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1章 はじまりは必然
3 影の王
理人は意気込んだものの、まず自分がストーリーのどの時点にいるのか把握しなければならなかった。
なぜなら、それによっては自分の持っている知識がまるで役に立たなくなってしまうのだ。考えたくはなかったが、今の時点ではまだなんとも言えなかった。
あたりを見回せば、王の間までまだ距離があった。前をみればアヌサバは数メートル先を歩いており、老翁の耳が遠いことを理人は知っていた。
――ならばすることは……。
初めて自分から行動を起こすことに胸が音を立てるも、理人はゆっくり呼吸を整えたあとで、前を歩く従者に声をかけた――。
「あの」
男の耳がピクリと動いた。どうやら空耳だと思われてしまったようだが、聞こえてはいるらしい。
――もう一度。
「あのっ」
そんな理人の呼びかけは、おそらくアヌサバに聞こえるぎりぎりだった。
従者は大きく身体をびくりとさせたあとで、驚いた表情をこちらに向けて言う。
「生贄……お前、話せるのか?」
見開かれた青い宝石のような瞳に見惚れながら、理人は慎重に聞いてみた。
「きみは、俺がこのあとどうなるのか知っているの?」
そう聞くと、男は再び驚いたように見えた。
彼は足を止めると、まるで自分の連れ歩いていたものが動物から意思疎通のできるものに変わったように、理人の上から下までまじまじと眺めた。
その様子を見て、理人はこれならいけるかもしれないと思った。
知能があるとわかれば、生贄であれきっと無下にはできない。なぜなら男は老臣アヌサバの配下であり、いわばモブ同等のしたっぱなのだ。命令なしで勝手に危害を加えることはしないだろう。
理人がそう考えていると再び男と目が合った。
小柄な自分よりもうひとまわり小さなその男は、何か面白いものを見るような目でこちらを見ていた。
「……生贄、お前、ことばが通じるのか?」
「うん。そうみたい」
すると男は考えこむようにぴたりと静止してしまった。
侍従の、いわゆるゴブリンのような見た目から判断するに、おそらく知能はそこまで与えられていないのだろう。
沈黙に耐えかねた理人は自ら口を開く。
「ねえ、君の名前を教えて。俺は理人って言うんだ」
すると男はぴくりと反応した。
「り……理人。理人と言うのか。私は……スタブだ」
「スタブ!ありがとう。それで、まず俺がどうしてここにいるのか教えて欲しいんだ」
言い終わったあとで、そう簡単に教えてくれるのだろうかと思ったものの、スタブはあっけらかんと言った。
「お前は、王さまに捧げる生贄としてアヌサバ様に召喚されたんだ。だからあそこの部屋にいた。そしてこれから俺たちは、お前を王さまのもとへ連れて行く途中だ」
そのことばに、理人は自分が目覚めたとき足元で輝いていた魔法陣を思い出した。
おそらく、あれでここに呼び出されたということなのだ。そう思いながら理人は再度聞く。
「王さまって……まさかセヴェト=オルカロス?」
そう言うと、スタブは耳をぴんと立て一瞬ことばを失ったあと、
「――口を慎め!影の王オルカロス様の名を簡単に呼ぶなんて……お前……何者だ!」
そう声を荒らげた。
しかし逆に理人は胸をなで下ろしていた。
なぜかというと、エンディング後の世界であるため争いに巻き込まれる危険性が少なくなったからだった。
もし仮にストーリーの真っ只中であれば、夜ノ国はいつかエリアス率いる陽ノ国の軍勢に攻め込まれることになる。しかし、すでにオルカロスが王であるということは、世界はすっかり分断されてエンディング後の平和を迎えているということだ。
――ここで争いに巻き込まれることはない。
そう安心しながらも、理人は疑問に思う。
オルカロスが人柱として封印され、互いの世界はふたつに分かれることで安定になった。そうして世界の崩壊は止まり、平和になったはずだ。
なのになぜ、彼らは生贄を必要としているのだろう。
――どうしてだろう。
そう彼が考えていると、なぜか突然目の前でスタブが焦りはじめた。
「――っ!お前よく見れば王さまとどこか似ている気がする……理人、お前は一体何者なんだ?」
そのことばに理人は思わず苦笑する。
確かにスタブの指摘したとおり、肌の色や顔立ちはここで生まれた彼らよりも自分のほうが似てるだろう。
なぜなら、影の王オルカロスは元は人間であったのだから。
ゲームのなかのセヴェト=オルカロスは、最終的に主人公エリアスの宿敵となりラスボスとして立ちはだかる。
しかし、昔は親友でありライバルだった。
ふたりは同郷出身の幼馴染で、騎士になるため上京し修行に明け暮れていた。そんななか、エリアスがたまたま霊剣を手に入れ大きな争いに巻き込まれていく。それがメインのストーリーだ。
しかしその影で、セヴェトはなぜ自分ではなかったのかと運命を恨み、いわゆる闇落ちしてしまう。そうして彼は影の暗躍者となって次々と主人公たちの邪魔をし、最後は竜になって立ちはだかるのだ。
そんなセヴェトをエリアスたちは力を合わせて止め、そして倒したとき。彼はようやく正気に戻り、自身の膨大な魔力を使って世界を切り分けろとエリアスに迫るのだ。
――自分を犠牲にすると決めたあれは名シーンだった。
そう理人は心のなかであのシーンを思い返した。
しかし同時に彼の極地のような厳しさを思い出し、震え上がった。
理人の知るセヴェト=オルカロスは、自分はもちろんエリアスに対しても氷のように厳しく、彼に対して「弱い奴は俺の視界に入るな」なんて酷い言葉を投げかける男だった。
――いまもあの冷たい感じで「弱いものは滅びろ」なんて言われたら。
そう思うと、理人の背筋に冷たいものが走った。
しかし諦める訳にはいかなかった。
せっかくもう一度生きるチャンスを得たのだ。だからいまの自分にできることをやって、なんとか生き延びなければならない。
――ことばが通じるなら、きっとどうにかなるはずだ。
理人がそう自分を鼓舞していると、スタブがちらりと振り返るのがわかった。
「……もうすぐ到着する。お前が何者かは気になるが、それは俺達の王さまが判断することだ」
「もちろん。スタブ、ここまでありがとう」
そう感謝すると、彼はなぜか驚いたような顔をしてこちらを見上げていた。
理人は自分の鼓動の音が大きくなるのを感じながら、先を歩く老翁のさらに奥――王の間へと続く大きな扉へと歩みを進めたのだった。
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