HEAVENS HEARTS

SPEED 05 覚醒の光条

SPEED 05-04

「はあ？この期に及んでかしこさ自慢か？」

「はあ……お前と話してるとドッと疲れるぜ。じゃあ、コレならわかんだろ」

ジェラルミンケースから物質を留める透明ケースが弾かれた。

「抗生物質やろ、昔オヤジんトコでよう見た」

「コイツの存在意義は細菌や微生物等の発育や繁殖の抑制、またはズバリ殺し（ヒット）。抗生物質誕生以前は、病原菌の脅威からは逃れられないと手をこまねき苦汁を舐めていた人類。為にして皮切りに人類は新たな病原菌が発見されろ度、これまで苦しめられた数々の恨みを晴らすが如く、テキに合わせた抗生物質を即座に生み出してきた。しかし……伝家の宝刀・抗生物質は、テキの首を絞めるだけに終始せず、利用者（あるじ）である筈の人類にも耐性菌という形となって牙を剥く好機（チャンス）を虎視眈々と……」

「耐性菌やったらオヤジの口で耳タコや。病原菌の中には抗生物質に対して抵抗力を備えてまう突然変異（ヤツ）が居（お）る、種の保存本能を源に。要は抗生物質の壮絶瀕死パワーが病原菌を進化（レベルアップ）させ、自らを無力に貶める愚。やろ？」

「オォォォォッ！」

得意げに語るカルナをエルナの拍手が冷やかした。が、当の本人には意味が通うじずか、余計な増長が露呈された。

「耐性菌が発見されて以来、人類は更なる強力を求め抗生物質を開発し続ける訳だが、敵も然者その都度ハードルを軽々と飛び越えて行ってしまう」

「イタチゴッコやな零士さん」

「だが、イタチゴッコも細菌という生物の前では長く続かず終焉を迎える。それは、生物の中でも細菌って奴が極シンプルな構造体を持つが為、進化の速度が人類の英知範疇を越えていたことに帰する。平たく言えば、極小生物の進化速度にブッチギリを喰らった訳だ」

「薬物依存から抜け出すのは容易じゃないってことね。滅（ラグナ）ドラッグの件も含めて」

「おい、今更そんな過去を掘り起こ」

右の掌を呈する月華。得られない解答に苛立ち始めたカルナを絶妙なタイミングが諫めた。

「御立腹ついでにコレも見てくれるか？」

抗生物質と入れ替えに零士が一枚の写真を手にし、カルナとエルナに提示した。