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第零章 天女の始まり
15 吹っ切れる(1)
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「遅かったな。」
あの後、佐助の存在に気づいた徳はなんとか気持ちを持ち直し、うっかり一緒に連れてきてしまった子猫を佐助へと紹介した。そして食べれるかも分からないが徳の朝食であった鮎を少しだけほぐして子猫へと与え、待たせてはいけないと食事の場へと移動し、意を決して入った部屋での信繁の第一声がそれである。
「すいません。姫さんが屋敷で子猫を見つけて来たんですよ。その子の世話をちょっとばかし。」
「あぁ、あの猫な。」
「え?主様知ってんですか?おれ、子猫のことなんかわかんないから適当に魚あげてみたんですけど、大丈夫だったかな。」
「俺も子猫については詳しくないな…。」
(……うん…。……信繁様、普通…。)
信繁とどのような顔で対面すればいいのかと部屋に入るまで緊張していた徳だったが、あまりにも信繁が何もなかったかのように会話をしているため、徳は肩透かしを食らった気持ちになる。
「大谷の姫が飼いたいのであればこの屋敷で飼ってもよいが、面倒は見てもらうぞ。」
「ぅえ!?あ、はい。ありがとうございます。」
(……じゃなくて!)
先ほどのことを引きずっていた徳は、急に話しかけられ声が裏返ってしまったが、あまりにも信繁が平然としており逆に驚いてしまう。
(…いや、待てよ、もしかしてこの時代って「傷なんて舐めときゃ治る!」的な感じなのかな。だから、信繁様も特に他意はなくあんな行動を…。治療のため…?)
いや、どんだけ~!!!!
(どぎまぎした私がばかみたいじゃん!ってか、ほんと、自分のならまだしも他人の血とか触っちゃダメですよ!信繁様!…いや、自分のもダメか。不衛生だ。)
一瞬にして冷静になった徳は、むしろ信繁の女性への距離感の方が心配になるのだった。
「ささ!冷めちゃうからご飯にしよう。主様、これ、ほとんど姫さんが作ったんですよ。すごくない?」
「…鮎はお前だな。」
「もちろん。鮎は必須でしょ。あ、特に毒とか入れてる様子なかったから大丈夫だと思いますよ。」
「え?」
「…そういう心配はしていない。」
「はいはい。」
「大谷の姫、佐助がすまない。こいつの発言は気にしないでくれ。」
信繁が眉間を少し寄せ答え、佐助は相も変わらず本音の読めない人のよさそうな笑顔を浮かべている。
「あ…、はい…。」
(……なるほど…。)
なぜ早朝、徳が台所に来た時にタイミングよく佐助が現れたのか徳は理解した。そういえば刺客として疑われているんだったと自身の立ち位置を再認識した徳は、疑われていることに悲しむというよりも、
(…それって…)
「…今まで、毒を入れられたりした事があったんですか…?」
徳の質問に、信繁と佐助はきょとんとした顔をした。
「…こんな時代だからな。」
「これでも主様って真田家の次男だし。昔っから才能やばかったからね。」
「ただ単に存在が邪魔だっただけだろう。…まぁ、最近は落ち着いた気もするが…。」
「あれ、主様が一番やばかったのあの時だよね。」
「黙れ佐助。」
「いや、ほんと、俺仕えたばっかだったから、そんなやばい世界に居たの?ってほんとびっくりしたんだけど。……姫さんは無縁の世界だったのかな?」
佐助の視線に徳はびくりと肩を揺らす。
(…そうだ。今は戦国時代なんだ…。父上様は豊臣秀吉の天下統一のための戦に出ているけど、それは死ぬか、生きるかの話…。)
悪役令嬢になることを阻止すれば家族と共に生きていけると。恋愛云々を避け、婚約などをしなければ家族と幸せに過ごせると思っていた徳は、一気に胸中が冷や水にさらされる。
(この時代の人々は死が近い)
いままで命が奪われる危険性など日常生活で感じたことなかったし、考えたことがなかった。戦についても理解していたつもりで徳の認識は甘く、急に父の安否が不安になる。
(あぁ、…だからか…)
父親からの手紙はわりと頻繁に届いていたが、元気だということと、ご当地情報などの話ばかりで戦については書かれていなかった。
(父上様は、…わざと血なまぐさい話を避けてたんだ…)
敦賀城のみんなは、誰も戦については教えてくれなかった。
(私を不安にさせないように…、心配させないように…)
「まぁ、そんな話は置いといて、ご飯食べよう!」
「あ、はい…、すいません…。」
「お前が言い出したんだろう…。」
(信繁様だってそうだ…。私が命を狙いに来た暗殺者とか、スパイかもしれないと思いながらも信繁様は私をこの屋敷においてくれているんだ…。)
先ほどまでお腹がすいていた徳だったが、初めて自分ひとりで作った料理もあまり喉を通らなかった。
あの後、佐助の存在に気づいた徳はなんとか気持ちを持ち直し、うっかり一緒に連れてきてしまった子猫を佐助へと紹介した。そして食べれるかも分からないが徳の朝食であった鮎を少しだけほぐして子猫へと与え、待たせてはいけないと食事の場へと移動し、意を決して入った部屋での信繁の第一声がそれである。
「すいません。姫さんが屋敷で子猫を見つけて来たんですよ。その子の世話をちょっとばかし。」
「あぁ、あの猫な。」
「え?主様知ってんですか?おれ、子猫のことなんかわかんないから適当に魚あげてみたんですけど、大丈夫だったかな。」
「俺も子猫については詳しくないな…。」
(……うん…。……信繁様、普通…。)
信繁とどのような顔で対面すればいいのかと部屋に入るまで緊張していた徳だったが、あまりにも信繁が何もなかったかのように会話をしているため、徳は肩透かしを食らった気持ちになる。
「大谷の姫が飼いたいのであればこの屋敷で飼ってもよいが、面倒は見てもらうぞ。」
「ぅえ!?あ、はい。ありがとうございます。」
(……じゃなくて!)
先ほどのことを引きずっていた徳は、急に話しかけられ声が裏返ってしまったが、あまりにも信繁が平然としており逆に驚いてしまう。
(…いや、待てよ、もしかしてこの時代って「傷なんて舐めときゃ治る!」的な感じなのかな。だから、信繁様も特に他意はなくあんな行動を…。治療のため…?)
いや、どんだけ~!!!!
(どぎまぎした私がばかみたいじゃん!ってか、ほんと、自分のならまだしも他人の血とか触っちゃダメですよ!信繁様!…いや、自分のもダメか。不衛生だ。)
一瞬にして冷静になった徳は、むしろ信繁の女性への距離感の方が心配になるのだった。
「ささ!冷めちゃうからご飯にしよう。主様、これ、ほとんど姫さんが作ったんですよ。すごくない?」
「…鮎はお前だな。」
「もちろん。鮎は必須でしょ。あ、特に毒とか入れてる様子なかったから大丈夫だと思いますよ。」
「え?」
「…そういう心配はしていない。」
「はいはい。」
「大谷の姫、佐助がすまない。こいつの発言は気にしないでくれ。」
信繁が眉間を少し寄せ答え、佐助は相も変わらず本音の読めない人のよさそうな笑顔を浮かべている。
「あ…、はい…。」
(……なるほど…。)
なぜ早朝、徳が台所に来た時にタイミングよく佐助が現れたのか徳は理解した。そういえば刺客として疑われているんだったと自身の立ち位置を再認識した徳は、疑われていることに悲しむというよりも、
(…それって…)
「…今まで、毒を入れられたりした事があったんですか…?」
徳の質問に、信繁と佐助はきょとんとした顔をした。
「…こんな時代だからな。」
「これでも主様って真田家の次男だし。昔っから才能やばかったからね。」
「ただ単に存在が邪魔だっただけだろう。…まぁ、最近は落ち着いた気もするが…。」
「あれ、主様が一番やばかったのあの時だよね。」
「黙れ佐助。」
「いや、ほんと、俺仕えたばっかだったから、そんなやばい世界に居たの?ってほんとびっくりしたんだけど。……姫さんは無縁の世界だったのかな?」
佐助の視線に徳はびくりと肩を揺らす。
(…そうだ。今は戦国時代なんだ…。父上様は豊臣秀吉の天下統一のための戦に出ているけど、それは死ぬか、生きるかの話…。)
悪役令嬢になることを阻止すれば家族と共に生きていけると。恋愛云々を避け、婚約などをしなければ家族と幸せに過ごせると思っていた徳は、一気に胸中が冷や水にさらされる。
(この時代の人々は死が近い)
いままで命が奪われる危険性など日常生活で感じたことなかったし、考えたことがなかった。戦についても理解していたつもりで徳の認識は甘く、急に父の安否が不安になる。
(あぁ、…だからか…)
父親からの手紙はわりと頻繁に届いていたが、元気だということと、ご当地情報などの話ばかりで戦については書かれていなかった。
(父上様は、…わざと血なまぐさい話を避けてたんだ…)
敦賀城のみんなは、誰も戦については教えてくれなかった。
(私を不安にさせないように…、心配させないように…)
「まぁ、そんな話は置いといて、ご飯食べよう!」
「あ、はい…、すいません…。」
「お前が言い出したんだろう…。」
(信繁様だってそうだ…。私が命を狙いに来た暗殺者とか、スパイかもしれないと思いながらも信繁様は私をこの屋敷においてくれているんだ…。)
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