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第34話:広島の再会、家族の絆と旅の休息
しおりを挟む佐藤宗次こと佐久間宗太郎は、妻・鮎子と共に岡山を後にし、四国への旅を前に再び広島へと戻ってきた。享保年間の旅で博多を拠点に評を広め、江戸での暗殺未遂を偽名で逃れた宗太郎は、山口で弟子・太郎を失い、広島で17歳の鮎子と結婚した。島根の出雲そば、鳥取の松葉ガニ、岡山の吉備団子を味わい、旅を続けてきた。鳥取での新聞取材で過去が明らかになり、市民の注目を集める中、宗太郎と鮎子は新たな目的地、四国を目指していた。黒崎藤十郎の陰謀は遠ざかり、沙羅の安堵も伝わったが、旅の先にはまだ未知の道が広がっている。岡山で子供の夢を語った二人は、広島での休息を求め、鮎子の故郷に戻った。
広島の港町は、瀬戸内海の潮風が優しく吹き、市場の喧騒が懐かしさを呼び起こす。宗太郎と鮎子は手をつなぎ、鮎子の実家である「瀬戸」へ向かった。広島での結婚以来、辰五郎とは手紙で交流していたが、直接会うのは久しぶりだった。鮎子は少し緊張した表情で宗太郎に囁いた。
「宗次さん、父さんに会うの、ちょっとドキドキする。広島に戻るなんて、思わなかったよ。そなたと一緒なら安心だけど…。」
宗太郎は鮎子の手を優しく握り、微笑んだ。
「 鮎子、そなたの故郷に戻るのは俺にとっても嬉しい。辰五郎殿に再会し、四国の旅を相談しよう。そなたがそばにいるなら、どんな話もスムーズに進むさ。」
二人は「瀬戸」の前に立ち、暖簾をくぐった。店内は木の温もりが漂い、懐かしい空気が二人を迎えた。辰五郎がカウンターから顔を上げ、驚きと喜びの表情を浮かべた。
「鮎子! 宗次殿! こんなに早く戻ってくるとは…! よく来た、よく来たよ!」
鮎子は父に駆け寄り、抱きついた。
「父さん! 宗次さんと一緒に四国へ行く前に、広島に寄ってみたの。会いたかったよ。」
辰五郎は娘の頭を撫で、宗太郎に目を向けた。
「宗次殿、広島に戻るなんて珍しいな。旅はどうだ? 鮎子は元気か?」
宗太郎は深く頭を下げ、感謝を述べた。
「辰五郎殿、礼を言う。旅は順調だ。鮎子は俺の支えで、元気に頑張ってくれている。今回は四国へ渡るため、相談があって戻った。今治へ渡りたいと思っているが、船を用意していただけないか?」
辰五郎は一瞬考え込み、頷いた。
「今治か…四国への渡しは危険も伴うが、俺の知り合いの漁師が船を持っている。タイミングが合えば、頼んでやる。だが、急に決めるのは難しい。少し待ってくれ。」
宗太郎は了解し、辰五郎に感謝した。
「辰五郎殿、助かる。タイミングが合わなければ、少し広島に滞在するつもりだ。そなたの家に泊めてもらうことは可能か?」
辰五郎は笑顔で応じた。
「もちろん! 鮎子が戻ってきたんだ、当たり前だ。店を閉めて、家族で過ごそう。旅の疲れを癒してくれ。」
鮎子は嬉しそうに手を叩き、宗太郎に目を向けた。
「宗次さん、父さんの家に泊まれるなんて! 子供の頃の思い出が蘇るよ。一緒に過ごせるなんて、幸せだね。」
宗太郎は鮎子の笑顔に心を温め、頷いた。
「 鮎子、そなたの故郷で過ごすのも旅の一部だ。辰五郎殿と再会し、家族の時間を楽しもう。」
夕方、辰五郎は店を閉め、家族三人で家に戻った。家は木造で、広島の海が見える小さな庭が付いている。鮎子は懐かしそうに部屋を歩き回り、宗太郎に語りかけた。
