俺は異端の暗殺者

keyouuu

文字の大きさ
14 / 18

-14-

しおりを挟む
新宿の地下倉庫は、静寂に包まれていた。
赤い非常灯が点滅を繰り返し、床に落ちた血溜まりを不気味に照らす。
紅葉の体は、溶け、腐り、折られ、窒息した姿で横たわっていた。
黄金の酸が肉を抉り、毒便が内側から崩壊させ、脚の締めが骨を砕き、マヤの尻が最後の息を奪った。
動かない。
息はない。
黒澤メイはゆっくりと立ち上がり、スカートを直した。
髪から滴る汗と血、指先から滴る黄金の残滓。
彼女は紅葉の胸に黒いカードを置いた。
《Deadly Dymes》
《完了》
だが、胸の奥で、何かが引っかかっていた。
紅葉の最後の表情――恐怖ではなく、嘲笑に近いものだった。
そして、床に落ちた携帯の画面。
《女王は死んだ。
だが、真の支配者は、まだ笑っている。
Leonard Damion》
三ツ木ミミがメイの腕に寄りかかり、息を荒げながら笑った。
「…終わったね、メイちゃん。
Crimson Thorn、完全に壊滅。
紅葉も、こんなに苦しんで死んじゃった。
あたし、ちょっと興奮しちゃったよ♪」
茅ヶ崎マヤは髪をかき上げ、紅葉の死体を足で軽く蹴った。
「ふん。
血の女王なんて、大したことなかったわね。
あたしの優雅な座りで、最後まで抵抗できなかったじゃない。
これで、業界にDeadly Dymesの名がさらに轟くわ」
高本リナは眼鏡を直し、紅葉の携帯を拾い上げた。
画面をスクロールし、データを抜き始める。
「…メッセージの送信元は、Leonard Damionの個人回線。
暗号化されてるけど、痕跡が残ってる。
これは…警告か、それとも」
リナの声が途切れた。
画面に、新たな一行が浮かんだ。
《よくやった、Deadly Dymes。
だが、紅葉はただの駒。
お前たちの血は、まだ私の手中にある。
次に会う時、お前たちは私の足元で溶ける。
――Leonard》
四人の体が、一瞬凍りついた。
ミミがメイの手を強く握った。
「…Leonard Damionって、誰?
ギルドのトップ?
ケンさんが言ってた、あの…最強の男?」
マヤの唇が引きつった。
「…本物の支配者よ。
あの人に目をつけられたら、もう逃げられない。
あたしたちがCrimson Thornを潰したこと、全部見られてたってこと?」
メイは無言で紅葉の死体を見下ろした。
溶けた肉が、まだ微かに泡立っている。
彼女は静かに言った。
「…帰る」
イヤホンからケンの声が響いた。
「今すぐ引き上げろ。
紅葉の死体は回収チームに任せた。
事務所に戻ったら、すぐに話がある。
Leonardの名前が出てきた以上、事態が変わった」
四人は地下を後にした。
階段を上る足音が、雨音に混じって響く。
外へ出ると、新宿のネオンが血のように赤く滲んでいた。
事務所に戻ったのは、午前三時を回っていた。
ケンは円卓に座り、モニターに複数の画面を映していた。
Crimson Thornの崩壊ニュース、業界の噂、Leonard Damionの影の記録。
「紅葉は、Leonardの傀儡だった可能性が高い」
ケンが静かに言った。
「Crimson Thornを育てて、Deadly Dymesとぶつけた。
お前たちが勝ったことで、Leonardの計画が少し狂った。
だが、彼は笑ってる。
なぜなら、お前たちが強くなったことを、利用できるからだ」
ミミが目を丸くした。
「利用って…どういうこと?
あたしたち、Leonardの敵になるの?」
ケンが首を振った。
「敵じゃない。
駒だ。
Leonard Damionは、世界最強の男。
唯一の男性暗殺者。
彼のスキルは『瞬殺の瞬き』――目が合った瞬間、相手の脳を焼き切る。
彼は、すべてのギルドを操ってる。
Deadly Dymesも、その一つに過ぎない」
リナがデータを投影した。
「紅葉の携帯から抜いたログ。
Leonardと紅葉は、半年以上連絡を取ってた。
Crimson Thornに資金と情報を流して、Deadly Dymesを試してたらしい。
目的は…『選別』。
強い女だけを残して、弱いギルドを潰す。
そして、最終的に――」
ケンが言葉を継いだ。
「東京を、暗殺者だけの街にする。
普通の人間を排除して、Leonardの支配下に置く。
それが、彼の計画の第一段階らしい」
マヤがグラスを握り締め、割れそうな音を立てた。
「ふざけないで。
あたしたちが、ただの道具だって言うの?
あたしは、そんな男の下で殺し続ける気なんてないわ」
メイは静かに立ち上がった。
「…殺す」
全員の視線がメイに集まった。
「Leonardを、殺す。
それで、終わる」
ミミがメイの腕を抱きしめた。
「メイちゃん…
あたしも、一緒だよ。
Leonardがどんなに強くても、あたしたち4人で、溶かして、腐らせて、締めて、座っちゃおう!」
マヤがゆっくり頷いた。
「…いいわね。
あたしも、座ってあげる。
Leonardの顔に、あたしの尻で、最後の息を奪ってあげる」
リナが眼鏡を押し上げた。
「でも、今はまだ無理。
Leonardに直接挑むには、もっと力が必要。
ランクを上げて、情報を集めて、弱点を探す。
まずは、次の依頼をこなす」
ケンが新しい封筒をテーブルに置いた。
「今朝入った依頼。
報酬、5000万。
標的は、Leonardの側近の一人。
彼を殺せば、Leonardの計画に穴が開く。
場所は、渋谷の地下カジノ。
今夜だ」
メイは封筒を手に取った。
「…行く」
四人は事務所を出た。
外はまだ暗く、雨が止んでいた。
ネオンが、冷たく光る。
Leonard Damionの影が、初めて、はっきりと近づいていた。
だが、彼はまだ、遠い。
メイの黄金の奔流が、届くまで、まだ時間がある。
彼女は踵を鳴らし、夜の街へ歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...