7 / 11
7
しおりを挟む
くだらないやりとりを終えて一ノ瀬さんの部屋に入る。一ノ瀬さんの部屋の空気......!
「適当に座って。コーヒーでいい?」
「はい」
失礼だとは思いつつも、ソワソワと部屋の中を見回してしまう。家具はどれもシンプルなデザインで、棚には本やCDが綺麗に並べられていた。そして部屋の隅にカズのCDやグッズが段ボールに詰められて入っていた。
「......あ、あれ」
ペン立てにささった万年筆。俺が高校生の時にバイト代をはたいて購入し、差し入れとして贈ったものだ。
ちょうどコーヒーを持ってきてくれた一ノ瀬さんが俺の声に気が付いて微笑んだ。
「ああ、貴也くんがくれたやつね」
「使ってくれてたんですね」
「そりゃあ、使うよ。もらったんだから。ファンレターも全部取ってあるよ」
「え!? そ、それは恥ずかしいな」
「君のSNSを遡った方が更に恥ずかしいものが出てきそうだけど」
「う」
俺は中学生の時からずっと同じアカウントを使っている。投稿をこまめに消すということもしていないので、つまり中学生の時の中二病全開な投稿とかも見ようと思えば見られるのだ。
「冗談。恥ずかしいことなんてないよ。微笑ましい。それを言ったら俺が高校生の時に書いた歌詞とか、イタくて聞いてられないもん」
別にカズの昔の曲をイタいとは思わないが、自分が何年も前に書いた詞がCDやらなんやらで残っていることを想像すると怖すぎた。一ノ瀬さんはすごい。
「このあと配信部屋見る? 機材もそこにあるからさ」
「おお!」
「でさ、あの、その、寝室も見る? あ、いや、シャワー浴びてく? じゃなくて、えっと、その......」
一ノ瀬さんの発言の意図がわかり、顔がじわじわと熱くなっていく。一ノ瀬さんの顔も朱に染まっていた。伺うようにこちらを見てくる表情にはいつものスタイリッシュな色気ではなく、こちらを絡め取るような色っぽさがある。
「えっと......ぜひ」
ぜひ、ぜひってなんだよ。
結局お互いに挙動不審になりすぎて、配信部屋を見せてもらうという工程を飛ばしたことに気が付いたのはシャワーを浴び終えて一ノ瀬さんを待っていたときだった。もっとも、見せてもらったとてちゃんと見られたかわからないけれど。
シャワー音って案外聞こえるものなんだな。でもそうか、確かに実家にいた時はこれくらい聞こえてたわ。
枕元の小さなテーブルにカラーボックスがあって、手紙が透けて見えた。どうやらここに今までのファンレターを入れているらしい。隣にある置物も差し入れだろうか。他に装飾品はないから。
スマホの画面を意味もなく開いては閉じてを繰り返し、一ノ瀬さん今頃後悔してないかな......と心配し、永遠にも思える時間を過ごしているとやっと扉が開いた。
「おまたせ」
「はいっ」
言った後で何が「はい」なんだよと思ったがどうしようもない。一ノ瀬さんも特に気にしている様子は無かった。
「えっと、まぁ、わかってると思うけど、俺そういうつもりだから、うん。別に断ってもいいけど」
「断るわけないですよ!」
思ったより大きな声が出て咄嗟に口を塞いだ。塞いだところでもう出た声は飲み込めないのだけれど。一ノ瀬さんもこれには若干引いていた。心が痛い。
一ノ瀬さんは無言でズカズカと歩み寄ってくると見た目からは想像のつかないレベルの力でベッドに押し倒してきた。え、あの、もっと、ムードとか。
緊張でガチガチに固まった俺の脚を割ってズボンを脱がし、パンツを脱がす。呆気にとられて眺めていたがとんでもない状況である。というか普通に恥ずかしい。
「一ノ瀬さん......」
「大丈夫だ。ちゃんとネットで見た通りにやるから」
確実にできていないか、滅茶苦茶なサイトを閲覧してしまったかの二択である。
「ほら、貸せ。ゴムつけてやる」
「自分でやります!」
これ以上えらい目には遭いたくなかったので一ノ瀬さんの手から奪い取る。
「そうか。ちなみに俺の方は準備オーケーだ。いつでも挿れていいぞ」
「一ノ瀬さん、タイムアタックじゃないんですよ!?」
ひとしきり二人でギャーギャー騒いだあと、一ノ瀬さんは涼しい顔で「難しいもんだな」と言い放った。おおむね同意だが、この人の場合は勝手に変な方向に行って難易度を上げている。
一ノ瀬さんの腕を引っ張ってベッドに乗せた。
「......」
緊張したような面持ちで俺を見ているのが可愛らしい。今の騒ぎであちこちに跳ねた髪を何度か梳いてから、その手を頬に添えた。
察してくれたらしい一ノ瀬さんの目がそっと閉じられる。
何気にこの距離で顔を見るのは初めてかもしれない。顔に触るのも初めてだ。肌が綺麗。まつげ長い。
そういえば、これが初めてのキスだ。というか俺のファーストキスだ。でもまるで最初からやり方を知っていたかのように一ノ瀬さんに口付けた。
「......で、どうしたらいいんでしょう」
「嘘だろお前」
「適当に座って。コーヒーでいい?」
「はい」
失礼だとは思いつつも、ソワソワと部屋の中を見回してしまう。家具はどれもシンプルなデザインで、棚には本やCDが綺麗に並べられていた。そして部屋の隅にカズのCDやグッズが段ボールに詰められて入っていた。
「......あ、あれ」
ペン立てにささった万年筆。俺が高校生の時にバイト代をはたいて購入し、差し入れとして贈ったものだ。
ちょうどコーヒーを持ってきてくれた一ノ瀬さんが俺の声に気が付いて微笑んだ。
「ああ、貴也くんがくれたやつね」
「使ってくれてたんですね」
「そりゃあ、使うよ。もらったんだから。ファンレターも全部取ってあるよ」
「え!? そ、それは恥ずかしいな」
「君のSNSを遡った方が更に恥ずかしいものが出てきそうだけど」
「う」
俺は中学生の時からずっと同じアカウントを使っている。投稿をこまめに消すということもしていないので、つまり中学生の時の中二病全開な投稿とかも見ようと思えば見られるのだ。
「冗談。恥ずかしいことなんてないよ。微笑ましい。それを言ったら俺が高校生の時に書いた歌詞とか、イタくて聞いてられないもん」
別にカズの昔の曲をイタいとは思わないが、自分が何年も前に書いた詞がCDやらなんやらで残っていることを想像すると怖すぎた。一ノ瀬さんはすごい。
「このあと配信部屋見る? 機材もそこにあるからさ」
「おお!」
「でさ、あの、その、寝室も見る? あ、いや、シャワー浴びてく? じゃなくて、えっと、その......」
一ノ瀬さんの発言の意図がわかり、顔がじわじわと熱くなっていく。一ノ瀬さんの顔も朱に染まっていた。伺うようにこちらを見てくる表情にはいつものスタイリッシュな色気ではなく、こちらを絡め取るような色っぽさがある。
「えっと......ぜひ」
ぜひ、ぜひってなんだよ。
結局お互いに挙動不審になりすぎて、配信部屋を見せてもらうという工程を飛ばしたことに気が付いたのはシャワーを浴び終えて一ノ瀬さんを待っていたときだった。もっとも、見せてもらったとてちゃんと見られたかわからないけれど。
シャワー音って案外聞こえるものなんだな。でもそうか、確かに実家にいた時はこれくらい聞こえてたわ。
枕元の小さなテーブルにカラーボックスがあって、手紙が透けて見えた。どうやらここに今までのファンレターを入れているらしい。隣にある置物も差し入れだろうか。他に装飾品はないから。
スマホの画面を意味もなく開いては閉じてを繰り返し、一ノ瀬さん今頃後悔してないかな......と心配し、永遠にも思える時間を過ごしているとやっと扉が開いた。
「おまたせ」
「はいっ」
言った後で何が「はい」なんだよと思ったがどうしようもない。一ノ瀬さんも特に気にしている様子は無かった。
「えっと、まぁ、わかってると思うけど、俺そういうつもりだから、うん。別に断ってもいいけど」
「断るわけないですよ!」
思ったより大きな声が出て咄嗟に口を塞いだ。塞いだところでもう出た声は飲み込めないのだけれど。一ノ瀬さんもこれには若干引いていた。心が痛い。
一ノ瀬さんは無言でズカズカと歩み寄ってくると見た目からは想像のつかないレベルの力でベッドに押し倒してきた。え、あの、もっと、ムードとか。
緊張でガチガチに固まった俺の脚を割ってズボンを脱がし、パンツを脱がす。呆気にとられて眺めていたがとんでもない状況である。というか普通に恥ずかしい。
「一ノ瀬さん......」
「大丈夫だ。ちゃんとネットで見た通りにやるから」
確実にできていないか、滅茶苦茶なサイトを閲覧してしまったかの二択である。
「ほら、貸せ。ゴムつけてやる」
「自分でやります!」
これ以上えらい目には遭いたくなかったので一ノ瀬さんの手から奪い取る。
「そうか。ちなみに俺の方は準備オーケーだ。いつでも挿れていいぞ」
「一ノ瀬さん、タイムアタックじゃないんですよ!?」
