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第零章 天女の始まり
3 照れくささと戸惑いと(1)
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―――バタバタバタバタッ
「徳ーーー!!!どうしたーーー!!??」
スパーン!!
これまた先ほどの千代と同様、明らかに高価であろう水墨画の襖が盛大に開かれた。今まで以上に夕焼け色の光が部屋の中を暖かく照らす。
徳はというと、顔の中央に大きな目が一つある子に思いきり抱き着かれ、その勢いで畳にしりもちをついたと思えば、わらわらと集まってきた何かに群がられて身動きが取れなくなっていた。
よく見ると大きいものから小さいものまで、人間の形をしているものや、動物の形をしているもの様々。取り合えず、徳は人でも動物でもなさそうなものに押しつぶされていたのだ。
「お前たち!!徳が起きたら俺が一番に抱き着くと言ったのを忘れたか!?」
「ごめん、吉継。我慢ができなかったー!」
「ごめんね、吉継ー。」
何やら新たな登場人物が現れたようだが、押しつぶされている徳には誰が現れたのかが見えない。
――姿を見てもだれか分からないだろうが――そのため、徳は目の前の自身を押しつぶしている人でも動物でもないものたちに視線を送る。
その、人でも、動物でもないものたちは、徳が知っている単語を当てはめると「妖」「妖怪」といわれる類のものにしか見えない。本当に実在していたのか…、はたまた、夢だからなのか…。と徳は群がれながら頭の隅で冷静に考える。
「妖」や「妖怪」と言われる存在であろうと推測しているが、不思議なことに怖いという感情は浮かんでこない。確かに背後に立っていたことには驚いて悲鳴を上げてしまったが、今こうやって自身にわらわらと群がり嬉しそうに抱き着きている様子を見ると、恐怖心よりもどちらかというと――
――かわいい…
キャッキャと徳に群がり騒いでいる妖たちを見ていると、その妖たちが徳の上から一人、また一人と退き始めた。
「吉継が怒るから離れるー。」
「次吉継の番ー!」
そう言って徳に群がっていたものたちは、今しがた勢いよくこの部屋にやってきた男性に、道を開けるように離れた。
「徳…。久しぶりだな…。」
30代ぐらいのスラっとした体躯の男性を見て「あまり変わってないな」という感想が胸に浮かんできたことに疑問を持っていると、
「…父、上様…。」
今まで言った記憶がない言葉がスルっと口からこぼれた。
徳が疑問に思ったのも束の間、その言葉を口にした瞬間、滝のようにいろいろな記憶が脳内に流れこむ。
(…あ…――。…確かに私は、この人と共に過ごした…――。笑い合って遊んだ。手をつなぎながら庭を歩いた。寝るときはいつも子守唄を歌ってくれた…。)
どうして今まで、父親の存在を忘れていたのだろうと思うほど、徳ははっきりとこの人物が父だと分かった。それと同時に、幼少期に一緒に遊んだ侍女の千代、育ててくれた乳母の松と過ごした日々の記憶が一気に蘇る。
(なに…?これ…、)
「徳…、おはよう。あと…、お帰り。」
「あ、…ち、父上様…?」
一気に頭の中に流れ出した幼少期の記憶に徳が戸惑っていると、いつの間にか父親だと認識した男性が目の前に移動していた。男が膝を着いたことによって目線が同じ高さになる。何とも言えない気持ちで徳が視線を彷徨させていると、ニコッと目の前の人物が優しく微笑み、徳へ腕を伸ばした。しかし、幼少期の記憶を思い出したとて、伸ばされた手にどう反応すればいいのか今の徳には分からない。
「あの、えっと…、」
「なんだ?俺には抱擁してくれないのか?」
「いや…――、」
「良いからおいで。」
腕を優しく引かれ、徳は父親の胸の中に誘われる。
「会いたかったよ、徳。」
「……はい…。」
トク、トクと心臓の音が聞こえるのは自身のものか。はたまた父親のものか。
優しくも力強い抱擁。何かが徳の胸の奥から込みあげてくる。
「…っ…。」
初めてのようで懐かしい家族のぬくもり。
徳は少しの照れくささと戸惑いと…、言葉にできないほどの充足感で、気づけば涙があふれていた。
「徳ーーー!!!どうしたーーー!!??」
スパーン!!
これまた先ほどの千代と同様、明らかに高価であろう水墨画の襖が盛大に開かれた。今まで以上に夕焼け色の光が部屋の中を暖かく照らす。
徳はというと、顔の中央に大きな目が一つある子に思いきり抱き着かれ、その勢いで畳にしりもちをついたと思えば、わらわらと集まってきた何かに群がられて身動きが取れなくなっていた。
よく見ると大きいものから小さいものまで、人間の形をしているものや、動物の形をしているもの様々。取り合えず、徳は人でも動物でもなさそうなものに押しつぶされていたのだ。
「お前たち!!徳が起きたら俺が一番に抱き着くと言ったのを忘れたか!?」
「ごめん、吉継。我慢ができなかったー!」
「ごめんね、吉継ー。」
何やら新たな登場人物が現れたようだが、押しつぶされている徳には誰が現れたのかが見えない。
――姿を見てもだれか分からないだろうが――そのため、徳は目の前の自身を押しつぶしている人でも動物でもないものたちに視線を送る。
その、人でも、動物でもないものたちは、徳が知っている単語を当てはめると「妖」「妖怪」といわれる類のものにしか見えない。本当に実在していたのか…、はたまた、夢だからなのか…。と徳は群がれながら頭の隅で冷静に考える。
「妖」や「妖怪」と言われる存在であろうと推測しているが、不思議なことに怖いという感情は浮かんでこない。確かに背後に立っていたことには驚いて悲鳴を上げてしまったが、今こうやって自身にわらわらと群がり嬉しそうに抱き着きている様子を見ると、恐怖心よりもどちらかというと――
――かわいい…
キャッキャと徳に群がり騒いでいる妖たちを見ていると、その妖たちが徳の上から一人、また一人と退き始めた。
「吉継が怒るから離れるー。」
「次吉継の番ー!」
そう言って徳に群がっていたものたちは、今しがた勢いよくこの部屋にやってきた男性に、道を開けるように離れた。
「徳…。久しぶりだな…。」
30代ぐらいのスラっとした体躯の男性を見て「あまり変わってないな」という感想が胸に浮かんできたことに疑問を持っていると、
「…父、上様…。」
今まで言った記憶がない言葉がスルっと口からこぼれた。
徳が疑問に思ったのも束の間、その言葉を口にした瞬間、滝のようにいろいろな記憶が脳内に流れこむ。
(…あ…――。…確かに私は、この人と共に過ごした…――。笑い合って遊んだ。手をつなぎながら庭を歩いた。寝るときはいつも子守唄を歌ってくれた…。)
どうして今まで、父親の存在を忘れていたのだろうと思うほど、徳ははっきりとこの人物が父だと分かった。それと同時に、幼少期に一緒に遊んだ侍女の千代、育ててくれた乳母の松と過ごした日々の記憶が一気に蘇る。
(なに…?これ…、)
「徳…、おはよう。あと…、お帰り。」
「あ、…ち、父上様…?」
一気に頭の中に流れ出した幼少期の記憶に徳が戸惑っていると、いつの間にか父親だと認識した男性が目の前に移動していた。男が膝を着いたことによって目線が同じ高さになる。何とも言えない気持ちで徳が視線を彷徨させていると、ニコッと目の前の人物が優しく微笑み、徳へ腕を伸ばした。しかし、幼少期の記憶を思い出したとて、伸ばされた手にどう反応すればいいのか今の徳には分からない。
「あの、えっと…、」
「なんだ?俺には抱擁してくれないのか?」
「いや…――、」
「良いからおいで。」
腕を優しく引かれ、徳は父親の胸の中に誘われる。
「会いたかったよ、徳。」
「……はい…。」
トク、トクと心臓の音が聞こえるのは自身のものか。はたまた父親のものか。
優しくも力強い抱擁。何かが徳の胸の奥から込みあげてくる。
「…っ…。」
初めてのようで懐かしい家族のぬくもり。
徳は少しの照れくささと戸惑いと…、言葉にできないほどの充足感で、気づけば涙があふれていた。
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