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本編

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 水神様の神殿がある滝までやって来た。

 前にきた時はここで諦めて帰ったんだ。でも……

(まさか今から、ここから飛び降りるんだろうか……)

 なんて考えた直後、麿衣まえ様は躊躇いもせず飛び降りた。

 もう、叫ぶ声も出なかった……。落ちている間、気絶していたように思う。

 狼神様って、こんなに豪快な生活を送っているのかと、驚くとともに感心してしまった。

 完全に立ちれなくなった僕を、麿衣様はそのまま抱えて神殿の中へと入って行く。

 神殿の中は驚くほど静かで驚いた。石畳の床は水面鏡のようなで、上か下か分からない不思議で神秘的な空間だった。
 もっとじっくりと見たい気持ちもあったけど、そんな心の余裕は微塵もない。

 ただ麿衣様に抱かれ、体も尻尾も項垂れたまま移動した。

「おーい! 如月、遅い遅い! もう始めるぞ!!」

 朱邑になんと言われようと、僕は今昏倒こんとうしてもおかしくない状況なんだぞ。

「先に……始めてて……」

 力無く返事をするのがやっとの状態に、なぜかみんなから笑われてしまった。

「如月……」

 月詠だけが哀れな視線を送ってくれた。

「先に亜玖瑠の勾玉を作ろうか」

 天袮あまね様が言うと、朔怜ざれい様が手から雷を絶妙な強さで落とし、形を整えていく。その隣から天袮様が水で破片を飛ばしていく。

 ただの黒い石がみるみる勾玉の形になっていった。

「すごい……」

 八乙女のみんなも食い入るように見ている。

 艶めく黒曜石の勾玉の形になるまであっという間だった。

「よし! 後はしっかり磨けば出来上がりだ」

 煬源ようげん様が言うと、蘭恋に勾玉を手渡す。

「頑張ります!!」

 蘭恋が丁重に受け取り、台の上に乗せた。

「この領布ひれを使うがいい」

 煬源様が自分の肩に掛けている領布を渡した。

 狼神様の物を巫子に貸したりするんだ! それだけ蘭恋が信頼されているということなのか。

 でも、他の狼神様も八乙女に自分の領布を渡している。

 勾玉を作るには、狼様の領布じゃないと磨いてはいけないのかもしれない。

 亜玖瑠様の勾玉を磨いている間に、輝惺様の石に取り掛かる。

「これは、立派な日長石だな!!」

 煬源様が感嘆の声を上げた。

「ああ、これは如月が見つけたものだ」

 咲怜様が説明してくれたのが嬉しかった。

 煬源様からも「よく頑張ったな」と、褒めてもらえた。

 地上界へ降りるのは怖かったけど、今も足が震えているけど、それでも頑張って良かったと、初めて思えた。

「さあ、輝惺の勾玉もあっという間に完成させるぞ!!」

 咲怜様が気合を入れ、絶妙に力加減をしながら石を雷で削って行った。

 黄金に輝く石が形を変えていく。

 それを見ているだけでも癒される。

 これを、輝惺様に使ってもらえるなんて……。考えただけでも感慨深い。

「さあ、如月。君もこれを磨くんだよ」

 麿衣様が僕を下ろして、椅子に座らせた。

「あの、僕……。一人で磨いてもいいですか!?」

「ああ、勿論。いいよ。如月が納得するまで磨いてもいいんだよ」

 天袮様も後押ししてくれた。

「じゃあ、俺たちはその間に輝惺と亜玖瑠を大神殿へ移動させるぞ!」

 力自慢の朔怜様と依咲那様、そして麿衣様と煬源様が二手に分かれて出て行った。

 
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