星も見えぬほどに眩く

星川過世

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 大学終わり、電車を待つ駅でのルーティーン。
 まず、掲示板を開く。『カズ ファンスレ 49』には今日も数人の同志が居る。しかし書き込みの数は目に見えて減っていた。活動を休止し始めてから早一ヶ月。話題も無いだろう。当然と言えば当然だが、少し寂しい。
 次にSNSを開き、タイムラインを辿っていく。こちらもカズが活動休止をしてから動きが目に見えて減った。俺も以前に比べて投稿が減っている。アニメのキャラクターではないから二次創作や考察といったものが(表立っては)できるわけではないし、新規供給のない今、今までの曲や配信の感想くらいしか書くことができない。あとは曲の考察か。
 みんなカズと関係のない話題で盛り上がっていた。
 
 カズはネットを中心に活躍するシンガーソングライターだ。薄暗い歌詞や激しいメロディ、そして本人のミステリアスな雰囲気が若者に受けて最近ではコンサートの他、テレビ等への出演も行っていた。
 しかし、二十四歳にして活動七年目に突如活動休止を宣言した。
 新曲を発表するスパンも伸びていたし、よくやっていた雑談配信の頻度も減っていたので、少々疲れ気味だったのかもしれない。無理をするよりは休んでくれた方がずっといい。
 しかしカズの新規供給のない毎日はなんともメリハリに欠けた。またカズの声が聞きたい。もちろん過去の曲や配信は残っているが、そういうことではなくて。
 
 そんなことをとりとめもなく考えていると、いきなり後ろから声を掛けられた。
 「あの、すみません」
 「は、はいっ」
 カズのことばかり考えていたからだろうか、その声がカズに似ているように感じられた。
 ほとんど反射的に振り返り、息を飲む。
 マスクを顎まで下げたその人は、どう見たってカズだった。
 「え、あ」
 いや、そんなわけがない。これはカズ恋しさに見えた幻覚の類だ。そうに違いない。
 心臓が色んな意味でバクバクと鳴っていた。
 カズに似たその人は、そんな俺を見て柔らかく微笑む。
 「もしかして俺のファンの方、ですか? すみません、スマホの画面が後ろから見えてしまって」
 これは、夢? それとも幻? 何か言わなければと思うのに口はただパクパクと動くだけで音を発さない。
 「あの、良かったら少し、時間ありますか?」
 取り敢えず首を縦に動かした。

 「急に声を掛けてすみません。久しぶりにファンの方を見て、嬉しくなってしまって」
 ファンとはいえ初対面だからか、あるいはプライベートだからか、配信やテレビでの話し方と雰囲気が違った。しかしファミレスの電気の下で見ると、もう完全にカズだ。最後に見た時クラゲカットだった髪は乱雑に伸びて結ばれていたが、間違いない。
 「ホヤくん、だよね? ごめん、覗き見みたいになっちゃったんだけど」
 「い、いえ......」
 そんなことよりハンドルネームを口にされる方が恥ずかしい。
 中学生の時に考えたアカウント名は見慣れてはいるが耳慣れてはいないのだ。本名の最初と最後の文字を取ったというシンプルな由来だが、どんな名前だろうと幼い感性が滲んでいるようで音を成すと恥ずかしい。
 「俺、その、堀江貴也って言うんです、本名。そっちで......」
 「貴也くんね」と素直に呼び方を変えてくれたが、まさか下の名前で呼んでくれるとは思わなかった。カズの声で名前を呼ばれることによる破壊力はすさまじい。
 赤くなりそうな顔を誤魔化す様に水を飲んだ。冷たさが心地よい。
 そしていつの間にか、カズの口調はいつもの配信で聞くものになっていた。
 「俺の本名は一ノ瀬和紀。改めてよろしく」
 「よ、よろしくお願いします。......一ノ瀬さん」
 俺はこのままカズさん呼びでもよかったのかもしれないが、その呼び方が本名に近いことを知ってしまった今、まるで下の名前から派生したあだ名のように感じられて恐れ多くて呼べない。
 「それでさ、ホヤくん......じゃなくて貴也くんに折り入って頼みたいことがあるんだけど」
 「え、は、はい」
 俺がカズに、いや一ノ瀬さんにお願いをされるなんて恐れ多い。命令でいいのに。
 というか自分のファンにやってほしいこととは一体何だろう。なんにせよ、俺に出来ることならなんでもしたい。
 「俺の恋人になってくれないかな」
 「へ?」
 聞き間違いかと思い聞き返そうかと思ったが、その前に続きを話し始めてしまう。
 「俺、恋愛ってしたことなくてさ。恋人でもいたら作風の幅が広がるかなぁと思って」
 「な、なるほど......?」
 理にかなっているよな、いないような。
 「え、でも、なんで俺なんです?」
 「貴也くん、俺のこと好きでしょ? SNSに書いてたじゃん」
 「......っ!」
 見られてた! 古参の部類だし認知されるのも知っていたが、俺がガチ恋勢だとSNS上で明言したのは数回だ。そこを見られて覚えられているとは思っていなかった。
 恥ずかしさにのたうち回りそうになるがここはファミレスの中。ぐっと堪えて大人しく席に座っている。しかしそこに更に爆弾発言が追加された。
 「それに俺、貴也くんのことなら好きになれそう」
 「なっ」
 茶化すようでもなくサラッと言われてしまい、固まる。そんな俺を見て一ノ瀬さんがクスクス笑った。俺の大好きな笑い声。聞きたくてたまらなかった声。
 「それで、どうかな?」
 「そ、それはもう喜んで!」
 一ファンとして恐れ多いし、他のファンにも申し訳ないような気もする。しかし好きな人の告白を断るなんて俺にはできなかった。
 「よかった。これからよろしくね、ホヤくん」
 「よ、よろしくお願いしますっ!」
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