ひとしきり二人でギャーギャー騒いだあと、一ノ瀬さんは涼しい顔で「難しいもんだな」と言い放った。おおむね同意だが、この人の場合は勝手に変な方向に行って難易度を上げている。
一ノ瀬さんの腕を引っ張ってベッドに乗せた。
「......」
緊張したような面持ちで俺を見ているのが可愛らしい。今の騒ぎであちこちに跳ねた髪を何度か梳いてから、その手を頬に添えた。
察してくれたらしい一ノ瀬さんの目がそっと閉じられる。
何気にこの距離で顔を見るのは初めてかもしれない。顔に触るのも初めてだ。肌が綺麗。まつげ長い。
そういえば、これが初めてのキスだ。というか俺のファーストキスだ。でもまるで最初からやり方を知っていたかのように一ノ瀬さんに口付けた。
「......で、どうしたらいいんでしょう」
「嘘だろお前」
0
あなたにおすすめの小説
この胸の高鳴りは・・・
暁エネル
BL
電車に乗りいつも通り大学へと向かう途中 気になる人と出会う男性なのか女性なのかわからないまま 電車を降りその人をなぜか追いかけてしまった 初めての出来事に驚き その人に声をかけ自分のした事に 優しく笑うその人に今まで経験した事のない感情が・・・
Fromのないラブレター
すずかけあおい
BL
『好きです。あなたをいつも見てます。ずっと好きでした。つき合ってください。』
唯のもとに届いた差出人のない手紙には、パソコンの文字でそう書かれていた。
いつも、ずっと――昔から仲がよくて近しい人で思い当たるのは、隣家に住む幼馴染の三兄弟。
まさか、三兄弟の誰かからのラブレター!?
*外部サイトでも同作品を投稿しています。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
ラピスラズリの福音
東雲
BL
*異世界ファンタジーBL*
特別な世界観も、特殊な設定も、壮大な何かもありません。
幼馴染みの二人が遠回りをしながら、相思相愛の果てに結ばれるお話です。
金髪碧眼美形攻め×純朴一途筋肉受け
息をするように体の大きい子受けです。
珍しく年齢制限のないお話ですが、いつもの如く己の『好き』と性癖をたんと詰め込みました!
出来損ないの花嫁は湯の神と熱い恋をする
舞々
BL
凪が生まれ育った湯滝村は、温泉地として栄えた地域だ。凪は湯滝村で一番老舗とされている温泉宿、「椿屋」の一人息子。幼い頃から両親の手伝いをして、椿屋を支えている。そんな湯滝村にある湯花神社には、湯の神「湯玄」が祀られ、村人たちから信仰されてきた。
湯滝村には湯玄に花嫁を捧げるという風習ある。湯玄は花嫁から生気を貰い、湯滝村に温泉をもたらすのだ。凪は自ら志願し、花嫁となって湯滝神社へと出向いたが「子供には用がない」と追い返されてしまった。村に戻った凪は「出来損ないの花嫁」と村人たちから後ろ指をさされ、次第に湯玄を恨むようになる。
凪が十七歳になり、美しい青年へと成長した頃、湯玄より「もう一度凪を花嫁として捧げよ」という申し渡しがあった。しかし凪は、湯玄からの申し渡しを受け入れることができずにいる。そんな凪に痺れを切らした湯玄は、椿屋に押しかけてきてしまったのだった。
湯玄が椿屋に来てからというもの、貧乏神、アカシャグマ、商売繁盛の神に五穀豊穣の神……色々な神が椿屋を訪れるようになる。椿屋を訪れる神々は実に個性豊かで、椿屋は次第に以前のような活気を取り戻していく。
はじめのうちは突然椿屋にやってきた湯玄に反発していた凪。しかし、強引に迫ってくるだけではなく、自分を溺愛してくる湯玄に少しずつ心を許し、二人の距離は次第に縮まっていく。
出来損ないの花嫁凪と、温泉の神湯玄。そして八百万の神々が送る温泉宿物語。
ダブルパーソナリティ
ユーリ
BL
「おやすみ、菜乃。また明日」
両腕を失った菜乃は義手と共に心身を療養させるためにサナトリウムにいた。そこに書類上の夫が現れ「本当の夫婦になりたい」と言ってきてーー初めて顔を合わせるふたりは、少しずつ距離を縮めてゆく。
青い炎
瑞原唯子
BL
今日、僕は同時にふたつの失恋をした——。
もともと叶うことのない想いだった。
にもかかわらず、胸の内で静かな激情の炎を燃やし続けてきた。
これからもこの想いを燻らせていくのだろう。
仲睦まじい二人を誰よりも近くで見守りながら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる