1 / 36
0.プロローグ
スロット1
しおりを挟む
高畑洋にとっては答案の解説なんてどうでもよかった。ちょうど昼休みで弁当を食べた後ということもあり、眠気は心地よく、しかし夏らしい暑さとセミのけたたましい叫びに眠ることすら許されない。こうなると心地よさはむしろ苦痛だろうが、多くの生徒にとってはこの左記のことを思い描きながら、苦しみを甘んじて受け入れている。面白みのない期末テストの解説はこのあとに控える夏休みの布石だった。
高畑はしかし、夏休み直前にある浮足立った感じを全てシャットアウトして、ひたすらにノートの隅に書き込んだ言葉を見下ろしていた。人の名前、今年の四月に同じ部活動、図書部の後輩となった男の名前だった。
石田拓朗。高畑はその名前に下線を引いた。教諭の目にとまらぬよう、机の影に隠しながらスマートフォンを開けば、LINEのチャット画面があった。彼とのやり取りが残っていた。最後の更新は数日前、それからは何もなかった。
次には、昼休み、図書室に集まった部員たちと食事をしている間に聞かされた話が脳裏を繰り返しよぎる。
「石田が行方不明になった」
顧問から告げられた言葉に部員たちは顔を見合わせ、最後には石田拓朗の兄に視線を集中させるのだった。
高畑たちが投げかける視線での問いかけに、石田孝之は手にしていた弁当箱を置いて答える。
「もうしばらく帰ってきていない」
発した言葉はそれだけだった。だが、高畑たちにとってはそれで十分だった。
同じクラスの浦多佳子。
後輩で石田拓朗と同じ一年の前澤明。
互いに互いを見合い、そうしてから押し黙ってしまった。全員が全員、同じことを考えて、同じ問いかけをしようとして、視線を合わせただけで同じ答えをしたのだ。
石田拓朗は『境界の扉』に触れてしまった。
石田拓朗は、『境界の扉』に触れてしまったのか?
実はそれ、同じことを考えていた。
目配せをするだけで図書部の部員たちは会話をして理解してしまったのだ。
どんよりとした沈黙の後、食べかけの弁当の蓋を閉じて席を立ったのは前澤だった。浦は購買部で買ったらしいパンを口に詰め込むなり図書室をあとにした。石田孝之は再び弁当を手にとって食べ始める。高畑は一言、
「すみません」
と口にして、同じく食事を続けた。
石田拓朗は『境界の扉』に触れた。開いた。
このことが図書部員に重くのしかかったのである。
高畑はしかし、夏休み直前にある浮足立った感じを全てシャットアウトして、ひたすらにノートの隅に書き込んだ言葉を見下ろしていた。人の名前、今年の四月に同じ部活動、図書部の後輩となった男の名前だった。
石田拓朗。高畑はその名前に下線を引いた。教諭の目にとまらぬよう、机の影に隠しながらスマートフォンを開けば、LINEのチャット画面があった。彼とのやり取りが残っていた。最後の更新は数日前、それからは何もなかった。
次には、昼休み、図書室に集まった部員たちと食事をしている間に聞かされた話が脳裏を繰り返しよぎる。
「石田が行方不明になった」
顧問から告げられた言葉に部員たちは顔を見合わせ、最後には石田拓朗の兄に視線を集中させるのだった。
高畑たちが投げかける視線での問いかけに、石田孝之は手にしていた弁当箱を置いて答える。
「もうしばらく帰ってきていない」
発した言葉はそれだけだった。だが、高畑たちにとってはそれで十分だった。
同じクラスの浦多佳子。
後輩で石田拓朗と同じ一年の前澤明。
互いに互いを見合い、そうしてから押し黙ってしまった。全員が全員、同じことを考えて、同じ問いかけをしようとして、視線を合わせただけで同じ答えをしたのだ。
石田拓朗は『境界の扉』に触れてしまった。
石田拓朗は、『境界の扉』に触れてしまったのか?
実はそれ、同じことを考えていた。
目配せをするだけで図書部の部員たちは会話をして理解してしまったのだ。
どんよりとした沈黙の後、食べかけの弁当の蓋を閉じて席を立ったのは前澤だった。浦は購買部で買ったらしいパンを口に詰め込むなり図書室をあとにした。石田孝之は再び弁当を手にとって食べ始める。高畑は一言、
「すみません」
と口にして、同じく食事を続けた。
石田拓朗は『境界の扉』に触れた。開いた。
このことが図書部員に重くのしかかったのである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる