完全犯罪計画部!~ご相談につきどんな完全犯罪でも創ります!~

夜野舞斗

文字の大きさ
39 / 40
2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談

36.高校生と真実を知る絶望

しおりを挟む
「ん? 一体、何が落ちたんだろう……」

 ぼくは興味本位で落ちていた紙を拾い上げる。ついでに中を拝見させてもらった。内容は「塩見 湯治」宛てになっている借金の明細書。

「あれ? それは」
「さっきのゴミです……あっ! お疲れ様です。今日は帰らせていただきます」

 ゴミ箱の中に放り投げると、ぼくは現場から走り去った。本気で帰宅するつもりだ。しかし、鞄を何処かに忘れてしまった。それに気づいた場所で立ち止まる。
 殺人事件の経験は高校生にとって荷が重すぎるものだったのかもしれない。親を殺害する計画を立てた。その理由が金がらみだったことだとすると、なおさらだ。

「やっぱ、訳分かんない。保険金のために親を狙うなんて……これは、何だよ……何だって言うんだよ……」

 この拭きとってもついてくるような胸の苦しみや虚しさが今になって、ぼくの中に入り込んでくる。気持ち悪い。電柱に寄り掛かって、怯えるように高い声を上げる。それを何度も繰り返した。夜道から迫ってくる闇がぼくを覆い隠すものだから、怖くなり目を瞑る。

「あ……あ……もう……」

 悲しい思いも悔しい思いも嗚咽も抑えきれない。溜まったものがぼくの精神を巻き込んで、そのまま外に吐き出されていく。

「怖いよ……何で、こんなことを知らなくちゃなんないの? まだ高校生だよ!?」

 頭を電柱に当てて目元を濡らしたのにも気づかず、ただただ頭に映ったこの事件のビジョンに心を傷つけられていた。この想像は不思議なことに後で聞かされた蛭間氏と湯治さんのやり取りとほぼ同じだった。

――――――――――――――――――――

「な、なんでお前がいるんだ……あの男はいないから、この時間がチャンスだって言ったのは、お前だよな」
「さあさあ、貴方はもう置物を持ってるじゃありませんか。このままじゃあ、不正の他に不法侵入ですから」
「と、湯治。
裏切りやがったな!」
「な、なんだお前らは!?」
「今のうちにっ!」

 湯治さんが被害者の後頭部を殴る。すると即座に被害者は湯治さんの方を前に向け、蛭間氏には後頭部を見せる。そこで次郎氏は殺害された。

「蛭間さん。やっちゃいましたね。貴方が殺人の犯人ですね。僕は普通に逃げられますけど……都合が悪いんなら、僕の言う通りにしてもらいましょうか……」

――――――――――――――――――――

 翼が生えた悪魔の様な顔だったという。まさにその通り。湯治は悪魔としか喩えの仕方がない。
 そんなことを想像していると、さらに心を真実が縛り付けてきた。胸も痛い。特に心が刺されたように痛い。自分が高校生だということを忘れて、水田の中心にある虫の集まる光の下で、目立つことなく自分の思うがままに泣いていた。
事件の真実を知るのは辛すぎるよ。その上、犯行が家族ぐるみだったなんて、恐ろしくて詮索をしたことを死ぬほどに後悔した。そんなものに、ぼくたちも加わっていた事実がぼくの気持ちを執拗に攻撃する。
泣きわめき始めてから、すでに数十分は経っただろうか。涙が涸れて、ほんの少し重荷が軽くなった。

「ふう……やっと……」

「何? 前回の事件では、格好よく決めてたのに、今回案外とダサいのね」
「え?」

 ぼくは電柱の後ろに回り込み急いで涙を腕でふき取って、飛び跳ねている髪の毛を整えてから彼女の前に出た。古月さんの前に。
 そうだ。前回も明るい笑顔で……ぼくは無理矢理、笑顔を作って気持ち悪いほど元気にふるまって見せた。

「な、なんでもないって。ていうか、古月さん。こんな事件に巻き込まれて、親とか執事さんとか心配してるんじゃないの? お嬢様なんだから」

 突然彼女は頬を膨らませて、ぼくの足を踏みつけてきた。しかも、かなり強めに。

「痛っ!」
「お嬢様とか……馬鹿じゃないの! アタシは普通に恥じらいのある女子高校生なんだけど!」

 彼女は顔を突き出し、ぼくを睨みつけてきている。そこで調査の時に彼女にかかせてしまった恥を謝った。これで彼女に頭を下げるのは、何度目だろうか。というか、今週は人生で一番、頭を下げていたかもしれない。

「そこでアタシがあんたを許す。やっぱり可愛らしい女子っていうのは、こういうことをしないとね」
「あれ? いつから古月さんナルシストになったの?」
「へえ」

 再度、足を踏まれる。今回は足に穴が開くところだった。

「はい。失言でした」
「分かればよろしい」

 彼女もぼくを嘲笑い、顔が明るくなっていた。彼女の明るさは、可愛いい。これはこれでありなのかもしれない。……何、彼女をマジマジと見つめていたのだろうか。ぼくは彼女にバレないよう視線をずらした。
 そう言えば、彼女は鞄を二つ持っているのだが。片方って。

「アンタのでしょ」
「ありがとう……って何処へ飛ばしてんの」

 彼女が鞄を放り投げたところ、飛ばす方向を間違えたらしい。鞄は水田に落ちていった。水ポチャ!?

「あらら」
「古月さん!? やっていいこととやって悪いことがあるよ!?」
「ごめんごめん……今日の仕返しだからね……」
「許してくれて……うわあ!?」

 ぼくが鞄を取りに行こうとすると、暗闇で前が見えなくなっていたこともあり、足の踏み場がないところに足を動かしてしまった。ぼくの下半身はびしょ濡れである。最悪に気持ち悪いです。
 なんてことをしてくれるんだ。この悪役令嬢様は……

「ふふふ……また来週……会いましょう。そうそう明日の午後に今回の成功について絵里利から話があるみたいだから、確認しといてね」
「今回の任務は失敗じゃなかったのか……まあ、河井さんにも色々聞きたいからいい機会」
「そうね」
「じゃあ、明日の会議は次の任務の?」

 こういう台詞は普通、地上でクールに放つ言葉のはず。決して手足までもが泥だらけになりながら、水田に落ちた鞄を取りに行く高校生が言うことじゃあないだろ。
 そう思いながら、浮いているぼくの鞄を持った。

「ああ……濡れちゃって、教科書とか……ビニール袋に入ってるよ……これってどうして」
「じゃあ、御影。ご機嫌よう……じゃあね! その鞄自体は明日持ってきなさい!」

 彼女はぼくを嘲笑いながら、逃げるように走っていった。あの明るさは、憎たらしいなあ。……けど、その背中に暗い影を見たのは気のせいか。
 まあ。彼女の悪戯は明日、仕返しを考えるとして。明日の話がアプリのメッセージに入っているかもしれないから、確認しよう。
 ぼくは早速ひび割れたスマートフォンの電源を入れる。

「明日から、完全犯罪計画部の職務は一時終了となります」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...