2 / 17
1話:異世界への転移と違和感
しおりを挟む
_________誰かが呼ぶ声がする。
目を開けるとそこは、鉛色の空と影のついた草原。草原を覆う霧が、その空気をさらに重々しいものへと変えている。つまり、いつもの夢の光景だ。
けれどなんだか、いつもより見える範囲が広がった気がするのは気のせいだろうか?木葉(このは)はその脳をフル回転して記憶から夢の景色をひねり出そうとするも、どうしても思い出せない。結局、感覚で測るしか無くなってしまう。
測り方は簡単だ。木葉と、女の子の距離感である。いつものように目の前に立つ少女は、いつもより離れたところに立っていた。夢の中では女の子の後ろというのは霧に隠れて全く見えなかったのだから、距離の目測は必然的に女の子が基準点となる。その女の子がいつもより離れたところに立っていると感じたのだから、それはつまり霧が後退していることを示しているに違いないのだ。
(そうだ、私はこの子に、名前を聞きたかったんだ)
6年も会い続けているのに、そう意識することがなんらかの力によって阻まれていたような気がした。今日は何故かその『質問』が真っ先に頭に浮かぶ。
「え、えっと……」
「コノハ……」
「……へ?」
少女に名前を呼ばれて、やはりどきりとしてしまう。顔も見えないのに、少女のクリアな声からその造形が想像できる。真っ先に思いついたのが、幼い時に絵本で見たシンデレラだった。次に白雪姫、人魚姫、かぐや姫……一貫性がない。
「そうね、、私の名前は、まだ教えられない」
「!?……どうして?私、貴方の名前を知り
たい!!貴方の顔だって!」
そこまで言って、私は不意に微笑んだ少女の表情を見て、何も言えなくなってしまった。
「私は__________だから、きっと________なの。でもね、コノハ。_______だよ。だから、いつか、いつか
_____________私を連れ出してほしいな」
少女がにっこりと微笑む。ああ、だめだ。この感覚はダメだ、覚めてしまう。夢が終わってしまう。いつもそうだ、と木葉は思う。いつもいつも、木葉がその子に手を伸ばそうとするところでその夢は終わってしまう。それがたまらなくもどかしくて、木葉は時々涙を流したまま目を覚ます。そうしてその内容を忘れてしまうのだ。
ただ覚えているのは、灰色の草原で女の子と出会って、、真剣を撃ち合うこと。二本の日本刀が揺らめくその描写だけは、何故かカラフルな世界に彩られている。
だけど、木葉は今回ばかりは、それをすることが許せなかった
「だめだよ……」
「え?」
「忘れたくないッ!!私は、この夢の中で貴方と喋ったことも貴方の声も、その表情も、忘れたくないよッ!」
その瞬間、少女の表情がさらに見えた気がした。髪の毛は、青みかかった黒。顔はまだわからなかったけど、そのミステリアスな雰囲気が木葉を魅了してやまなかった。その髪には、青と銀の鉱石で装飾された星が連なったような髪飾りが付いている。少女は驚いたように立ちすくんでいたが、やがて何かを決意したようにして木葉のところに歩みを進めた。
近くまで来たというのに、その顔は相変わらず真っ黒なクレヨンで塗りつぶされたかのように見ることができない。けれども歩み寄って、木葉の手を取った少女は、、間違いなく笑顔だった。少女は美しい髪飾りを髪から外して、木葉の手のひらに押し付けた。チャリっという金属の擦れる音がして、木葉の手のひらに重みがかかる。
「え、えと、これは?」
「もってて……お守り」
その瞬間、霧が広がったように視界が遮られていった。夢が醒める前兆だ。
「ま、待って!!私はまだ!!」
夢が醒める瞬間、木葉は彼女の口の動きをかろうじて読み取ることができた
__________ま…………………らね
……
…………
……………………
「うぅ……あ、あれ?」
「よかった!!起きたのね、木葉ちゃん!」
柔らかい何かに包まれて、木葉は目を覚ました。それは尾花(おばな)花蓮(かれん)の胸の感触だったらしい。お嬢様系女子の包容力は凄まじいようで、木葉は危うく二度寝に至る所であった
「危うくない!寝てる、寝てるよ木葉ちゃん!二度寝はダメよ!」
「うぅ、花蓮ちゃんの手、あったかいな」すぴー
「嗚呼、木葉ちゃんの寝顔がこんなに近くに!!ここが、天国!?」
余裕を取り戻したのか、あまりにも可愛すぎる木葉の寝顔を見て鼻血を垂らし始めるくらいには通常運転に戻っていた。それを見守っていたクラスメイトたちも若干引いている。
「良かった!木葉起きたんだな!」
「樹咲ちゃん!うわぁぁぁん!」
木葉が樹咲に抱きつく。169センチと、比較的女子の中でも高身長の樹咲なので、木葉との身長差はなかなかのものだ。自分を頼って抱きついてきてくれたことを内心喜びつつ、樹咲は木葉を落ち着けようとその髪を撫でた。一方樹咲へと浮気されてしまった花蓮はかなり不機嫌そうである。
「よかった……これで全員目を覚ましましたね…」
笹ちゃん先生こと最上笹乃先生。先生という大人がいることで、木葉の安心度がさらに増していった
「笹ちゃん先生!!」
「こ、木葉さ、ぷぎゃぁあ!!」
「よかった…………よかったよぉ…」
木葉が笹乃に抱きつく。花蓮と樹咲が嫉妬したように笹乃を睨んだため、一瞬ビクッとなってしまった。しかし木葉の不思議そうな顔を見ていると、この子を抱きしめていたいという気持ちが強く勝り、そんなことは気にならなくなった。
「えっと、それで、ここはどこなんですか?」
みたところ1-5のクラスメイト全員が、この空間にいるらしい。ここはどこかの建物の中らしく、ステンドグラスの窓、並ぶ固定式の長椅子といった内装から、どこか教会のようなものを連想できる。
そして奇妙なものがもういくつか。それが彼らだ。
「ああ、最後の1人がお目覚めになられたようですね。僥倖です。さて、お話の続きをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
目の前に現れたのは、真っ白の布を纏った神官のような出で立ちの人たちだった。最前列にでている男は柔和な笑みを浮かべているが、他の連中は真っ白な仮面を被っており、かなり不気味な様子だ。
「えっと、この人は?」
「あ、えっと、櫛引(くしびき)さんが倒れてる時に説明してたから話せば長くなるんだけど……ていうか私もまだ理解が追いついてないんですけど…」
どうも笹ちゃん先生の歯切れが悪い。そんなにわけのわからない話でもしたのだろうか?
