異世界で死にたかないけどイきたくない!

ひやむつおぼろ

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ロビンと魔王 2

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ーー

 オルドは発展を続け、人口も増えた。順調に物事が進んでいた。しかし、平和は蝕まれる。他の種族に虐げられた魔族を救出し保護するたび、ルシウスの嫌亜人思想が強くなっていった。

 彼は奴隷商に囚われていた魔族を救出すると、他の獣人や人、エルフがまだ残っている檻に火をつけた。檻の中からは呻き声がして肉や髪が焼ける匂いが周りを満たした。ロビンは水魔法が使えるものを率いて火を消して回った。

「ルシウス!罪は奴隷商にあって、他種族の奴隷にはないはずだ!なのになぜ、火を放った?!」

「あのまま、魔族だけが消えたことが分かれば僕ら魔王軍の存在が明るみになってしまう。ロビン、君の他種族どうでもいいものを慈しむ気持ちが、僕たちの仲間を危険に晒しかねなかったんだよ。」

 うっそりと口角を上げ笑うルシウスは、魔王だった。

「君、その後の奴隷たちの結末は知ってる?全身大ヤケドで商品価値が下がって売れなくなったから、全員処分されたよ。荒野の砂漠の上に置いて猛獣たちに啄まれて、火傷が砂漠で余計焼けて動けずにいる。もうすぐ死ぬだろうね。いい気味だね。」

 ルシウスは魔王然とした顔で白い歯をテラテラとさせながら嘲笑した。魔力が溢れ、肺に貯まった空気がずしっと重くなる。魔王の威圧だ。しかしロビンはそれよりも良かれと思ってやったことが何一つ実を結ばず最悪の結果を産んだことの方がショックだった。ロビンは何も言えず、逃げるようにその場を去った。

ーー

 それから数日後、ロビンはルシウスの執務室に来ていた。

「ルシウス、ルーどうして?なぜ殺したの?」

 今度の進軍はロビンに聞かされていなかった。貴族の領地を乗っ取ったのだそうだ。

 その貴族の召使いに、魔族の少年が生まれていたらしい。貴族は魔族の子供に関して実に寛容な、いや寧ろ十分すぎるほどのケアをしていた。その子にはメイドの母と庭師の父がいて、熱を出せばすぐ医者と魔術師に見せてくれる環境があった。保護をする必要は一切無かった。

「ロビン、僕らは魔族だ。シュテルンビルド教に置いて迫害して良い種だ。彼らは理由がなくても僕らを攻撃して良いんだ。いつ他の種族が襲ってくるかわからない場所に、彼を置いては置けない。」

「やり方は、あったはずだ!あの子の両親を殺す必要はない!昨晩あの子は、泣きながら、俺の元へやって来たんだぞ!」

「ロビン…あの子の心が壊れないか、心配してくれたんだね。大丈夫だよ。」

 ルシウスが入っておいでと言うと、ドアが開き、件の少年が現れる。

「魔王様、お呼びでしょうか?」

「っ!」

 そこにいたのはピンと背を伸ばし、魔王を羨望の眼差しで見つめる少年だった。その瞳に昨夜の絶望や恐怖などはなく、ひたすらに魔王を慕う傀儡のような目をしていた。

「彼になにをしたんだ!」

「新しい魔法の研究をしてたんだ。他の種族を跳ね除けられる魔法を。そしたら良いものができてね。」

パチン、と魔王が指を鳴らすと少年からモヤが出始める。魔王はそのモヤの中に生花のバラを投げ入れた。

「なっ」

 艶やかに麗しく咲いていた花は花弁をハラハラとおとし枯れていく。

「魔族以外の生物全てからエーテルを奪い、自らの蓄えにする魔法だ。これさえあれば僕ら魔族は傷つかない。しかもこの魔法、術者に必ず忠誠を誓うみたいでね。これほど使い勝手の良いものはないよ。」

 ロビン、君にぴったりな魔法だと思わない?勝手な行動も無くなるだろうし。魔王はうっそりと笑う。手が光り、魔王の魔力が足に絡まる。

「まちがってる、こんなこと間違ってる。」

「考えすぎだよ。ロビン。僕は魔王だ。僕の言うことを聞いて、僕らのために動こう。」

「うっ、ルシウス、やめ…」

 ロビンは精一杯抵抗したが、魔王に敵うはずがなかった。

ーー

 魔王は魔族全てに【魔王の加護】として、先ほど間の魔法をかけた。魔王の思うままにオルドは発展を続け、ロビンも殺戮のかぎりを尽くした。

 しかし、ロビンは【魔王の加護】の効果が弱まることが多々あった。魔王は月に一度呼び出しては深く深く丁寧に【魔王の加護】をかけた。

 ロビンの精神は魔王憎しと感じる心と魔法で植え付けられた忠誠によって疲弊していた。【魔王の加護】の更新日、ロビンは謀反を仕掛けたのだ。

ーーーー

「その結果、魔王が持ってたカウンター魔法のお守りを破壊して俺ちゃん死亡。勇者召喚の魔法陣の中にはお前らが瘴気って呼んでる【魔王の加護】がバッチリ定着したかわいそうな俺が出現。そこの教皇サマが俺に事情も聞かず封印っ。これが俺ちゃんの悲しい悲しい身の上話ってわけ」

 ロビンはぬるくなった紅茶に角砂糖を4つ入れてかき混ぜる。ジャリジャリというおとが溶けてないよと訴えるものの、カップをグイッと傾けて中身を飲み干したのだった。
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みんなの感想(1件)

ムラマサ
2020.04.02 ムラマサ

ぬはぁー!!
ティアの病んでる感じとユウキの純真さが凄くいいです(*´꒳`*)
話も面白くて続きが気になります〜☆

更新楽しみにしてます(^^)

解除

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