何度でも君と

星川過世

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 「小学校、見に行かない?」
 あまりにも唐突な提案だった。いつの間にか使い慣れたラブホテルの一室には似つかわしくない提案でもあった。
 なんとなく煙草の火を揉み消し、優輝に向き直る。
 「なんか同窓会とかして懐かしい気持ちになったし、俺たちの出会いの場所だし!?」
 「出会いの場所、ねぇ......」
 確かにその通りだが、出会いの場所という仰々しい言葉が似あうほど、あの場所に二人の思い出はない。いつだって俺が一方的に優輝を見つめていて、優輝はそれに素知らぬ顔をしていたのだから。
 「事前に許可を取れば、校舎の中にも入れるらしいよ」
 「へぇ」
 それは普通に面白そうだ。六年間通った場所だから思い入れもあるし、変わったところもあるだろうからそこも見たい。
 「いいじゃん。俺も行きたい」
 「よし、決まり! 色々決まったらまた連絡するね」
 そう言った優輝がベッドから跳ね起きて俺の近くに来た。
 「もう一回」
 「ん」
 さっきまで小学校の思い出に浸っていた奴らの行動ではないよな、と思いつつ優輝とともにベッドに戻る。
 付き合い始めても、特に変化はない。付き合い始めて最初のセックスですら、なんとも味気ない産物だった。きっと向こうからしてもそうだろう。
 初恋の人が俺の腕の中で喘いでいる姿は自慰中の妄想のようで現実味がなかった。

 小学校に入る許可は、割とすぐに取れた。
 当時、そしておそらく現在も小学生たちのたまり場になっているであろう公園で優輝と待ち合わせる。
 この寒いのに、そして土曜日なのに、公園は子どもで溢れていた。
 遠目では実家を出るまでよく見ていたが、中に入るのは久しぶりだ。あんなに大きく感じられた遊具が今ではもはや頼りないくらい小さく見える。
 楽しそうに遊ぶ子ども達を眩しい気持ちで眺めた。
 「みーのるっ!」
 いきなり背中から抱き着かれ、バランスを崩しかける。
 「危ないな......。てか外でベタベタするのやめて」
 「ごめんごめん。......今度子供が少ない時間に一緒に遊具で遊ぼうよ」
 心臓が大きく音を立てて跳ねた気がした。
 「は? なんで?」
 「俺小学生の時よくここで遊んでたけどさ、稔はあんま来なかったじゃん」
 もちろん、そんなはずはなく。優輝は俺をいつものように見上げていた。ベタベタするなと言ったのに、腕がしっかりと掴まれている。
 気づかれないように深呼吸をした。
 「......運動とか、苦手だったからな」
 「今は?」
 「今もだけど」
 その言葉に優輝が楽しそうに笑ったので思わず睨みつける。
 「ごめんごめん。......変わってないところもあるんだなって、嬉しくて」
 「あ、そう」
 運動神経なんて数年たったところで変わらないと思う。
 「今度二人で、ここで遊ぼう」
 「何すんの?」
 今は優輝も脚の怪我があるからしっかりした運動はできないだろう。
 「まぁ、とにかくそういうことで。そろそろ約束の時間だから行こう」
 当然の如く優輝が俺の手を引いて歩き出し、校門の前で放した。

 当時家の次に長い時間を過ごしていたはずのその場所は、今行くとものすごくよそよそしい。
 懐かしさよりも場違い感が勝った。実家もそのうちこんな感じになるんだろうか。
 「一年生の下駄箱から思い出ツアーしようぜ」
 「ああ、そうしようか」
 校舎の中にはほとんど人が居なかった。わざとそういう日にしたのだろうが。
 人目がないのをいいことに優輝が俺の手をしっかりと握っていた。
 俺も握り返す。過去に連れて行かれないようにでもするかのように。きっと意味なんてないけれど。
 だって、お互いそのものが過去の象徴なのだから。
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