、あり得ない。


意地を見せろ。


価値を作れ。


無価値に死ぬな。


生きろ。


僕の人生だ。
無茶をしろ、死んだって良い。
ただ、自分を褒められない死に方なんてあり得ない。
僕は……俺は、変わるぞ。
今この瞬間。
誰に何を言われたって、人はいつか死ぬ。
なら、人の価値は何処で死ぬかだ。
変われ。
俺は死ぬ。
最高に満足してな!!!
さぁ立て、歩け。
ここで諦めて、死ぬことに何の価値がある。
俺はどう自分を慰める?

不思議と、力が入る。
手のひらを砂に押し当てて、膝の関節をまげて尻を浮かす。
肘を立てて肩を上げる。
最後に、勢いをつけて体を起こす。
「バーカ」
少年は立ち、笑う。
「あ」



しかし…………
次の瞬間には少年の世界は傾く。
それでも、少年は笑う。
次の瞬間には少年はまたしっかりと立つことが出来た。
まだ頭が痛い、目も周りそうになる。
でも、少年は歩き出す。
そして、次の瞬間世界が変わる。
しおりを挟む

処理中です...