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本編
綜馬との時間
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オメガの淫紋が発動した時は厄介らしい。なんせ、発情と欲情が同時に溢れ出すものだから、番のいないオメガは随分と苦しむこととなる。
しかも、どちらかが起こることで結局は両方の力が発動してしまう。
モリスも今頃苦しんでいることだろう。
「やっぱり、モリスの様子を見てこようかな」
「ルア? 本気で言ってる? 相手は発情期中なんだよ?」
「分かってる。だから、オメガである俺ならって……」
「そんなのダメだ!! ルアは分かってない。この世界の発情はただの発情じゃないんだぞ? 第二次性の発情だけなら襲われる心配はないけど、淫紋の欲情は全くの別物だ。そんなんで襲われでもすれば……」
キツく抱きしめた綜馬の腕が僅かに震えているように感じた。
「綜馬……」
綜馬は月亜が思っているよりも、ずっと月亜を気にしてくれていたのだ。
そして、自分の軽率な行動を恥じた。
もしかすると、月亜がモリスの部屋に行くと言えば、綜馬が代わりに行くと言うんじゃないか……なんて思っていたのだ。
綜馬とモリスが番になれば、月亜のここでの存在意義は無くなってしまう。月亜はそれで構わないと自分にいい聞かせているが、綜馬からの好意が想像以上だとわかると欲が出てしまう。
「今日はずっと離れないからな」
口を尖らせた綜馬がなんだか可愛らしくて、頷きながら笑ってしまった。
その後は本当に離れずに過ごした。常に体のどこかが触れている。
モリスの存在は確かに頭の片隅にはある。それでももう少し、もう少しだけ二人の時間を楽しみたいと欲張った。
「ルア、外を散歩しない?」
「え? 出てもいいの?」
「昨日、ハワード国王に確認したんだ。そしたら敷地内であれば自由に過ごしてもらって良いって」
「行きたい!」
この広い部屋とバルコニーでも、さすがに缶詰状態だと過ごし方もつまらなくなってしまう。
この広い敷地なら散歩だけでもしばらくは退屈しないだろう。とりあえず今日は、部屋から見下ろせるガーデンへと向かうことにした。
二人手を繋いで歩いていても誰も怪訝な表情すら見せない。それどころかすれ違った召使いに「ガーデンへ行く」と伝えると、「それでは後ほどお茶をお届けします」なんて気を使ってくれる。
本当にここは良いところだ。
元いた世界よりもずっと生きやすい。
月亜はすっかりこの世界が気に入った。窮屈な思いをしなくてもいい環境に恵まれる日が来るなんて、想像もしていなかった。
しばらくガーデンの散歩を楽しんでいると、先ほどの召使いからガゼボにお茶の用意が整ったと声をかけられた。
外で飲むお茶は一際美味しく感じる。
ラズベリーのような甘酸っぱさとハーブの爽やかな香りが鼻を通り抜けた。
「こんな時間がずっと続くと、どんなに幸せだろうな」
綜馬がクッキーに手を伸ばしながら言う。
「そうだね。俺、人生で今が一番幸せだよ」
「本当に? それって、俺がいるから?」
「え? そ……うん、それもあるかも」
この世界に酔っているのか、今の素直な気持ちを隠すことなく伝えられた。綜馬もその返事に対して素直に喜んでくれる。それがより嬉しくて、もっと寄り添いたくなってしまう。
「これで、ルアと番になれたらもっと幸せだろうな」
「番……」
またモリスの存在を思い出した。自分が番になれば……。堂々巡りの感情が脳内を渦巻く。
「そんな深刻な顔しないでよ。今すぐ発情しろなんて言わない。ただ……この淫紋が完成される時までには……。なんて! 都合良すぎるよな! ごめんごめん」
「綜馬……」
