婚約破棄?上等です。

華愁

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第6話『新しい婚約者がいるので』

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──その知らせは、宗方蒼真のもとに
突然舞い込んできた。

「橘あやめさん、婚約したらしいですよ」

「……は?」

社内の若手社員が、何気なく放った一言。

蒼真は反射的に画面に視線を移す。

そこには、ニュースサイトの見出し。

> 【速報】橘財閥令嬢・橘あやめ氏が婚約を発表
ベンチャー企業CEO・七瀬陸氏との電撃婚約に業界驚愕



――頭が真っ白になった。

自分が一方的に“ふった”はずの女が、
今では業界注目の起業家となり、
自分よりも先に“次の幸せ”を手にしている。

しかもその相手は、
業界で急成長中のスタートアップ代表。

あやめのパートナーとして常に行動を共にし、
彼女の才能を支えてきた男。

(嘘だろ……?)

蒼真は何かを確かめるように、
スマートフォンを手に取った。

LINEの履歴を開いて、
彼女との最後のやり取りを見つめる。

> 「今さらお会いする理由は、私にはありません」



その言葉が、今になって鋭く胸を突いた。



その頃、あやめは都内のホテルで開かれた
記者発表に姿を見せていた。

「婚約、おめでとうございます!」

「七瀬CEOとの馴れ初めは?」

「元婚約者・宗方氏との関係は?」

飛び交う質問に、
あやめは穏やかな笑みを浮かべながら答える。

「彼とは大学時代の旧友で、
ビジネスパートナーとして歩んできました。

婚約に至ったのは自然な流れでした。

――ちなみに、元婚約者との関係は
一切ありませんので、ご心配なく」

「失礼ですが、
再婚としては少し早いのではとの声も……?」

その質問に、あやめはわずかに口角を上げて言った。

「私には“過去”を引きずっている時間がありません。

未来を一緒に創っていける人がいるなら、
何も迷う理由なんて、ないでしょう?」

そう言って隣に立つ七瀬に目をやると、
彼も静かに頷いた。

カメラのフラッシュが一斉に焚かれた。

それは、過去の自分を完全に置き去りにした証だった。

──そして数日後。

宗方蒼真から送られてきた一通の短いメッセージ。

> 「あの時、君を手放すべきじゃなかった」


それに対して、あやめはたった一文で返した。

> 「新しい婚約者がいるので、
過去の話に興味はありません」


その言葉が、完全なる終止符となった。
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