4 / 9
新米騎士は竜王陛下と対面する
まどろみの中で瞼越しに明るい光を感じる。朝になったのかもしれない。
(でも私……オブシディアンに夜ご飯をあげに行った時に、不審者がいたから倒したはずで……それからどうしたのかな?)
おかしなことに、以降の記憶がまったくない。
「――ウェンディ、目を覚ましてくれ」
知らない男性の声が切なそうに私を呼ぶ。誰だかわからないけど、低音の美声で心地いいからずっと聞いていられる。
「竜の鱗は霊薬になると言ったな。私の鱗を煎じて飲ませば――」
「ご自身を傷つけるなんてダメですよ。霊薬なんて迷信でしょうし、元侵攻国の平民のために鱗を削ぐなんて国際問題に……わーっ、服を脱がないでください! 自ら薬の材料になろうとしないでください!」
領主様の珍しく落ち着きがない声が聞こえてくる。いつもは冷静沈着な領主様が叫んでいるから非常事態だろう。
「だ、大丈夫ですか、領主様!」
飛び起きると、私はなぜか広く豪奢な部屋にある寝台にいた。布団がふかふかで、雲の上にいるみたいだ。
「ええと、領主様と……どちら様でしょうか?」
目の前には、いつも以上にかっちりとした礼装姿の領主様と――異国風の服に身に纏う、人ならざる美貌を持った背が高く屈強な男性がいて、領主様が男性を羽交い絞めしている。
男性の黒く艶やかな髪は長く、緩く結わえて肩に流しており、彼の着ている白色の服によく映える。
瞳の色は黄金色で瞳孔が縦に長く、まるでオブシディアンのようだ。
「ウェンディ! 目が覚めたのか!」
黒髪の美丈夫は、一見すると冷たい印象のある顔を破顔すると、領主様の腕を振りほどいて私に駆け寄った。
「具合は良くなったか? どこか痛むところは?」
ずいと顔を近づけられ、間近に迫る美形に思わずドキドキしてしまう。だけど誰なのかわからない。
(私の名前を知っているようだけど、誰なんだろう。こんなにも綺麗な人、一度でも会ったら覚えているはずなのに……)
少しも思い出せないから、やはり本人に聞くしかない。
「あのう……失礼ですがあなたは誰でしょうか?」
「私としたことが……取り乱すあまり名乗り遅れて悪かった。私はヴァレリア王国の新しい竜王、ディーン・ヴァレリアだ」
「ヴァレリア王国の竜王……陛下?」
彼の国はイルゼ王国を侵攻しようと目論んでいたため国王陛下の命によって軍隊が送り込まれ、一日にして王城が陥落して属国となった。
「たしか、逃亡した王太子を除く王族はみな殺害されたため、イルゼ王国の軍のトップが主導で暫定政府が設立されていたはずなのでは……」
「それはベルが目を覚まさなかったひと月の間に全て一変したのさ」
「ひと月……私は眠っていたのですか?」
「ああ、君がオブシディアンを助けた際に受けた傷から毒が検出された。犯人が持っていた刃物に毒が塗られていたのだよ」
それから私はこの領主邸に運び込まれ治療を受けていた。毒による高熱は一夜にして収まったが、それからひと月の間、昏々と眠っていたらしい。
「この度の侵攻は先代のイルゼ国王の愚行によるものだ。先代国王は魔術に傾倒して己の欲のために罪のないヴァレリア王国を攻撃したから、その罪を自身の血で償うことになった」
領主様が言うには、。今は前王弟殿下が国王になられたそうだ。先代国王陛下の圧政を見かねた現国王陛下は建国祭の日に反乱を起こして先代国王を玉座から下ろした。
国王と手を組んでいた貴族家もこぞって捕らえられ、共に処刑されたらしい。
「国王陛下が先代国王の非礼を詫びてヴァレリア王国の返還と復興支援をしている。その際にこのお方がヴァレリアの新竜王陛下として即位なさった」
「ということは、もしかして逃亡した王太子とは……」
「ああ、ここにいる竜王陛下のことだ。私の父がこの時のために陛下をこのフォーサイス辺境伯領で匿っていたのだよ」
