オメガバース全集

ひやむつおぼろ

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オメガバース 無知 ギャグ 幼なじみ 執着

「えっ!男らしい高タンパク質の取り方を教えてくれるのか?!」

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【世界観】女の子と男の子で保健体育の授業分けるみたいにバース性教育もアルファ、オメガ、ベータ(まだ判定の出てない子供)で分けて教えている日本の小学校。



「なんで俺のバース性、わかんないの?!」
 封筒から取り出したA4用紙を握りしめる。バース性、不明。アルファでもベータでもなく不明と来たものだからアキラは焦っていた。俺のバース性はまだ決まっていなかった。

 成長期、背もぐんぐん伸びたし、運動神経も良い。バレンタインにはチョコもらったし、少しはモテてたと思う。自分はアルファなんじゃないかなと?自惚れていた。

 アルファ、人生の勝ち組。あぁなんていい響き。アルファってだけでイケメンだし、成功して金持ちになれるし、かわい子ちゃんが寄ってくる。いいな。アルファになりたいな。そう思っていた。

 しかし、バース性診断を受けても、俺のバースは判明しなかった。周りはどんどんとバースがわかっていった。

 バース性の授業は学年合同で行われていた。オメガの生徒はオメガの教室に、アルファの生徒はアルファの教室に行って、診断がまだのやつは自習室で昼寝したり、プリントをやったりしてた。

 俺はバース性がわからなくても自習を楽しく過ごしていた。幼馴染みの雄也と会えるからだ。雄也が中学のお受験のために部活を辞めたから、放課後会う機会がなくて。疎遠になってた幼馴染みと会える日々を俺は喜ばしく思っていた。

 雄也がアルファだとわかるまでは。

ーーー


「雄也!どうやったらアルファになれるんだ??」

 ギシィと蝶番とベニヤ板でできた扉が音を立てて閉まる。ガチャンと後ろ手に鍵を閉めれば、アルファと判明してから余計疎遠になったつれない幼馴染みの拉致は完了した。

「……トイレに連れ込んだと思ったら…何事?」

「俺、アルファになりたい」

「……なりたいって、なれるものじゃないよ」

 俺は頭を抱えた。雄也ほど頭がいい奴なら、アルファに慣れるコツみたいなものを知っていると思っていたから。雄也も頭に手を当てて、蓋を下ろした便座に座り込んだ。狭い個室に、嗅ぎ慣れた雄也の部屋のいい匂いがして固まる。動くたびに雄也から漂う、落ち着いた匂い。雄也はランドセルを下ろして膝の上に抱き抱えると、俺をじっと見据えた。

「アキラは、なんでアルファになりたいの?」

「えっ、あぁ、それは…」

 アルファになりたい理由。雄也に相談する前に、同じクラスのアルファの、馬場にも相談したのだ。

 アルファになりたい理由が金持ちになりたいとかだったら、呆れられてしまうと思ったから。アルファじゃなくても、努力次第で金持ちになれるし、アルファなのに貧困な人だっているにはいるのだ。

 それに俺がアルファになりたい一番の理由は、雄也と同じ授業を取りたいからだ。それをそのまま伝えるのは恥ずかしい。だからこそ、アルファになってよかったことを馬場に聞いたのだ。

『好きな子がオメガやったことかなー。』

 褐色に焼けた頬を赤らめながら、馬場は佐々木の方を見た。そういえば佐々木はオメガの教室に行ってから、首に輪っかをつけるようになったなと思い出す。オメガは学年に2、3人いてその誰もが首輪をつけている。なんだろう。よくわからない。

『えっ、好きな子がオメガだとなんかいいことあんの?』

『ううんとな…ここだけの話やで、オメガとアルファは特別な結婚ができるねん。番っていって、ずっと一緒にいましょうねって約束やねん。詳しくはオメガかアルファになってから先生に教わると思うんやけど…。』

 ずっと一緒にいましょうねの約束。俺は、雄也と同じ授業を受けたかった。少しでも一緒にいたかった。一人で先にアルファになった、大人になった雄也に、置いてかれるんじゃないかと焦りを感じて。でも俺がアルファになって同じ授業を受けたとして、その先、中学高校大学就職……ずっと一緒には居られないことはわかっていた。

 番になれたら、俺は雄也とずっと一緒に入れるのだろうか?雄也と一緒にいたいからって、男同士で結婚するのか?白いタキシードを着た雄也の隣に、俺が立つ想像はできない。胸の大きなウェディングドレスの似合う子が雄也の手を取る方が想像しやすくて悲しい。悲しい?なんで…?

「アキラ…。アキラ!おーい、大丈夫?」

「あ、雄也。ごめん、なんだっけ」

「…アキラがなんでアルファになりたいのかって話だよ」

 しっかりしてよといいながら雄也は俺を心配そうに覗き込む。顔が近い。幼馴染みの見慣れた、しかし整った顔が、ズイズイとこちらに近づいてくる。下を向いた俺はグイっと雄也の肩を押しやって口を開く。

「、好きな人がオメガだから!ツガイになりたくて。」

 用意していたとおりのセリフを勢いのまま吐く。嘘をつくのに慣れてないからか、胸がドクンドクンと早鐘を打っていた。

「……ビックリした。アキラ、好きな人がいたんだ」

 ふーんだか、へーだか…生返事なことを言いながら、雄也はそっぽを向いた。

「それで、アルファになりたいんだ。そっか…。」

 騙せたのか。俺の嘘を信じてくれたのか。作戦どうりにことが進んで、俺は雄也の背をたたいて、肩を抱いて喜んだ。

「そうなんだよ。お願い雄也!協力してくれよー」

「あぁ、わかった。幼馴染みの初恋だもの。アルファの先生に相談してみるよ。」

 雄也はスケジュール手帳を開くと俺に見せてくる。ビッシリと塾の予定が入った週締めの一時間区切りになったそれは、空白を探す方が難しい。今日の日付だって、あと三十分後には予定が入っているようだった。雄也を縛る忌々しい塾や習い事の字を睨んだ。

「この月曜の放課後、短縮授業だったよね。その時にまた此処で会お」

 次のページをめくり、次をめくり、やっと空白を見つけた雄也はペンで【アキラ】と短く書くとぐるぐると丸く囲む。メモ帳を取り出し、日付を書いた紙を雄也から押し付けられて初めてハッとする。

 知らぬ間に雄也と次回の約束まで取り付けることができた。

「ありがとう!」
「アキラ、忘れないでよ?」

 忘れるわけない。久しぶりに雄也から約束してくれたんだもの。

 俺はルンルンと個室から出て帰路についた。

 その約束の日に

「アルファの精子を飲むといいらしい。」

 と言われるとは思いもよらなかった。
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