ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら

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竜の恋煩い 1

     ◇◇◇ 

 竜は元来強い個体に惹かれる生き物だ。
 自身より強い個体を主とし、また伴侶とする個体にも強さを求めた。

 それなのにフォーサイス辺境伯で匿われていた頃のディーンは初めてウェンディを紹介された時、自分よりもうんとひ弱なウェンディを見るなり彼女に惹かれてしまい、困惑した。

(私が本気を出さずとも簡単に殺せそうなひ弱な人間など、なぜ気になってしまうのだろうか……)

 甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼女の姿を、思わず目で追ってしまう。

「ねえ、今日こそオブシディアンの背に乗せてもらえる?」

 期待のこもった声で頼まれると思わず乗せてやりたくなるが、王族としてのプライドを奮い立たせて拒否した。
 
 アデルバードと彼の父には助けてもらった恩があるため多少の抵抗はあるものの背に乗せられたが、新米騎士としてやってきたウェンディを背に乗せてやる義理はない。

 フンと鼻を鳴らしてそっぽを向くとウェンディは大人しく引き下がるが、それはそれでディーンの心をかき乱した。

 
 
 ひと月前の襲撃事件が起こった日、アデルバードとの話を終えたディーンは竜の姿になってフォーサイス辺境伯領の獣舎で時間が過ぎるのを待っていた。

 本当は木箱の中に隠している書物を読みたかったが、もう少し経てばウェンディが戻って来るだろうから我慢する。

(外に人の気配があるな。あの新米騎士ではないし、おぞましさを感じる……。侵入者だろうか?)

 イルゼの国王がアデルバードを警戒して刺客を送り込んでいるのだと彼から聞いた。もしかするとその刺客なのかもしれない。

 警戒したディーンが相手の出方を窺っていたその時、 体中に気味の悪い冷たい感触が広がった。

『――っ』

 体に異常を感じて殺気だっていると、黒ずくめの服装の男性が獣舎の中に入ってきた。
 
「それにしても、立派な竜で殺すのが惜しいな。売れば高値で買い取ってもらえそう、だが国王陛下からフォーサイス辺境伯の戦力を削げとの命令がある以上、お前を生かしておけない。恨むなら国王陛下を恨んでくれ」
 
 やはり国王の手の者だった。飛びかかろうとしたディーンは、その状態で体が動かなくなった。いくら力を入れてもいうことを聞いてくれない。
 
「ふう、上手くいったか。竜殺しの魔術なんて禁術を使う日が来るとは思わなかったな。さっき魔術をかけておいてよかった」

 竜殺しの魔術とは大昔に作られた魔術だったが、竜人族と人間が交流するようになってから禁忌とされた。

 竜の血に反応し、竜の身動きを止める――ヴァレリア王国を侵攻する際に使われたあの悍ましい魔術だった。

 先ほど感じたあの冷たい感触は、魔術によるものだったらしい。

「心配するな。眠るように死ねる毒ですぐに楽になる。お前の鱗を一枚削いで、そこから毒を塗れば終わりだ」

 国王の手の者がナイフを振り上げたその時、従者の扉が大きく開き、ウェンディが入ってきた。

(ここに来るな! 今すぐ逃げろ!)

 ディーンの想いも虚しく、ウェンディは相棒を守るために国王の手の者に突進してのしかかる。
 
「くそっ、小娘が邪魔をしやがって!」

 振り回されたナイフがウェンディの腕を掠り、その様子を見ていたディーンは背筋が凍った。

 あのナイフには竜を殺すために毒が塗られているのだ。人間のウェンディにだって強力な毒のはず。

「私の大切な相棒を襲おうとしたことを後悔しなさい。覚悟ーっ!」

 毒に気づかないウェンディはナイフを取り上げ、その柄で相手の首の後ろをトンと突いて気絶させた。

 魔術は術者の意識が途切れると効果がなくなるようで、ディーンの体は動くようになった。
 
「オブシディアン、怪我はしていない? 大丈夫?」

 不審者を拘束したウェンディが立ち上がってディーンに手を伸ばすが――ディーンに触れることなく、だらりと下がる。

『ウェンディ!』

 ふつりと意識の糸が切れてしまったウェンディは目を閉じ、その場に崩れる。ディーンは大きな体を動かして、ウェンディが床に体を打ちつけないよう抱きとめた。

『どうして……私よりひ弱なくせに……なぜ……私を守った?』

 血の気を失い、まるで永遠の眠りについているかのようなウェンディの顔を見ると、ディーンの心は悲しみと絶望で塗りたくられ胸をかきむしられるような苦しみに襲われる。

 耐えがたい苦痛に、黒竜は咆哮を上げた。
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