「落ち着いて聞いてくださいね?」
「う、うん」
「私たちは、、、どうやら異世界を救う救世主としてここに召喚された『勇者』様御一行、らしいのです……」
「………………………へ?」
……
…………
…………………
ナレーションが説明しよう。笹ちゃん先生によると、1-5の生徒たちはここ【神聖パレシア王国】に、この世界を救う『勇者』として異世界召喚されたというわけだ。え?わけがわからないよ?うーん、困ったな
「ですから!魔族が現れるようになって、【魔王】の復活も予言されて、【亜人族】も暴れるようになって、我々は大変危機に陥っているのです!!どうか、どうか勇者様ご一行のお力を貸して頂きたくッ!!」
「ど、どうしよう花蓮ちゃん……私今この人が何いってたのか全然わかんない!」
「安心して木葉ちゃん。私もわからないわ」
木葉としては現実感のない単語が続出しすぎて頭が混乱しているのだ。実際先に説明されていた笹ちゃん先生たちですら未だに理解できていない。
「つまりあれだろ?この世界にいる亜人族ってのと魔族ってのが人間に危害を加えるようになったから、それで俺たちを『勇者』として召喚して、元凶である『魔王』を倒して欲しいってことだっしょ?やば、やべぇやべぇ、上がってきたわぁ~」
金髪オールバックの男子が興奮気味な表情でそう言う。彼の名は『天童 零児(てんどう れいじ)』。こう見えて結構なオタクで、異世界だのなんだのには憧れていたらしい。先ほど木葉とともに新作ゲームを見ていたのが彼だ。
「飲み込み早え。さっすがオタク、もうモロバレじゃねぇか!」
こうやって囃し立てている茶髪の短髪男子が、零児とよくつるんでいる『戸沢 菅都(とざわ かんと)』だ。サッカー部に所属するチャラ男風の彼もまた、1-5の中心的な人物である。
「取り敢えずみんな落ち着け。木葉も起きたことだし、今はみんなで一丸となってこの事態を打破することが大切だよ」
明るめの茶髪のイケメンは、クラスのまとめ役である『白鷹 語李(しらたか がたり)』。とにかくいい奴で、文武両道の超人だ。学年では、木葉に釣り合う男子は彼くらいだろうと噂されているレベルである。
「ご理解とご協力感謝します。では、重要なことを話させてていただきます」
目の前の胡散臭そうな男が再び話し始めた。さぁ、ナレーションの解説タイムと洒落込もう。
まず1-5の彼らを襲ったのは、『戻れない』という事実だった。なんでも彼らを呼び出したのは【満月様(まんげつさま)】とかいう神様らしく、その神様のいう『世界の救済』を成し遂げるまで現場での日本への帰還は困難であるとのことらしい。異世界にいる間は、神聖パレシア王国と【満月教会】という宗教団体がバックアップに当たるらしい。
これには流石に笹ちゃん先生が憤慨した。ふざけるな、生徒たちは関係ない!私たちを日本に帰せ!と。が、しかし、そんなことは不可能であると断言され、あれこれの説得を経てとりあえずは落ち着くこことなった。
「………それで、俺たちはどうすればいいんですか?その『魔王』と戦う云々の前に、俺たちはただの学生です。戦う力なんて持っていない」
白鷹語李(しらたかがたり)の言い分はもっともだ。ただの学生を勇者として召喚するのはおかしくないだろうか?
「異世界から召喚された勇者様方には、『役職』と『スキル』というものが満月様から与えられます。これがあれば、おそらく魔族や亜人族に対抗できるでしょう」
「!?……それを使って戦えと?」
「本来なら早めに役職とスキルを検査しておきたいのですが………さぞお疲れかと思われますし、状況を整理したいとお思いになるのも当然のことでございます。検査は明日にして、本日は王国の宮殿内に部屋を用意させていただきました。どうかごゆっくりお休みくださいませ」
「…宮殿内、ということは王家のような方々が住むところだと思ってるのですが、我々のような部外者を入れても大丈夫なのですか?」
「話は王国上層部では通っております。明日、国王陛下に謁見していただくことになりますので、時間は後ほどお知らせいたします。宮殿は、この上となっております。では、お部屋に案内しますので私についてきてください」