「竜王陛下をここで匿っていたのですね……。ちっとも気づきませんでした」
「実は君が竜王陛下の一番近くにいて毎日接していたのだけど、完全に隠していたからわからなかっただろうね」
「私が、ですか……?」
まさか同僚たちに紛れていたのだろうか。記憶をたどっても、それらしき人が思い当たらない。
「ああ、君の相棒のオブシディアンは竜王陛下が竜化した姿だったんだよ」
「ええっ、オブシディアンが……そんな、まさか……」
俄には信じられないが、たしかにヴァレリアの王族は竜人で、竜人は人の姿にも竜の姿にもなれると聞く。
「そ、それでは、私は今まで竜王陛下に向かって、畏れ多くも背に乗せてくれと強請っていたのですか……?!」
いくら正体を知らなかったとはいえ不敬にもほどがある。どうしよう。国外追放で済ませてくれるだろうか。
震える私に、竜王陛下は優しく微笑んで私の頬を両手でそっと包むと――。
「私のちっぽけなプライドのせいであなたを背に乗せなくて悪かった。これからは好きなだけ乗るといい」
お断り必至な提案をしてくるのだった。
(でも私……オブシディアンに夜ご飯をあげに行った時に、不審者がいたから倒したはずで……それからどうしたのかな?)
おかしなことに、以降の記憶がまったくない。
「――ウェンディ、目を覚ましてくれ」
知らない男性の声が切なそうに私を呼ぶ。誰だかわからないけど、低音の美声で心地いいからずっと聞いていられる。
「竜の鱗は霊薬になると言ったな。私の鱗を煎じて飲ませば――」
「ご自身を傷つけるなんてダメですよ。霊薬なんて迷信でしょうし、元侵攻国の平民のために鱗を削ぐなんて国際問題に……わーっ、服を脱がないでください! 自ら薬の材料になろうとしないでください!」
領主様の珍しく落ち着きがない声が聞こえてくる。いつもは冷静沈着な領主様が叫んでいるから非常事態だろう。
「だ、大丈夫ですか、領主様!」
飛び起きると、私はなぜか広く豪奢な部屋にある寝台にいた。布団がふかふかで、雲の上にいるみたいだ。
「ええと、領主様と……どちら様でしょうか?」
目の前には、いつも以上にかっちりとした礼装姿の領主様と――異国風の服に身に纏う、人ならざる美貌を持った背が高く屈強な男性がいて、領主様が男性を羽交い絞めしている。
男性の黒く艶やかな髪は長く、緩く結わえて肩に流しており、彼の着ている白色の服によく映える。
瞳の色は黄金色で瞳孔が縦に長く、まるでオブシディアンのようだ。
「ウェンディ! 目が覚めたのか!」
黒髪の美丈夫は、一見すると冷たい印象のある顔を破顔すると、領主様の腕を振りほどいて私に駆け寄った。
「具合は良くなったか? どこか痛むところは?」
ずいと顔を近づけられ、間近に迫る美形に思わずドキドキしてしまう。だけど誰なのかわからない。
(私の名前を知っているようだけど、誰なんだろう。こんなにも綺麗な人、一度でも会ったら覚えているはずなのに……)
少しも思い出せないから、やはり本人に聞くしかない。
「あのう……失礼ですがあなたは誰でしょうか?」
「私としたことが……取り乱すあまり名乗り遅れて悪かった。私はヴァレリア王国の新しい竜王、ディーン・ヴァレリアだ」
「ヴァレリア王国の竜王……陛下?」
彼の国はイルゼ王国を侵攻しようと目論んでいたため国王陛下の命によって軍隊が送り込まれ、一日にして王城が陥落して属国となった。
「たしか、逃亡した王太子を除く王族はみな殺害されたため、イルゼ王国の軍のトップが主導で暫定政府が設立されていたはずなのでは……」
「それはベルが目を覚まさなかったひと月の間に全て一変したのさ」
「ひと月……私は眠っていたのですか?」
「ああ、君がオブシディアンを助けた際に受けた傷から毒が検出された。犯人が持っていた刃物に毒が塗られていたのだよ」
