34 / 40
2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談
31.アリバイトリック詐欺に要注意!
しおりを挟む
「蛭間……堅蔵氏に……アリバイを詳しく……教えて……もらおう」
河井さんは苦い顔でそう言って、蛭間氏を止めようとしていた警官の方に駆けて行った。いいとこどりしやがって……東堂さんから舌打ちの音が聞こえたような気がする。
僕も同じだ。できれば、あの男の取り調べはしたくない。
「あっ。東堂さん。ちょっと、僕トイレ」
僕が逃げようとしたところ、東堂さんの足蹴りを食らって倒された。そして、冷酷な一言。何故、蛭間氏にしていた目の色を僕に見せるのか……本当に悲しい。
「漏らしなさい……何が何でも陽介君と一緒に話を聞きましょう?」
「分かったから、僕を睨まないで……」
彼女も厳しい男が苦手らしい。
結局、僕と東堂さんで蛭間氏に近寄った。すると、彼は鬼のような顔でこちらに威圧感のある言葉を放ってくる。
「小童どもが……何をするつもりなんだ? さっきから事件現場に近づいて、一番怪しいのは貴様らしかいないだろ! おい! そこの警官、何故俺が疑われてるんだよ! 疑うのは現場を荒らした此奴らだろう!」
「悪いんですけど……私、えっとその。ええと」
東堂さんは年上の相手を訴えたり、睨んだりすることが苦手みたいだ。こういうのが得意な人って……確か。不安が込みあがって、一回吐きそうだ。
「アタシたちは全く事件現場を荒らしていないわ! というか、何であんたがアタシたちが現場を詮索してたことを知ってるわけ!?」
「ふ、古月さん?」
「だから……ふぎゃあ!?」
声を荒げた彼女がリビングへと突入を計る。しかし、ドアにぶつけて倒れてしまった。とても格好悪い……
僕は呆れてリビングの中央にあるテーブルに手をつけた。そう言えば、ここから少し距離(七、八メートル位)はあるが、電話のところに白い紐が置いてあったのが見える。死体が電話の前でこちらに背を向け、死んでいたのがたやすく想像できた。やっぱり、何となく怖いなあ。
目を半開きにした目をそちらに向けていると、肩に古月さんの小さい手が乗った。
「何……その最悪な目」
「い、いや。ただ死体を見てただけで」
「へえ。アタシを死んでると思ったんだ?」
「うわあ! 今は今は、落ち着いて!?」
そこへ蛭間氏が近くにあったテレビのリモコンをこちらの頭にブチ当てようとしていた。な、何を……
「黙れ! この若造を追い出せ……! 遊んでいる馬鹿どもを追い出せ!」
リモコンは床に穴を開けて、僕たちを震え上がらせた。警官も大人しく僕たち四人が外に出るよう促す。
「分かった……もういい……みんな……いきましょ……だいたい……分かったから」
彼の性格を把握した僕たちは河井さんの指示とその恐怖によって、現場を離れることとなる。これで十分なのか……
廊下で河井さんが話してくれたアリバイの詳細。
蛭間氏は午後二時三十分頃から五十分頃、友人と電話をしていたらしい。その友人が悲鳴を聞いてはいなかった。だから、事件現場にいなかった……という訳だ。通話の相手によると、最後は蛭間氏が乱暴に切ってしまったらしい。
僕はその話を耳にして、真っ先に河井さんに確認を取る。
「ねえ。あのさあ、一応これって僕たちが電話しなかったら、アリバイは成立しなくない?」
「……そう」
「あっ!」
「そういうことっ!」
僕は「あー」と悲しさを声に出した。何か、全員思いついてるのに僕だけ何も思いついていないなんて。このアリバイトリックを解けたのか。真実なのか。
分からない……拳に力を入れて、汗を絞り出す。……考えるんだ。
「コンビニがあって。ええと、他に何かあって……ええと、何で何が分かったんだ!? ダメだ。まず、現場に録音機があったんなら、分かるよ……だけど」
「先入観に……囚われてない……」
彼女が薄暗い闇に隠れて、そっとヒントをくれた。
先入観……何が?
「電話……だよ……うちら……まだ、経験してなかったから」
「経験ってなんだ? 初体験なんか知らないよ。全く!」
その声が響いたのか、古月さんや東堂さんのひそひそ話が耳を掠った。何か、途轍もなく恐ろしい勘違いをされているみたい……
気にせず、腕に頬杖をついて思考を展開する。頭の中に広がる靄で前を直視することができなかった。欲しい。その靄を晴らす手がかりが!アリバイは、何がおかしいんだ?
出たのは、彼の父親。彼はまだ死んでいなかったはず。そこで僕は悲鳴を聞いた。……それがアリバイになっているということは……死亡推定時刻と合わせれば、蛭間氏のアリバイが危うくなるかもしれない。
何か体から湧き上がってくる。謎を解いた……見つけた瞬間、とても熱くて自分の力になりそうなものが湧き上がってきた!
あと少し、アリバイを完全に崩したい。何か……ヒントがないか!?
「……電話で亡くなった次郎氏が言ったこと、コンビニと合わせると少し滑稽だと思わない?」
闇を背にいぶかしく笑う古月さんの言葉に一つの単語が記憶の底から張り巡らされていった。
「A・T・M」
庭へ出る。
星が満ちた空。真ん中に真珠のように輝く一等星――今にも流れ出しそうな――を見つけ、僕は声を上げた。
「ねえ! 今日はもう帰ろう!」
河井さんは苦い顔でそう言って、蛭間氏を止めようとしていた警官の方に駆けて行った。いいとこどりしやがって……東堂さんから舌打ちの音が聞こえたような気がする。
僕も同じだ。できれば、あの男の取り調べはしたくない。
「あっ。東堂さん。ちょっと、僕トイレ」
僕が逃げようとしたところ、東堂さんの足蹴りを食らって倒された。そして、冷酷な一言。何故、蛭間氏にしていた目の色を僕に見せるのか……本当に悲しい。
「漏らしなさい……何が何でも陽介君と一緒に話を聞きましょう?」
「分かったから、僕を睨まないで……」
彼女も厳しい男が苦手らしい。
結局、僕と東堂さんで蛭間氏に近寄った。すると、彼は鬼のような顔でこちらに威圧感のある言葉を放ってくる。
「小童どもが……何をするつもりなんだ? さっきから事件現場に近づいて、一番怪しいのは貴様らしかいないだろ! おい! そこの警官、何故俺が疑われてるんだよ! 疑うのは現場を荒らした此奴らだろう!」
「悪いんですけど……私、えっとその。ええと」
東堂さんは年上の相手を訴えたり、睨んだりすることが苦手みたいだ。こういうのが得意な人って……確か。不安が込みあがって、一回吐きそうだ。
「アタシたちは全く事件現場を荒らしていないわ! というか、何であんたがアタシたちが現場を詮索してたことを知ってるわけ!?」
「ふ、古月さん?」
「だから……ふぎゃあ!?」
声を荒げた彼女がリビングへと突入を計る。しかし、ドアにぶつけて倒れてしまった。とても格好悪い……
僕は呆れてリビングの中央にあるテーブルに手をつけた。そう言えば、ここから少し距離(七、八メートル位)はあるが、電話のところに白い紐が置いてあったのが見える。死体が電話の前でこちらに背を向け、死んでいたのがたやすく想像できた。やっぱり、何となく怖いなあ。
目を半開きにした目をそちらに向けていると、肩に古月さんの小さい手が乗った。
「何……その最悪な目」
「い、いや。ただ死体を見てただけで」
「へえ。アタシを死んでると思ったんだ?」
「うわあ! 今は今は、落ち着いて!?」
そこへ蛭間氏が近くにあったテレビのリモコンをこちらの頭にブチ当てようとしていた。な、何を……
「黙れ! この若造を追い出せ……! 遊んでいる馬鹿どもを追い出せ!」
リモコンは床に穴を開けて、僕たちを震え上がらせた。警官も大人しく僕たち四人が外に出るよう促す。
「分かった……もういい……みんな……いきましょ……だいたい……分かったから」
彼の性格を把握した僕たちは河井さんの指示とその恐怖によって、現場を離れることとなる。これで十分なのか……
廊下で河井さんが話してくれたアリバイの詳細。
蛭間氏は午後二時三十分頃から五十分頃、友人と電話をしていたらしい。その友人が悲鳴を聞いてはいなかった。だから、事件現場にいなかった……という訳だ。通話の相手によると、最後は蛭間氏が乱暴に切ってしまったらしい。
僕はその話を耳にして、真っ先に河井さんに確認を取る。
「ねえ。あのさあ、一応これって僕たちが電話しなかったら、アリバイは成立しなくない?」
「……そう」
「あっ!」
「そういうことっ!」
僕は「あー」と悲しさを声に出した。何か、全員思いついてるのに僕だけ何も思いついていないなんて。このアリバイトリックを解けたのか。真実なのか。
分からない……拳に力を入れて、汗を絞り出す。……考えるんだ。
「コンビニがあって。ええと、他に何かあって……ええと、何で何が分かったんだ!? ダメだ。まず、現場に録音機があったんなら、分かるよ……だけど」
「先入観に……囚われてない……」
彼女が薄暗い闇に隠れて、そっとヒントをくれた。
先入観……何が?
「電話……だよ……うちら……まだ、経験してなかったから」
「経験ってなんだ? 初体験なんか知らないよ。全く!」
その声が響いたのか、古月さんや東堂さんのひそひそ話が耳を掠った。何か、途轍もなく恐ろしい勘違いをされているみたい……
気にせず、腕に頬杖をついて思考を展開する。頭の中に広がる靄で前を直視することができなかった。欲しい。その靄を晴らす手がかりが!アリバイは、何がおかしいんだ?
出たのは、彼の父親。彼はまだ死んでいなかったはず。そこで僕は悲鳴を聞いた。……それがアリバイになっているということは……死亡推定時刻と合わせれば、蛭間氏のアリバイが危うくなるかもしれない。
何か体から湧き上がってくる。謎を解いた……見つけた瞬間、とても熱くて自分の力になりそうなものが湧き上がってきた!
あと少し、アリバイを完全に崩したい。何か……ヒントがないか!?
「……電話で亡くなった次郎氏が言ったこと、コンビニと合わせると少し滑稽だと思わない?」
闇を背にいぶかしく笑う古月さんの言葉に一つの単語が記憶の底から張り巡らされていった。
「A・T・M」
庭へ出る。
星が満ちた空。真ん中に真珠のように輝く一等星――今にも流れ出しそうな――を見つけ、僕は声を上げた。
「ねえ! 今日はもう帰ろう!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる