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天才魔封術使いと呼ばれる少年
天然の母は最強
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と、その時。エリオンが戻ってきた。
しかし、パーティ会場から食べ物を取って来ると言って出て行ったのに、手には何も持っていない。
だが、彼の後ろからメイドの女性が二人ついてきていた。
彼女、立ちが運んできたらしい。
持って来させるのは面倒だと言って、自分で取りに行ったのにしっかりメイドの少女たちに運ばせている。
・・・否。
エリオンが憮然としているところを見ると、少し経緯が違うようだ。
「あら?どうしたの。結局、運んでもらったのね。」
目に見えて不機嫌な息子にミルダが柔らかく苦笑する。だいたいの状況は想像がついているのだ。
そして、ミルダの言葉に口を開いたのはメイドの少女たちだった。
「エリオン様自らお運びになるなんてとんでもありません。」
「そうです。これはわたくし達の仕事。
エリオン様はお寛ぎになって、呼び鈴で読んでくださればよいのですよ。」
エリオンの代わりに食事を運んで来たメイドの少女二人が口々に言う。
その言葉でアルスにも状況が掴めた。
エリオンは別に他人を使うのが嫌いなわけではない。メイドが運ぶのが嫌だとかそういうわけではないのだ。ただ、自分でやる方が手っ取り早い場合は他人にさせるのを嫌う。余計に面倒だと言って。
今回は自分で運んだ方が早いと思ったのだが、途中でこの二人に見つかり、散々文句を言われ、結局は彼女たちに運んでもらうことになったのだ。
そういえば、戻って来るのに少し時間がかかっているなとはアルスも思っていたのだ。それはこの二人と揉めていたせいらしい。
ミルダは仕事熱心なメイドの少女達と不機嫌丸出しな息子を見比べていた。
そして、真面目な顔で息子に言った。
「それはあなたが悪いわね。
彼女たちは一生懸命仕事をしてくれているのに。彼女たちに恥をかかせるようなことをしてはいけないわ。
あなたは男の子よ。女性には気を使わないと。」
ミルダは本気で言っている。
だが、微妙にずれた母の言葉にエリオンはどう答えたものかと本気で悩んだ。
そんなエリオンとミルダをそっと見比べて、アルスは考え込んだ。
先ほど、真面目な顔でエリオンのことを助けてほしいと語ったミルダは今のようなオトボケなことを言う感じではなかった。本当に真面目にすればあの状態なのだとしたら、このオトボケ具合は演技ではないかとも思ってしまう。
しかし、オトボケな彼女は真面目な顔をしていて、演技には見えない。
結論として、アルスのミルダに対する評価は、『真面目なこともを言えるが基本的には天然ボケなズレた思考の人』ということで決定した。
「「ミルダ様は分かって下さるんですねっ!!」」
ミルダが味方になったことでさらにパワーアップした少女たちは同時にハモり、勢いづく。
面倒なことになったとエリオンは溜息をついた。
最終的にはこれ以上の面倒を避けたエリオンが折れて事態は収拾することになった。
「分かった・・・。次から気をつけりゃあいいんだろ。」
ふてくされたように、髪を掻き上げる。そして、溜息をつくと、壁際にある高級な革張りのベンチ椅子にドカッと腰をおろした。
エリオンが邪魔をしないことを態度で意思表示したことで、メイドの少女二人は力を合わせて、食事のセッティングを始める。
テーブルと椅子をミルダのいるベッドの隣へ運び、ベッド脇にセットする。
そして、てきぱきと食事や飲み物のグラスをテーブルに並べていく。
全てが完了すると、
「御用があればお呼びください。」
と、言って深々と頭を下げ、部屋から下がっていった。
「ちっ。
あの二人、入ったばっかでやる気があり過ぎんだよな。」
エリオンはぼやきながら、ミルダのベッド脇にセッティングされたテーブルのところへやってきた。
ドカッと椅子に座る。
「とか言いながら、彼女たちが準備しやすいように、壁際にどいてたじゃないか。結構、彼女たちのこと気に入ってるんじゃないの?」
アルスがからかうとエリオンは平然と答えた。
「邪魔して、さらにうるさくなると面倒だろ。」
嘯く(うそぶく)エリオンにアルスは呆れた。
素直じゃないなぁ。
そんなことを思ったが、口にも顔にも出さないでおく。
倍返しの嫌味が返ってきそうだから。
だが、それを口に出した人物がいた。当然、この部屋の主でエリオンの母のミルダだ。
「あらあら。素直じゃないエリオンは可愛くて素敵よ。
お母さんは大好き。」
変わった思考の持ち主であるミルダはにこやかに笑いながら、大真面目に言った。
可愛くて素敵。
瞬間、母やアルスより一足先に、料理を口に運ぼうとしていたエリオンの動きが静止する。
フォークに突き刺した肉が口に入る直前で、コロンとテーブルに落ちた。
フォークは口元で止まったままだ。
しかし、一瞬で持ち直しにっこりと母に笑い返す。
「おれも、母さんのこと大好きだよ。」
そう答えるとエリオンは落下した肉を拾って捨て、平然と食事を始めた。
母の言動には慣れていたはずなのに、不意を突かれて思わず思考が停止した自分が情けない。この母親はあのダルドのことも『可愛い性格』と表現するのだ。あの嫌味で陰険な男を『ちょっと捻くれた』可愛い性格だという。
これだけ大きくなった息子にも当然のように、普通に可愛いくて素敵と表現する。
そんなやりとりを見ていたアルスは沈黙した。真顔で言えるミルダはすごいと思う。本人は意図せず、相手に大ダメージを与えらるところも。
エリオンも大変そうだなぁ。
アルスは何事もなかったかのように、隣で食事をしているエリオンをそっと盗み見て思った。
しかし、パーティ会場から食べ物を取って来ると言って出て行ったのに、手には何も持っていない。
だが、彼の後ろからメイドの女性が二人ついてきていた。
彼女、立ちが運んできたらしい。
持って来させるのは面倒だと言って、自分で取りに行ったのにしっかりメイドの少女たちに運ばせている。
・・・否。
エリオンが憮然としているところを見ると、少し経緯が違うようだ。
「あら?どうしたの。結局、運んでもらったのね。」
目に見えて不機嫌な息子にミルダが柔らかく苦笑する。だいたいの状況は想像がついているのだ。
そして、ミルダの言葉に口を開いたのはメイドの少女たちだった。
「エリオン様自らお運びになるなんてとんでもありません。」
「そうです。これはわたくし達の仕事。
エリオン様はお寛ぎになって、呼び鈴で読んでくださればよいのですよ。」
エリオンの代わりに食事を運んで来たメイドの少女二人が口々に言う。
その言葉でアルスにも状況が掴めた。
エリオンは別に他人を使うのが嫌いなわけではない。メイドが運ぶのが嫌だとかそういうわけではないのだ。ただ、自分でやる方が手っ取り早い場合は他人にさせるのを嫌う。余計に面倒だと言って。
今回は自分で運んだ方が早いと思ったのだが、途中でこの二人に見つかり、散々文句を言われ、結局は彼女たちに運んでもらうことになったのだ。
そういえば、戻って来るのに少し時間がかかっているなとはアルスも思っていたのだ。それはこの二人と揉めていたせいらしい。
ミルダは仕事熱心なメイドの少女達と不機嫌丸出しな息子を見比べていた。
そして、真面目な顔で息子に言った。
「それはあなたが悪いわね。
彼女たちは一生懸命仕事をしてくれているのに。彼女たちに恥をかかせるようなことをしてはいけないわ。
あなたは男の子よ。女性には気を使わないと。」
ミルダは本気で言っている。
だが、微妙にずれた母の言葉にエリオンはどう答えたものかと本気で悩んだ。
そんなエリオンとミルダをそっと見比べて、アルスは考え込んだ。
先ほど、真面目な顔でエリオンのことを助けてほしいと語ったミルダは今のようなオトボケなことを言う感じではなかった。本当に真面目にすればあの状態なのだとしたら、このオトボケ具合は演技ではないかとも思ってしまう。
しかし、オトボケな彼女は真面目な顔をしていて、演技には見えない。
結論として、アルスのミルダに対する評価は、『真面目なこともを言えるが基本的には天然ボケなズレた思考の人』ということで決定した。
「「ミルダ様は分かって下さるんですねっ!!」」
ミルダが味方になったことでさらにパワーアップした少女たちは同時にハモり、勢いづく。
面倒なことになったとエリオンは溜息をついた。
最終的にはこれ以上の面倒を避けたエリオンが折れて事態は収拾することになった。
「分かった・・・。次から気をつけりゃあいいんだろ。」
ふてくされたように、髪を掻き上げる。そして、溜息をつくと、壁際にある高級な革張りのベンチ椅子にドカッと腰をおろした。
エリオンが邪魔をしないことを態度で意思表示したことで、メイドの少女二人は力を合わせて、食事のセッティングを始める。
テーブルと椅子をミルダのいるベッドの隣へ運び、ベッド脇にセットする。
そして、てきぱきと食事や飲み物のグラスをテーブルに並べていく。
全てが完了すると、
「御用があればお呼びください。」
と、言って深々と頭を下げ、部屋から下がっていった。
「ちっ。
あの二人、入ったばっかでやる気があり過ぎんだよな。」
エリオンはぼやきながら、ミルダのベッド脇にセッティングされたテーブルのところへやってきた。
ドカッと椅子に座る。
「とか言いながら、彼女たちが準備しやすいように、壁際にどいてたじゃないか。結構、彼女たちのこと気に入ってるんじゃないの?」
アルスがからかうとエリオンは平然と答えた。
「邪魔して、さらにうるさくなると面倒だろ。」
嘯く(うそぶく)エリオンにアルスは呆れた。
素直じゃないなぁ。
そんなことを思ったが、口にも顔にも出さないでおく。
倍返しの嫌味が返ってきそうだから。
だが、それを口に出した人物がいた。当然、この部屋の主でエリオンの母のミルダだ。
「あらあら。素直じゃないエリオンは可愛くて素敵よ。
お母さんは大好き。」
変わった思考の持ち主であるミルダはにこやかに笑いながら、大真面目に言った。
可愛くて素敵。
瞬間、母やアルスより一足先に、料理を口に運ぼうとしていたエリオンの動きが静止する。
フォークに突き刺した肉が口に入る直前で、コロンとテーブルに落ちた。
フォークは口元で止まったままだ。
しかし、一瞬で持ち直しにっこりと母に笑い返す。
「おれも、母さんのこと大好きだよ。」
そう答えるとエリオンは落下した肉を拾って捨て、平然と食事を始めた。
母の言動には慣れていたはずなのに、不意を突かれて思わず思考が停止した自分が情けない。この母親はあのダルドのことも『可愛い性格』と表現するのだ。あの嫌味で陰険な男を『ちょっと捻くれた』可愛い性格だという。
これだけ大きくなった息子にも当然のように、普通に可愛いくて素敵と表現する。
そんなやりとりを見ていたアルスは沈黙した。真顔で言えるミルダはすごいと思う。本人は意図せず、相手に大ダメージを与えらるところも。
エリオンも大変そうだなぁ。
アルスは何事もなかったかのように、隣で食事をしているエリオンをそっと盗み見て思った。
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