白鷹語李が理知的に話を進めたため、なんとか第一関門をクリアしたらしい。とは言え、こんなファンタジーもいいところのお話を直ぐに信じることなどできず、生徒たちは不安と恐怖で押しつぶされそうになっていた。いつも通りなら、ここで櫛引木葉や白鷹語李が何か発言してみんなを落ち着けるのだが、、両者ともだんまりを決め込んでしまった。それを察した笹ちゃん先生が、みんなの前に躍り出る
「みなさん!」
「……」
「多分今、不安でいっぱいという方が多いと思います。帰りたいって強く願ってると思います。でも、今は彼らに従いましょう。戻れないのならば、1-5のみんなで結束して行きましょう。体育祭を、文化祭を思い出してください!今までだってみんなで結束してきたら、なんとかなってきました。異世界でだって同じです!」
「……で、でも。先生…」
「先生がみんなを責任を持って日本に送り届けます!約束です!だから、私を信じてください!帰れる方法はきっと見つかるはずです!」
辿々しく、お世辞にも上手とは言えないスピーチ。それでも先生の、信頼する大人の心強い発言に生徒たちの心にはわずかに希望の火が宿った。そのまま白鷹語李や天童零児、戸沢官都らが囃し立て、宮殿への道中は思いのほか賑やかなものであった。
しかし一部の生徒はとあることを心配していた。
櫛引木葉についてのことである。
いつも元気一杯の彼女が、どうしてだかいつもより圧倒的に口数が少ないのだ。それも何か思いつめたように考え込んだ様子で、どうも話しかけていい雰囲気ではなかった。
そして当の櫛引木葉はというと
(なんか、変)
自分の身体に違和感を感じていた。何か得体の知れないものが、自分の中に入っているような感覚が続き、心臓の鼓動が早まるのを感じる。血の巡りが早く、なんらかの異常が起こっているのは明らかだった。
(怖い……怖いよ……)
木葉は、いつのまにか自分が髪飾りを握っていたことに気づいた。小さな紫陽花のような色の蒼い星が、いくつも連なり、鮮やかな銀細工が施された高価そうな髪飾り。そしてもう一つ、木葉の首には、やはり蒼い宝石が散りばめられたロザリオ。真っ先に考えつくのはあの夢だ。しかし木葉は、その夢の内容を思い出せなかった。
(でも、あの子は、あの女の子が言った最後の言葉は覚えてる。あの子は私に確かにこう言ったんだ)
___________待ってるからね
その時、木葉の中で時計が動き出したような気がした。違和感を抱えつつ、木葉たちは宮殿への長い階段を上っていくのだった。
目を開けるとそこは、鉛色の空と影のついた草原。草原を覆う霧が、その空気をさらに重々しいものへと変えている。つまり、いつもの夢の光景だ。
けれどなんだか、いつもより見える範囲が広がった気がするのは気のせいだろうか?木葉(このは)はその脳をフル回転して記憶から夢の景色をひねり出そうとするも、どうしても思い出せない。結局、感覚で測るしか無くなってしまう。
測り方は簡単だ。木葉と、女の子の距離感である。いつものように目の前に立つ少女は、いつもより離れたところに立っていた。夢の中では女の子の後ろというのは霧に隠れて全く見えなかったのだから、距離の目測は必然的に女の子が基準点となる。その女の子がいつもより離れたところに立っていると感じたのだから、それはつまり霧が後退していることを示しているに違いないのだ。
(そうだ、私はこの子に、名前を聞きたかったんだ)
6年も会い続けているのに、そう意識することがなんらかの力によって阻まれていたような気がした。今日は何故かその『質問』が真っ先に頭に浮かぶ。
「え、えっと……」
「コノハ……」
「……へ?」
少女に名前を呼ばれて、やはりどきりとしてしまう。顔も見えないのに、少女のクリアな声からその造形が想像できる。真っ先に思いついたのが、幼い時に絵本で見たシンデレラだった。次に白雪姫、人魚姫、かぐや姫……一貫性がない。
「そうね、、私の名前は、まだ教えられない」
「!?……どうして?私、貴方の名前を知り
たい!!貴方の顔だって!」
そこまで言って、私は不意に微笑んだ少女の表情を見て、何も言えなくなってしまった。
「私は__________だから、きっと________なの。でもね、コノハ。_______だよ。だから、いつか、いつか
_____________私を連れ出してほしいな」
少女がにっこりと微笑む。ああ、だめだ。この感覚はダメだ、覚めてしまう。夢が終わってしまう。いつもそうだ、と木葉は思う。いつもいつも、木葉がその子に手を伸ばそうとするところでその夢は終わってしまう。それがたまらなくもどかしくて、木葉は時々涙を流したまま目を覚ます。そうしてその内容を忘れてしまうのだ。
ただ覚えているのは、灰色の草原で女の子と出会って、、真剣を撃ち合うこと。二本の日本刀が揺らめくその描写だけは、何故かカラフルな世界に彩られている。
だけど、木葉は今回ばかりは、それをすることが許せなかった
「だめだよ……」
「え?」
「忘れたくないッ!!私は、この夢の中で貴方と喋ったことも貴方の声も、その表情も、忘れたくないよッ!」
その瞬間、少女の表情がさらに見えた気がした。髪の毛は、青みかかった黒。顔はまだわからなかったけど、そのミステリアスな雰囲気が木葉を魅了してやまなかった。その髪には、青と銀の鉱石で装飾された星が連なったような髪飾りが付いている。少女は驚いたように立ちすくんでいたが、やがて何かを決意したようにして木葉のところに歩みを進めた。
近くまで来たというのに、その顔は相変わらず真っ黒なクレヨンで塗りつぶされたかのように見ることができない。けれども歩み寄って、木葉の手を取った少女は、、間違いなく笑顔だった。少女は美しい髪飾りを髪から外して、木葉の手のひらに押し付けた。チャリっという金属の擦れる音がして、木葉の手のひらに重みがかかる。
「え、えと、これは?」
「もってて……お守り」
その瞬間、霧が広がったように視界が遮られていった。夢が醒める前兆だ。
「ま、待って!!私はまだ!!」
夢が醒める瞬間、木葉は彼女の口の動きをかろうじて読み取ることができた
__________ま…………………らね
……
…………
……………………
「うぅ……あ、あれ?」
「よかった!!起きたのね、木葉ちゃん!」
柔らかい何かに包まれて、木葉は目を覚ました。それは尾花(おばな)花蓮(かれん)の胸の感触だったらしい。お嬢様系女子の包容力は凄まじいようで、木葉は危うく二度寝に至る所であった
「危うくない!寝てる、寝てるよ木葉ちゃん!二度寝はダメよ!」
「うぅ、花蓮ちゃんの手、あったかいな」すぴー
「嗚呼、木葉ちゃんの寝顔がこんなに近くに!!ここが、天国!?」
余裕を取り戻したのか、あまりにも可愛すぎる木葉の寝顔を見て鼻血を垂らし始めるくらいには通常運転に戻っていた。それを見守っていたクラスメイトたちも若干引いている。
「良かった!木葉起きたんだな!」
「樹咲ちゃん!うわぁぁぁん!」
木葉が樹咲に抱きつく。169センチと、比較的女子の中でも高身長の樹咲なので、木葉との身長差はなかなかのものだ。自分を頼って抱きついてきてくれたことを内心喜びつつ、樹咲は木葉を落ち着けようとその髪を撫でた。一方樹咲へと浮気されてしまった花蓮はかなり不機嫌そうである。
「よかった……これで全員目を覚ましましたね…」
笹ちゃん先生こと最上笹乃先生。先生という大人がいることで、木葉の安心度がさらに増していった
「笹ちゃん先生!!」
「こ、木葉さ、ぷぎゃぁあ!!」
「よかった…………よかったよぉ…」
木葉が笹乃に抱きつく。花蓮と樹咲が嫉妬したように笹乃を睨んだため、一瞬ビクッとなってしまった。しかし木葉の不思議そうな顔を見ていると、この子を抱きしめていたいという気持ちが強く勝り、そんなことは気にならなくなった。
「えっと、それで、ここはどこなんですか?」
みたところ1-5のクラスメイト全員が、この空間にいるらしい。ここはどこかの建物の中らしく、ステンドグラスの窓、並ぶ固定式の長椅子といった内装から、どこか教会のようなものを連想できる。
そして奇妙なものがもういくつか。それが彼らだ。
「ああ、最後の1人がお目覚めになられたようですね。僥倖です。さて、お話の続きをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
目の前に現れたのは、真っ白の布を纏った神官のような出で立ちの人たちだった。最前列にでている男は柔和な笑みを浮かべているが、他の連中は真っ白な仮面を被っており、かなり不気味な様子だ。
「えっと、この人は?」
「あ、えっと、櫛引(くしびき)さんが倒れてる時に説明してたから話せば長くなるんだけど……ていうか私もまだ理解が追いついてないんですけど…」
どうも笹ちゃん先生の歯切れが悪い。そんなにわけのわからない話でもしたのだろうか?
「落ち着いて聞いてくださいね?」
「う、うん」
「私たちは、、、どうやら異世界を救う救世主としてここに召喚された『勇者』様御一行、らしいのです……」
「………………………へ?」
……
…………
…………………
ナレーションが説明しよう。笹ちゃん先生によると、1-5の生徒たちはここ【神聖パレシア王国】に、この世界を救う『勇者』として異世界召喚されたというわけだ。え?わけがわからないよ?うーん、困ったな
「ですから!魔族が現れるようになって、【魔王】の復活も予言されて、【亜人族】も暴れるようになって、我々は大変危機に陥っているのです!!どうか、どうか勇者様ご一行のお力を貸して頂きたくッ!!」
「ど、どうしよう花蓮ちゃん……私今この人が何いってたのか全然わかんない!」
「安心して木葉ちゃん。私もわからないわ」
木葉としては現実感のない単語が続出しすぎて頭が混乱しているのだ。実際先に説明されていた笹ちゃん先生たちですら未だに理解できていない。
「つまりあれだろ?この世界にいる亜人族ってのと魔族ってのが人間に危害を加えるようになったから、それで俺たちを『勇者』として召喚して、元凶である『魔王』を倒して欲しいってことだっしょ?やば、やべぇやべぇ、上がってきたわぁ~」
金髪オールバックの男子が興奮気味な表情でそう言う。彼の名は『天童 零児(てんどう れいじ)』。こう見えて結構なオタクで、異世界だのなんだのには憧れていたらしい。先ほど木葉とともに新作ゲームを見ていたのが彼だ。
「飲み込み早え。さっすがオタク、もうモロバレじゃねぇか!」
こうやって囃し立てている茶髪の短髪男子が、零児とよくつるんでいる『戸沢 菅都(とざわ かんと)』だ。サッカー部に所属するチャラ男風の彼もまた、1-5の中心的な人物である。
「取り敢えずみんな落ち着け。木葉も起きたことだし、今はみんなで一丸となってこの事態を打破することが大切だよ」
明るめの茶髪のイケメンは、クラスのまとめ役である『白鷹 語李(しらたか がたり)』。とにかくいい奴で、文武両道の超人だ。学年では、木葉に釣り合う男子は彼くらいだろうと噂されているレベルである。
「ご理解とご協力感謝します。では、重要なことを話させてていただきます」
目の前の胡散臭そうな男が再び話し始めた。さぁ、ナレーションの解説タイムと洒落込もう。
まず1-5の彼らを襲ったのは、『戻れない』という事実だった。なんでも彼らを呼び出したのは【満月様(まんげつさま)】とかいう神様らしく、その神様のいう『世界の救済』を成し遂げるまで現場での日本への帰還は困難であるとのことらしい。異世界にいる間は、神聖パレシア王国と【満月教会】という宗教団体がバックアップに当たるらしい。
これには流石に笹ちゃん先生が憤慨した。ふざけるな、生徒たちは関係ない!私たちを日本に帰せ!と。が、しかし、そんなことは不可能であると断言され、あれこれの説得を経てとりあえずは落ち着くこことなった。
「………それで、俺たちはどうすればいいんですか?その『魔王』と戦う云々の前に、俺たちはただの学生です。戦う力なんて持っていない」
白鷹語李(しらたかがたり)の言い分はもっともだ。ただの学生を勇者として召喚するのはおかしくないだろうか?