綜馬もまた、淫紋の発動を恐れているのだ。まだタトゥーが未完成だからといって、淫紋の証である子宮のタトゥーは既にハッキリと描かれている。
タトゥーが完成した時、きっと淫紋が精気を吸収し始めるのだろう。
さらに、もしも本当に綜馬のタトゥーが龍ならば、運命の番としか交われないのだ。
今の綜馬の不安を考えると、とても同情じゃ済まされない。綜間は覚悟を決めて自分と番いたいと言ってくれている。
自分も、綜馬の優しさに甘えるだけではいけない。
もう自分は発情期が来ないかもしれないと諦めていたが、この人のために発情したいと思い始めた。
モリスには悪いことをしてしまったと、心から申し訳なく思っている。
でも異世界に来て、ここでなら自分の幸せを願っても良いんじゃないかと、愚かにも思ってしまったのだ。
触れる指先の温度を独り占めしたい。
この笑顔を自分にだけ向けて欲しいと。
これまでは、気になる人ができても勘違いだと言い聞かせ、諦めてきた。
発情しない自分を、誰が相手にするものかと、恋愛しないよう努めてきた。
でも綜馬は今までの人とは違う。
月亜の発情期が来るまで待つと言ってくれている。その気持ちを信じたい。
部屋に戻ると、無理を言って一人部屋から出て行った。一番に会った召使いに、ここに図書室のようなところはあるかと尋ねると、快く案内してくれた。
そこは膨大な量の本が陳列されていて、これだけの本があるならどこかに発情期に関する文献もあるのではないかと、片っ端から調べることにした。
結局、夕食までの時間をここで過ごし、さらに何冊かの本を部屋に持ち帰ることにした。
思っていたよりも時間が経っていたと気づいたのは、窓から見える空が薄らと夕焼けに染まり始めていから。
綜馬が心配しているかもしれない。
早歩きで部屋へと向かう。
「あっ……ソウマ、もっと頂戴……はぁ、ん……」
その甘い声は紛れもなく自分と綜馬の部屋から聞こえてきた。
(え……どういう……)
部屋の扉は僅かに開いていて、中の様子が伺えた。
「……モリス!! と……綜馬?」
覗いた部屋のベッドで絡み合う二人から、目が離せなかった。
しかも、どちらかが起こることで結局は両方の力が発動してしまう。
モリスも今頃苦しんでいることだろう。
「やっぱり、モリスの様子を見てこようかな」
「ルア? 本気で言ってる? 相手は発情期中なんだよ?」
「分かってる。だから、オメガである俺ならって……」
「そんなのダメだ!! ルアは分かってない。この世界の発情はただの発情じゃないんだぞ? 第二次性の発情だけなら襲われる心配はないけど、淫紋の欲情は全くの別物だ。そんなんで襲われでもすれば……」
キツく抱きしめた綜馬の腕が僅かに震えているように感じた。
「綜馬……」
綜馬は月亜が思っているよりも、ずっと月亜を気にしてくれていたのだ。
そして、自分の軽率な行動を恥じた。
もしかすると、月亜がモリスの部屋に行くと言えば、綜馬が代わりに行くと言うんじゃないか……なんて思っていたのだ。
綜馬とモリスが番になれば、月亜のここでの存在意義は無くなってしまう。月亜はそれで構わないと自分にいい聞かせているが、綜馬からの好意が想像以上だとわかると欲が出てしまう。
「今日はずっと離れないからな」
口を尖らせた綜馬がなんだか可愛らしくて、頷きながら笑ってしまった。
その後は本当に離れずに過ごした。常に体のどこかが触れている。
モリスの存在は確かに頭の片隅にはある。それでももう少し、もう少しだけ二人の時間を楽しみたいと欲張った。
「ルア、外を散歩しない?」
「え? 出てもいいの?」
「昨日、ハワード国王に確認したんだ。そしたら敷地内であれば自由に過ごしてもらって良いって」
「行きたい!」
この広い部屋とバルコニーでも、さすがに缶詰状態だと過ごし方もつまらなくなってしまう。
