30 / 53
2 Side 誉史
29 執着ではない
しおりを挟む自分の気持ちに気づいてから、俺は自分の目から見える景色が変わった気がした。
それはあの日から数日後、星野慧から連絡がきて海に誘われるがまま行ったときのことだ。
集まったのは意外と大人数だったので、彼はそのなかでひとり静かになるだろうと思っていた。そうして始まってみれば想像とは裏腹に、彼は浜辺でみんなと普通に会話を交わし笑っていたのだった。
その姿に俺は複雑な気分になった。嬉しいような、嫌なような――どちらかというと寂しい気持ちだろうか。俺の胸は締め付けられるように痛んだ。
――その表情は俺だけのものだったのに。
そう思いながら胸にちりっとしたものを感じるたび、彼ら以上に特別になりたいという気持ちが俺のなかで溢れて、どうしようもなかった。
ともだち以上になりたい、そう言ったら引かれるだろうか。それとも、優しく素直な彼なら受け入れてくれるだろうか。
爽やかな青空とは裏腹に、俺の内側はそんなもやもやとした感情でいっぱいだった。
この日、俺が特に気になったのは、慧と倉門との関係性だった。
ふたりはしょっちゅうこそこそやりとりをしていたし、そのときの距離はいつも近く、慧の表情も緩んでいることに気づいた。
そのためふたりが話す姿が目に入るたび、俺の視線は無意識に追ってしまった。
結局、どうしようもなく気になって、薄暗くなった花火のときに倉門に声をかけたのだった。
「倉門さんって、慧と仲いいよね」
「そうかな?まあ仲いいっていうか幼なじみなんだよね」
そのことばに俺は妙に納得した。人に対して距離を取る慧だが、幼なじみだから平然と近くで自然に会話していたのだろう。
「慧ってさ、昔から人が嫌いなんだよね。小さい時に無駄にちやほやされたせいでああなっちゃったみたいなんだ。だから人に対して距離を取るんだけど、あたしは昔からだからもう家族みたいなものなんだろうね」
家族。確かに言われてみれば、慧と倉門の距離感は俺と姉貴のものに近いかもしれない。
そうして俺が心のなかで安堵するなか、倉門は続ける。
「慧にとって友だちはあたしだけだったの。それで高校生になっちゃって、もう慧はそのまま行くのかと思ってたんだけど。最近は、染谷くんのおかげでまるっきり人が変わったみたい。あたしもようやくひと安心だよ」
そう笑顔で言われると、俺は少しだけ嬉しくなってしまう。そんなにも頑固だった人を変えたと聞けば、誰だって同じ反応をするだろう。
すると倉門は何かに気づいたように声をあげる。
「あ!あたしは親友ってだけだから大丈夫だから安心してね」
想像もしていなかったことばに俺は驚く。
どうやら俺がどういう思いで慧のことを見ているのか、察しているらしい。
「なんで……」
そう聞くと、倉門はにやにやしながら言う。
「そりゃあもう、慧を見る時の顔が違うんだもん。……ふふふ。染谷くんてそんな表情するんだね!」
「俺って……どんな顔してんの?」
すると倉門はすこし考えたあとで言う。
「そうだなあ。余裕がなくて、いつもと違ってすこし怖い感じかな」
「…………ごめん」
「大丈夫!あたしはそういう素を出す感じ大歓迎だから!」
そうして倉門は笑ったあとで、何かに気づいたらしく俺の後ろを見て驚いた。
「……あれ?……慧と千春?」
そのことばに振り返ると、ちょうどこちらの反対側の波打ち際で、慧と同じ委員会の皆川千春がふたりで花火を楽しんでいる姿がみえた。
慧の顔は見えなかったものの、皆川は楽しそうに話しながら手の花火をくるくると回している。
「あのふたりって同じ委員会だったよね?……まさかこのいい雰囲気で告白……そんなまさかねー!」
そんな倉門の声は俺の耳には届かなかった。
ふたりが並んで花火を手に笑う姿が目に焼き付いて、それどころではなかったから。
20
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ
BL
アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる