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1 Side 慧
11 呼び方
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まさか禁止だとは思いもよらなかったが、今さらバイトをやめることはできなかった。
俺が英梨さんに声をかけられたこの店「みどり」は、南町のメインストリートに面している純喫茶だ。
平日は年配の人の憩いの場で、土日祝は昭和風の分厚いパンケーキを楽しむ若い客層で賑わっている。特に、最近はそのパンケーキがソーシャルメディア上で人気らしく、土日祝のランチから夕方までの時間は、レジ含むホールの二人体制が必須となっていた。
だから英梨さんのいない今、土日祝日はあいつと力を合わせて頑張らなければならなかった。
「最近、若い女性のお客様が増えましたね」
あいつがそう言ったのは、土曜日のピークタイムをすぎた頃だった。落ち着きを取り戻した店内で、制服の白シャツをまくりあげた袖で汗を拭いている。
「そうか?それはおそらく、英梨さんが店の公式アカウントでいろいろやってくれた効果だろう。……それはそうとして、お前そこで汗拭くな!」
「お客さまがいるときはしませんよ」
あいつはそう言って笑った。
初めてシフトに入ってからすでに二週間が経っていた。
仕事の波をようやく覚えてきたようで、余裕が出てきた様子が俺の目にはさらに生意気に見えた。
「お前さ、もしそうしているときにお客様が入ってこられたらどうするつもりなんだ?」
そう俺は注意する。すると、
「もうこんな時間ですしそれはないんじゃないですかね」
そう言われ、柱時計を見ればすでに五時を示していた。
俺はため息をつきながら、店長に今日の終了時間を確認しに行こうとする。
――きりもいいし、今日はこれでお帰りかな。
そう思っていると、不意にあいつは思い出したように口を開いた。
「そういえば慧先輩」
「なんだ?」
「――どうしてお前呼びなんですか?」
そう言われ、俺はそのときようやくそう呼んでたことに気づいた。これまで意識していなかったものの、「お前」という呼び方は人を呼ぶのにあまりいい呼び方ではない。
英梨さんなら絶対注意する――そう思った俺は聞いてみる。
「なら誉史、それでいいか?」
すると名前を呼ばれたあいつ――誉史は、なぜか思いもよらない顔をした。
今まで見たことのない、その子どものようなきょとんとした表情に、逆にこっちが動揺してしまう。
「俺……何か変なこと言った?」
「いや……別にそういうことじゃなくて……なんで突然名前呼び?」
そう聞くので俺は思ったことを普通に答える。
「染谷って呼ぶのはちょっと……英梨さんの苗字は恐れ多いだろ」
すると誉史は、もとの意地悪な顔に戻って笑って言った。
「また姉貴!慧先輩どんだけあの人のこと好きなんですか!」
「なっ!?別にいいだろ!俺が苗字を呼べないくらい英梨さんのこと好きでも!」
そうして騒ぐ声を聞きつけた店長が現れるまで、俺たちは言い争い続けていた。
以来、なぜか俺と誉史の仲は少しづつ縮まっていったのだった。
俺が英梨さんに声をかけられたこの店「みどり」は、南町のメインストリートに面している純喫茶だ。
平日は年配の人の憩いの場で、土日祝は昭和風の分厚いパンケーキを楽しむ若い客層で賑わっている。特に、最近はそのパンケーキがソーシャルメディア上で人気らしく、土日祝のランチから夕方までの時間は、レジ含むホールの二人体制が必須となっていた。
だから英梨さんのいない今、土日祝日はあいつと力を合わせて頑張らなければならなかった。
「最近、若い女性のお客様が増えましたね」
あいつがそう言ったのは、土曜日のピークタイムをすぎた頃だった。落ち着きを取り戻した店内で、制服の白シャツをまくりあげた袖で汗を拭いている。
「そうか?それはおそらく、英梨さんが店の公式アカウントでいろいろやってくれた効果だろう。……それはそうとして、お前そこで汗拭くな!」
「お客さまがいるときはしませんよ」
あいつはそう言って笑った。
初めてシフトに入ってからすでに二週間が経っていた。
仕事の波をようやく覚えてきたようで、余裕が出てきた様子が俺の目にはさらに生意気に見えた。
「お前さ、もしそうしているときにお客様が入ってこられたらどうするつもりなんだ?」
そう俺は注意する。すると、
「もうこんな時間ですしそれはないんじゃないですかね」
そう言われ、柱時計を見ればすでに五時を示していた。
俺はため息をつきながら、店長に今日の終了時間を確認しに行こうとする。
――きりもいいし、今日はこれでお帰りかな。
そう思っていると、不意にあいつは思い出したように口を開いた。
「そういえば慧先輩」
「なんだ?」
「――どうしてお前呼びなんですか?」
そう言われ、俺はそのときようやくそう呼んでたことに気づいた。これまで意識していなかったものの、「お前」という呼び方は人を呼ぶのにあまりいい呼び方ではない。
英梨さんなら絶対注意する――そう思った俺は聞いてみる。
「なら誉史、それでいいか?」
すると名前を呼ばれたあいつ――誉史は、なぜか思いもよらない顔をした。
今まで見たことのない、その子どものようなきょとんとした表情に、逆にこっちが動揺してしまう。
「俺……何か変なこと言った?」
「いや……別にそういうことじゃなくて……なんで突然名前呼び?」
そう聞くので俺は思ったことを普通に答える。
「染谷って呼ぶのはちょっと……英梨さんの苗字は恐れ多いだろ」
すると誉史は、もとの意地悪な顔に戻って笑って言った。
「また姉貴!慧先輩どんだけあの人のこと好きなんですか!」
「なっ!?別にいいだろ!俺が苗字を呼べないくらい英梨さんのこと好きでも!」
そうして騒ぐ声を聞きつけた店長が現れるまで、俺たちは言い争い続けていた。
以来、なぜか俺と誉史の仲は少しづつ縮まっていったのだった。
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