この広い敷地なら散歩だけでもしばらくは退屈しないだろう。とりあえず今日は、部屋から見下ろせるガーデンへと向かうことにした。
二人手を繋いで歩いていても誰も怪訝な表情すら見せない。それどころかすれ違った召使いに「ガーデンへ行く」と伝えると、「それでは後ほどお茶をお届けします」なんて気を使ってくれる。
本当にここは良いところだ。
元いた世界よりもずっと生きやすい。
月亜はすっかりこの世界が気に入った。窮屈な思いをしなくてもいい環境に恵まれる日が来るなんて、想像もしていなかった。
しばらくガーデンの散歩を楽しんでいると、先ほどの召使いからガゼボにお茶の用意が整ったと声をかけられた。
外で飲むお茶は一際美味しく感じる。
ラズベリーのような甘酸っぱさとハーブの爽やかな香りが鼻を通り抜けた。
「こんな時間がずっと続くと、どんなに幸せだろうな」
綜馬がクッキーに手を伸ばしながら言う。
「そうだね。俺、人生で今が一番幸せだよ」
「本当に? それって、俺がいるから?」
「え? そ……うん、それもあるかも」
この世界に酔っているのか、今の素直な気持ちを隠すことなく伝えられた。綜馬もその返事に対して素直に喜んでくれる。それがより嬉しくて、もっと寄り添いたくなってしまう。
「これで、ルアと番になれたらもっと幸せだろうな」
「番……」
またモリスの存在を思い出した。自分が番になれば……。堂々巡りの感情が脳内を渦巻く。
「そんな深刻な顔しないでよ。今すぐ発情しろなんて言わない。ただ……この淫紋が完成される時までには……。なんて! 都合良すぎるよな! ごめんごめん」
「綜馬……」
綜馬もまた、淫紋の発動を恐れているのだ。まだタトゥーが未完成だからといって、淫紋の証である子宮のタトゥーは既にハッキリと描かれている。
タトゥーが完成した時、きっと淫紋が精気を吸収し始めるのだろう。
さらに、もしも本当に綜馬のタトゥーが龍ならば、運命の番としか交われないのだ。
今の綜馬の不安を考えると、とても同情じゃ済まされない。綜間は覚悟を決めて自分と番いたいと言ってくれている。
自分も、綜馬の優しさに甘えるだけではいけない。
もう自分は発情期が来ないかもしれないと諦めていたが、この人のために発情したいと思い始めた。
モリスには悪いことをしてしまったと、心から申し訳なく思っている。
でも異世界に来て、ここでなら自分の幸せを願っても良いんじゃないかと、愚かにも思ってしまったのだ。
触れる指先の温度を独り占めしたい。
この笑顔を自分にだけ向けて欲しいと。
これまでは、気になる人ができても勘違いだと言い聞かせ、諦めてきた。
発情しない自分を、誰が相手にするものかと、恋愛しないよう努めてきた。
でも綜馬は今までの人とは違う。
月亜の発情期が来るまで待つと言ってくれている。その気持ちを信じたい。
部屋に戻ると、無理を言って一人部屋から出て行った。一番に会った召使いに、ここに図書室のようなところはあるかと尋ねると、快く案内してくれた。
そこは膨大な量の本が陳列されていて、これだけの本があるならどこかに発情期に関する文献もあるのではないかと、片っ端から調べることにした。
結局、夕食までの時間をここで過ごし、さらに何冊かの本を部屋に持ち帰ることにした。
思っていたよりも時間が経っていたと気づいたのは、窓から見える空が薄らと夕焼けに染まり始めていから。
綜馬が心配しているかもしれない。
早歩きで部屋へと向かう。
「あっ……ソウマ、もっと頂戴……はぁ、ん……」
その甘い声は紛れもなく自分と綜馬の部屋から聞こえてきた。
(え……どういう……)
部屋の扉は僅かに開いていて、中の様子が伺えた。
「……モリス!! と……綜馬?」
覗いた部屋のベッドで絡み合う二人から、目が離せなかった。
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