「宗次さん、ここが私の部屋だったんだ。子供の頃、父さんと一緒に牡蠣を焼いたりしてた。懐かしい…。」
宗太郎は部屋を見回し、鮎子の幼い頃を想像した。
「 鮎子、そなたの育った場所は温かいな。俺も子供の頃を思い出すよ。そなたの思い出が、俺に新しい家族の形を見せてくれる。」
辰五郎は台所で茶を用意しながら、二人に声をかけた。
「鮎子、宗次殿、旅の話でも聞かせてくれ。広島を離れてからのことは、全部知りたいよ。」
三人は座卓を囲み、茶を手に持った。宗太郎は旅の思い出を語り始めた。
「辰五郎殿、広島を後にして島根の出雲そば、鳥取の松葉ガニ、岡山の吉備団子を味わってきた。鮎子と共に見た味が、俺の心を支えてきた。新聞で過去が広まったが、鮎子のおかげで前を向けた。」
鮎子は宗太郎の言葉に頬を赤らめ、付け加えた。
「父さん、宗次さんと一緒に旅して、いろんな味を知ったよ。怖いこともあったけど、そなたがそばにいてくれたから頑張れた。鳥取で子供の話もして…。」
辰五郎は驚いた顔で娘を見た。
「子供? 鮎子、まだ17歳だぞ。旅の途中でそんな大事なことを…。宗次殿、そなたはどう思う?」
宗太郎は真剣な目で答えた。
「辰五郎殿、確かに旅は危険を伴う。鮎子が17歳で若く、不安もある。だが、俺はそなたの娘を幸せにし、子を守る覚悟はある。鮎子が賛成なら、ゆっくり準備したい。」
鮎子は父の心配を理解し、優しく手を握った。
「父さん、怖いけど…宗次さんの子供なら産みたいって思ってる。そなたが反対でも、私、そなたと一緒なら頑張れるよ。」
辰五郎は一呼吸置き、深いため息をついた。
「鮎子…そなたの決意なら、俺は止めん。宗次殿がそなたを守ると言うなら、信じるよ。ただ、旅の安全を第一に考えてくれ。」
宗太郎は辰五郎に頭を下げ、約束した。
「辰五郎殿、ありがとう。俺は鮎子と子を守る。船の準備が整うまで、広島で休息し、家族の時間を大切にする。」
三人は茶を飲みながら、旅の未来や家族の話を続けた。辰五郎は昔の漁師時代の話をし、鮎子は子供の頃の思い出を語った。宗太郎は二人の会話を聞き、初めて感じる家族の温かさに心を動かされた。
夜が更ける中、辰五郎は布団を用意し、宗太郎と鮎子に休息を勧めた。
「宗次殿、鮎子、今日はゆっくり休め。船のことは明日、漁師に連絡を取る。家族で過ごせる夜は貴重だ。」
鮎子は父に感謝し、宗太郎と一緒に布団に入った。宗太郎は鮎子の隣で、彼女の寝息を聞きながら呟いた。
「鮎子、そなたの家は俺にとっても安らぎだ。今治へ渡る前に、家族の時間を味わいたい。」
鮎子は眠そうに微笑み、宗太郎の手を握った。
「宗次さん…父さんと一緒にいられて嬉しい。子供のことも、そなたと相談しながら考えようね。」
二人は布団の中で寄り添い、広島の夜の静けさに包まれた。窓から見える海の月明かりが、家族の絆を優しく照らし、旅の休息が二人の心を癒した。船の準備が整うまで、宗太郎と鮎子は辰五郎と共に広島での時間を大切に過ごす決意を固めた。
翌朝、辰五郎は早起きし、漁師に船の連絡を始めた。宗太郎と鮎子は庭で海を眺め、穏やかな一日を過ごした。新聞の影響や藤十郎の動向は遠くに感じられ、広島の海が二人の未来を見守る中、旅の新たな一歩が静かに準備された。
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