【完結】満月に導かれし龍の淫紋 〜運命の番は闇落ち王子〜

亜沙美多郎

文字の大きさ
6 / 104
本編

綜馬との時間

しおりを挟む
 オメガの淫紋が発動した時は厄介らしい。なんせ、発情と欲情が同時に溢れ出すものだから、番のいないオメガは随分と苦しむこととなる。

 しかも、どちらかが起こることで結局は両方の力が発動してしまう。

 モリスも今頃苦しんでいることだろう。

「やっぱり、モリスの様子を見てこようかな」

「ルア? 本気で言ってる? 相手は発情期中なんだよ?」

「分かってる。だから、オメガである俺ならって……」

「そんなのダメだ!! ルアは分かってない。この世界の発情はただの発情じゃないんだぞ? 第二次性の発情だけなら襲われる心配はないけど、淫紋の欲情は全くの別物だ。そんなんで襲われでもすれば……」

 キツく抱きしめた綜馬の腕が僅かに震えているように感じた。

「綜馬……」

 綜馬は月亜が思っているよりも、ずっと月亜を気にしてくれていたのだ。

 そして、自分の軽率な行動を恥じた。

 もしかすると、月亜がモリスの部屋に行くと言えば、綜馬が代わりに行くと言うんじゃないか……なんて思っていたのだ。

 綜馬とモリスが番になれば、月亜のここでの存在意義は無くなってしまう。月亜はそれで構わないと自分にいい聞かせているが、綜馬からの好意が想像以上だとわかると欲が出てしまう。

「今日はずっと離れないからな」

 口を尖らせた綜馬がなんだか可愛らしくて、頷きながら笑ってしまった。

 その後は本当に離れずに過ごした。常に体のどこかが触れている。

 モリスの存在は確かに頭の片隅にはある。それでももう少し、もう少しだけ二人の時間を楽しみたいと欲張った。

「ルア、外を散歩しない?」

「え? 出てもいいの?」

「昨日、ハワード国王に確認したんだ。そしたら敷地内であれば自由に過ごしてもらって良いって」

「行きたい!」

 この広い部屋とバルコニーでも、さすがに缶詰状態だと過ごし方もつまらなくなってしまう。

 この広い敷地なら散歩だけでもしばらくは退屈しないだろう。とりあえず今日は、部屋から見下ろせるガーデンへと向かうことにした。

 二人手を繋いで歩いていても誰も怪訝な表情すら見せない。それどころかすれ違った召使いに「ガーデンへ行く」と伝えると、「それでは後ほどお茶をお届けします」なんて気を使ってくれる。

 本当にここは良いところだ。

 元いた世界よりもずっと生きやすい。

 月亜はすっかりこの世界が気に入った。窮屈な思いをしなくてもいい環境に恵まれる日が来るなんて、想像もしていなかった。

 しばらくガーデンの散歩を楽しんでいると、先ほどの召使いからガゼボにお茶の用意が整ったと声をかけられた。

 外で飲むお茶は一際美味しく感じる。

 ラズベリーのような甘酸っぱさとハーブの爽やかな香りが鼻を通り抜けた。

「こんな時間がずっと続くと、どんなに幸せだろうな」

 綜馬がクッキーに手を伸ばしながら言う。

「そうだね。俺、人生で今が一番幸せだよ」

「本当に? それって、俺がいるから?」

「え? そ……うん、それもあるかも」

 この世界に酔っているのか、今の素直な気持ちを隠すことなく伝えられた。綜馬もその返事に対して素直に喜んでくれる。それがより嬉しくて、もっと寄り添いたくなってしまう。

「これで、ルアと番になれたらもっと幸せだろうな」

「番……」

 またモリスの存在を思い出した。自分が番になれば……。堂々巡りの感情が脳内を渦巻く。

「そんな深刻な顔しないでよ。今すぐ発情しろなんて言わない。ただ……この淫紋が完成される時までには……。なんて! 都合良すぎるよな! ごめんごめん」

「綜馬……」

 綜馬もまた、淫紋の発動を恐れているのだ。まだタトゥーが未完成だからといって、淫紋の証である子宮のタトゥーは既にハッキリと描かれている。

 タトゥーが完成した時、きっと淫紋が精気を吸収し始めるのだろう。

 さらに、もしも本当に綜馬のタトゥーが龍ならば、運命の番としか交われないのだ。

 今の綜馬の不安を考えると、とても同情じゃ済まされない。綜間は覚悟を決めて自分と番いたいと言ってくれている。

 自分も、綜馬の優しさに甘えるだけではいけない。

 もう自分は発情期が来ないかもしれないと諦めていたが、この人のために発情したいと思い始めた。

 モリスには悪いことをしてしまったと、心から申し訳なく思っている。

 でも異世界に来て、ここでなら自分の幸せを願っても良いんじゃないかと、愚かにも思ってしまったのだ。

 触れる指先の温度を独り占めしたい。

 この笑顔を自分にだけ向けて欲しいと。

 これまでは、気になる人ができても勘違いだと言い聞かせ、諦めてきた。

 発情しない自分を、誰が相手にするものかと、恋愛しないよう努めてきた。

 でも綜馬は今までの人とは違う。

 月亜の発情期が来るまで待つと言ってくれている。その気持ちを信じたい。


 部屋に戻ると、無理を言って一人部屋から出て行った。一番に会った召使いに、ここに図書室のようなところはあるかと尋ねると、快く案内してくれた。

 そこは膨大な量の本が陳列されていて、これだけの本があるならどこかに発情期に関する文献もあるのではないかと、片っ端から調べることにした。


 結局、夕食までの時間をここで過ごし、さらに何冊かの本を部屋に持ち帰ることにした。

 思っていたよりも時間が経っていたと気づいたのは、窓から見える空が薄らと夕焼けに染まり始めていから。

 綜馬が心配しているかもしれない。

 早歩きで部屋へと向かう。


「あっ……ソウマ、もっと頂戴……はぁ、ん……」

 その甘い声は紛れもなく自分と綜馬の部屋から聞こえてきた。

(え……どういう……)

 部屋の扉は僅かに開いていて、中の様子が伺えた。

「……モリス!! と……綜馬?」

 覗いた部屋のベッドで絡み合う二人から、目が離せなかった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

処理中です...