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第20話:熊本の馬肉、密やかに迫る影
しおりを挟む熊本の城下町、春の陽光が石垣を照らす朝。佐藤宗次こと佐久間宗太郎は、弟子の太郎を連れ、熊本の市場に降り立った。
享保年間の九州、博多を拠点に長崎や佐賀で評を広めた宗太郎は、偽名「佐藤宗次」を名乗り、江戸での暗殺未遂を逃れていた。佐賀の潮干で海苔イカの味噌和えや海苔巻き鯖焼きを評し、九州の食文化を高めたが、松葉屋の藤兵衛と博多の権力者・黒崎藤十郎の陰謀が、刺客・弥蔵のスパイ・宗助を通じて迫っていた。母・雪乃の煮込み、江戸の焼き鳥、博多の豚骨、長崎の南蛮料理、佐賀の海苔の記憶が宗太郎の舌を支え、太郎の初評が筆を後押ししていた。宗太郎と太郎は、九州全域での食探求を続け、熊本の馬肉文化に挑もうとしていた。
熊本の市場は、馬肉や山菜の香りが漂う。城下町の活気が、商人や武士の声と混じる。宗太郎は、腰に筆と紙を携え、馬肉の野趣ある匂いに鼻を動かした。太郎は、漁師の息子らしい好奇心で、市場の赤い馬肉を指差した。
「宗次さん、この肉、魚と全然違うぜ! なんか、力強え匂いだ!」
宗太郎は笑い、太郎の鼻を褒めた。市場の奥、屋台「火の国」に足を止めた。店主の鉄蔵は、50歳ほどの元馬飼いで、馬肉を使った料理で市場を盛り上げる。鉄蔵の目は、熊本の大地の誇りを宿していた。宗太郎は、カウンターに腰を下ろし、鉄蔵に声をかけた。
「鉄蔵殿、馬肉の焼き物を一品。それと、馬肉の煮込みを頼む。」
鉄蔵は頷き、炭火で馬肉を焼き、鍋で煮込みを始めた。宗太郎は、馬肉の香ばしい匂いに心を弾ませた。屋台は、商人や農民で賑わう。宗太郎は、熊本の力強い食に期待を膨らませた。だが、藤十郎のスパイ・宗助が、市場の客を装い、宗太郎と太郎の動きを監視していた。
馬肉の焼き物と煮込みが運ばれてきた。
馬肉の焼き物は、赤身が炭火で輝き、塩と山椒が香る。
馬肉の煮込みは、味噌ベースのスープに馬肉と山菜が浮かぶ。
宗太郎はまず焼き物を手に取り、香りを嗅いだ。馬肉の野趣ある旨味が、塩と山椒の刺激と混じる。彼は一口噛み、目を閉じた。
舌が喜んだ。
馬肉の濃厚な旨味が、塩と山椒で引き締まり、炭火の苦みが調和。宗太郎は、つぶやく。
「この馬肉の焼き物、熊本の大地の鼓動だ。山椒の刺激が、火の国の魂を焼く。」
鉄蔵は手を止め、宗太郎を見た。客たちの視線が集まる。宗太郎は次に煮込みを啜った。馬肉の深い味わいが、味噌の甘みと山菜の清涼感に溶ける。宗太郎は、鉄蔵の技に感服した。
「鉄蔵殿、この煮込みは、熊本の山の歌だ。馬肉と味噌が、火の国の誇りを煮込む。」
鉄蔵は微笑み、言った。
「佐藤さん、うちの馬肉をそう評してくれるなら、試作の一品、食べてみねえ?」
宗太郎は目を輝かせ、頷いた。鉄蔵は小さな皿を取り出し、馬肉を醤油と唐辛子で焼き、刻み葱を散らした「馬肉の辛子焼き」を出した。さらに、馬肉と山芋を味噌で煮込んだ「馬肉の山芋煮」を用意。宗太郎は二品を手に取り、じっと見つめた。
馬肉の辛子焼きは、馬肉の赤身に唐辛子の赤が映え、葱が彩りを添える。
馬肉の山芋煮は、馬肉の旨味が山芋の粘りと味噌に溶ける。
宗太郎はまず辛子焼きを口に運んだ。
舌が驚いた。
馬肉の濃厚な旨味が、唐辛子の辛味と醤油の甘みに調和。葱が清涼感を添える。宗太郎は目を閉じ、味を解いた。
「鉄蔵殿、この辛子焼き、火の国の炎だ。馬肉と唐辛子が、熊本の魂を焼く。」
客たちがどよめき、鉄蔵は目を輝かせた。宗太郎は次に山芋煮を味わった。馬肉のコクが、山芋の滑らかさと味噌の甘みに溶ける。宗太郎は「山の馬煮」と呼び、こう評した。
「馬肉は、熊本の大地の力。山芋と味噌は、山の温もり。この一品、火の国の誇りを煮込む。」
宗太郎は筆を取り、評を書き始めた。
熊本火の国の料理、火の国の魂を焼き煮る一品。馬肉の焼き物は大地の鼓動を、煮込みは山の歌を宿す。馬肉の辛子焼きは炎の魂を焼き、山芋煮は山の誇りを煮込む。この味、熊本の魂なり。
太郎は、宗太郎の横で筆を握り、初評に挑戦。
火の国の馬肉、めっちゃうまかった! 焼き物は山椒がピリッと、力強いぜ。煮込みは味噌が温けえ、漁師の俺でも心に響く。辛子焼きは火みたいだ、山芋煮は山の力だぜ!
宗太郎は、太郎の評を読み、笑った。
「太郎、味の真を捉えてる。熊本の大地を、もっと磨けよ。」
太郎は頷き、目を輝かせた。彼の評は、宗太郎の指導で版元に届けられ、熊本の市場に広まった。火の国は客で溢れ、鉄蔵は感謝した。
だが、宗太郎と太郎の評は、黒崎藤十郎の耳に届いていた。藤十郎は、博多、長崎、佐賀の利権を握り、熊本の馬肉市場にも手を伸ばしていた。宗太郎の評が、市場の流れを変え、漁師や農民の誇りを高めることを恐れた。藤十郎は、藤兵衛と連絡を取り、弥蔵のスパイ・宗助に新たな指示を出した。
「佐藤宗次は、熊本でも評を広めてやがる。宗助、奴の宿と次の動きを徹底的に探れ。」
宗助は、市場の商人や農民に紛れ、宗太郎と太郎の行動を監視。火の国での会話を盗み聞き、宗太郎が次に鹿児島の魚料理を訪れる計画を知った。宗助は、夜の市場で藤十郎に報告。
「佐藤宗次、鹿児島に行く気だ。宿は城下町の旅籠だ。評は版元を通じて広まり、馬肉が売れてる。」
藤十郎は目を細め、弥蔵に新たなスパイを熊本に送るよう命じた。宗助は、宗太郎の宿近くでうろつき、太郎が気づいた。
「宗次さん、あの船乗り、まただ! 市場でコソコソしてるぜ。」
宗太郎は頷き、冷静に答えた。
「太郎、宗助は藤十郎の手先だ。泳がせて、奴らの計画を暴く。熊本の馬肉を守るため、筆を磨こう。」
その夜、宗太郎と太郎は、火の国を再訪。鉄蔵の新作「馬肉の唐辛子麺」を試食した。馬肉の出汁に唐辛子を効かせ、細麺を泳がせた一品は、熊本の大地の力と炎を閉じ込めていた。宗太郎は「火の馬麺」と呼び、こう評した。
「馬肉は、火の国の力。唐辛子の炎が、麺に魂を吹き込む。この一品、熊本の春を煮る。」
太郎も初評を書き加えた。
馬肉の麺、めっちゃうまかった! 馬肉は山の力、唐辛子は火だ。細麺がスープと絡んで、漁師の俺でも胸に響くぜ!
宗太郎は、太郎の成長に目を細めた。だが、屋台の外で、宗助の視線が光る。鉄蔵は、市場の噂を宗太郎に伝えた。
「佐藤さん、怪しい船乗りが市場をうろついてる。藤十郎の手の者だ。気をつけな。」
宗太郎は頷き、鉄蔵の忠告に感謝。九州全域での食探求を続け、鹿児島の魚料理へ向かう決意を固めた。
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