それから私はこの領主邸に運び込まれ治療を受けていた。毒による高熱は一夜にして収まったが、それからひと月の間、昏々と眠っていたらしい。
「この度の侵攻は先代のイルゼ国王の愚行によるものだ。先代国王は魔術に傾倒して己の欲のために罪のないヴァレリア王国を攻撃したから、その罪を自身の血で償うことになった」
領主様が言うには、。今は前王弟殿下が国王になられたそうだ。先代国王陛下の圧政を見かねた現国王陛下は建国祭の日に反乱を起こして先代国王を玉座から下ろした。
国王と手を組んでいた貴族家もこぞって捕らえられ、共に処刑されたらしい。
「国王陛下が先代国王の非礼を詫びてヴァレリア王国の返還と復興支援をしている。その際にこのお方がヴァレリアの新竜王陛下として即位なさった」
「ということは、もしかして逃亡した王太子とは……」
「ああ、ここにいる竜王陛下のことだ。私の父がこの時のために陛下をこのフォーサイス辺境伯領で匿っていたのだよ」
「竜王陛下をここで匿っていたのですね……。ちっとも気づきませんでした」
「実は君が竜王陛下の一番近くにいて毎日接していたのだけど、完全に隠していたからわからなかっただろうね」
「私が、ですか……?」
まさか同僚たちに紛れていたのだろうか。記憶をたどっても、それらしき人が思い当たらない。
「ああ、君の相棒のオブシディアンは竜王陛下が竜化した姿だったんだよ」
「ええっ、オブシディアンが……そんな、まさか……」
俄には信じられないが、たしかにヴァレリアの王族は竜人で、竜人は人の姿にも竜の姿にもなれると聞く。
「そ、それでは、私は今まで竜王陛下に向かって、畏れ多くも背に乗せてくれと強請っていたのですか……?!」
いくら正体を知らなかったとはいえ不敬にもほどがある。どうしよう。国外追放で済ませてくれるだろうか。
震える私に、竜王陛下は優しく微笑んで私の頬を両手でそっと包むと――。
「私のちっぽけなプライドのせいであなたを背に乗せなくて悪かった。これからは好きなだけ乗るといい」
お断り必至な提案をしてくるのだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
番探しにやって来た王子様に見初められました。逃げたらだめですか?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はスミレ・デラウェア。伯爵令嬢だけど秘密がある。長閑なぶどう畑が広がる我がデラウェア領地で自警団に入っているのだ。騎士団に入れないのでコッソリと盗賊から領地を守ってます。
そんな領地に王都から番探しに王子がやって来るらしい。人が集まって来ると盗賊も来るから勘弁して欲しい。
お転婆令嬢が番から逃げ回るお話しです。
愛の花シリーズ第3弾です。
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
異母姉の身代わりにされて大国の公妾へと堕とされた姫は王太子を愛してしまったので逃げます。えっ?番?番ってなんですか?執着番は逃さない
降魔 鬼灯
恋愛
やかな異母姉ジュリアンナが大国エスメラルダ留学から帰って来た。どうも留学中にやらかしたらしく、罪人として修道女になるか、隠居したエスメラルダの先代王の公妾として生きるかを迫られていた。
しかし、ジュリアンナに弱い父王と側妃は、亡くなった正妃の娘アリアを替え玉として差し出すことにした。
粗末な馬車に乗って罪人としてエスメラルダに向かうアリアは道中ジュリアンナに恨みを持つものに襲われそうになる。
危機一髪、助けに来た王太子に番として攫われ溺愛されるのだか、番の単語の意味をわからないアリアは公妾として抱かれていると誤解していて……。
すれ違う2人の想いは?
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?