「異世界から召喚された勇者様方には、『役職』と『スキル』というものが満月様から与えられます。これがあれば、おそらく魔族や亜人族に対抗できるでしょう」
「!?……それを使って戦えと?」
「本来なら早めに役職とスキルを検査しておきたいのですが………さぞお疲れかと思われますし、状況を整理したいとお思いになるのも当然のことでございます。検査は明日にして、本日は王国の宮殿内に部屋を用意させていただきました。どうかごゆっくりお休みくださいませ」
「…宮殿内、ということは王家のような方々が住むところだと思ってるのですが、我々のような部外者を入れても大丈夫なのですか?」
「話は王国上層部では通っております。明日、国王陛下に謁見していただくことになりますので、時間は後ほどお知らせいたします。宮殿は、この上となっております。では、お部屋に案内しますので私についてきてください」
白鷹語李が理知的に話を進めたため、なんとか第一関門をクリアしたらしい。とは言え、こんなファンタジーもいいところのお話を直ぐに信じることなどできず、生徒たちは不安と恐怖で押しつぶされそうになっていた。いつも通りなら、ここで櫛引木葉や白鷹語李が何か発言してみんなを落ち着けるのだが、、両者ともだんまりを決め込んでしまった。それを察した笹ちゃん先生が、みんなの前に躍り出る
「みなさん!」
「……」
「多分今、不安でいっぱいという方が多いと思います。帰りたいって強く願ってると思います。でも、今は彼らに従いましょう。戻れないのならば、1-5のみんなで結束して行きましょう。体育祭を、文化祭を思い出してください!今までだってみんなで結束してきたら、なんとかなってきました。異世界でだって同じです!」
「……で、でも。先生…」
「先生がみんなを責任を持って日本に送り届けます!約束です!だから、私を信じてください!帰れる方法はきっと見つかるはずです!」
辿々しく、お世辞にも上手とは言えないスピーチ。それでも先生の、信頼する大人の心強い発言に生徒たちの心にはわずかに希望の火が宿った。そのまま白鷹語李や天童零児、戸沢官都らが囃し立て、宮殿への道中は思いのほか賑やかなものであった。
しかし一部の生徒はとあることを心配していた。
櫛引木葉についてのことである。
いつも元気一杯の彼女が、どうしてだかいつもより圧倒的に口数が少ないのだ。それも何か思いつめたように考え込んだ様子で、どうも話しかけていい雰囲気ではなかった。
そして当の櫛引木葉はというと
(なんか、変)
自分の身体に違和感を感じていた。何か得体の知れないものが、自分の中に入っているような感覚が続き、心臓の鼓動が早まるのを感じる。血の巡りが早く、なんらかの異常が起こっているのは明らかだった。
(怖い……怖いよ……)
木葉は、いつのまにか自分が髪飾りを握っていたことに気づいた。小さな紫陽花のような色の蒼い星が、いくつも連なり、鮮やかな銀細工が施された高価そうな髪飾り。そしてもう一つ、木葉の首には、やはり蒼い宝石が散りばめられたロザリオ。真っ先に考えつくのはあの夢だ。しかし木葉は、その夢の内容を思い出せなかった。
(でも、あの子は、あの女の子が言った最後の言葉は覚えてる。あの子は私に確かにこう言ったんだ)
___________待ってるからね
その時、木葉の中で時計が動き出したような気がした。違和感を抱えつつ、木葉たちは宮殿への長い階段を上っていくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます
水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。
勇者、聖女、剣聖――
華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。
【戦術構築サポートAI】
【アンドロイド工廠】
【兵器保管庫】
【兵站生成モジュール】
【拠点構築システム】
【個体強化カスタマイズ】
王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。
だが――
この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。
最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。
識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。
「今日からお前はレイナだ」
これは、勇者ではない男が、
メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。
屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、
趣味全開で異世界を生きていく。
魔王とはいずれ戦うことになるだろう。
だが今は――
まずは冒険者登録からだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる