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本編

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 狼神様の祓詞が唱え終えると、八乙女に近寄る許可を出してくれた。

「あの、輝惺様と亜玖瑠様は?」

「もう大丈夫だよ」

 麿衣様が笑顔を見せてくれたことで、ようやく肩の力が抜けた。

「こっちにおいで。直に目を覚ますぞ」

 煬源様に促され、それぞれの狼神様の所へ行った。

 僕と月詠は輝惺様と亜玖瑠様に駆け寄る。

「輝惺様……」

「亜玖瑠様……」

 手を握ると、ピクリと指が動いた。

 アッと思い、顔を見ると、輝惺様がゆっくり目を開けた。

「……如月か……」

「輝惺様……輝惺様ぁぁ!!!」

 込み上げた感情をぶつけるように抱きしめた。

「ふふ……。よく、頑張ってくれたね」

 優しく髪を撫でてくれる。

 僕は輝惺様の胸に顔を擦り寄せ泣きじゃくった。

 今はなにも喋れない。

 ただただ嬉しくて、ホッとして、この気持ちをどんな言葉で表現すればいいのか分からない。

 輝惺様は横たわったまま勾玉を手に取り、光を確認するようにかざす。

「……綺麗だ」

 輝惺様の隣に朔怜様がしゃがむ。

「おう、お前んとこの八乙女が見つけ出したんだぜ」

「如月が……。地上界へ行ったのか?」

 コクコクと頷く。

「そうだよ。一人で探して、一人で磨き上げたんだ」

 朔怜様の隣に依咲那様が座って言った。

「……そうか……。如月、君は凄いね」

 輝惺様が抱きしめてくれた。

 言いたいことは沢山あるはずなのに、声が詰まって何一つ伝えられない。

 輝惺様を抱きしめ返すので精一杯だった。

「今年の八乙女は優秀だよ」

 天袮様も僕の髪を撫でてくれる。

 天袮様の言葉に、他の狼髪様も頷いてくれたのが嬉しかった。

 しかし隣の亜玖瑠様を見ると、まだ目を覚ましていない。

「亜玖瑠様……」

 月詠が手を握り締めて名前を呼ぶ。

 亜玖瑠様はピクリとも動かない。

 元々、輝惺様よりも症状が酷かったからかもしれない。

「あの、亜玖瑠様は目を覚ましますよね?」

 秦羽が尋ねる。

「ああ、心配いらないよ。魂が巡るのに時間がかかっているだけだ」

 依咲那様が答えた。

「月詠、名前を呼び続けてあげなさい」

 天袮様も声をかける。

「亜玖瑠様……。亜玖瑠様……。亜玖瑠様……」

 月詠は何度も何度も亜玖瑠様の名前を呼ぶ。

 泣きそうになっているのをどうにか抑え込み、涙を拭いながら亜玖瑠様を呼ぶ。

 そのうち、凪が月詠の背中に手を添え一緒に名前を呼び始めた。

 そして蘭恋、朱邑、秦羽、須凰も駆け寄る。

「如月も行っておいで」

 輝惺様に促され、僕もその輪に入り、八乙女みんなで亜玖瑠様を呼び続けた。

 遂に亜玖瑠様の口が僅かに動き、手がそっと勾玉に伸びた。

「亜玖瑠様!!」

 月詠が顔を覗き込む。

 目を薄らと開け、もう片方の手を月詠の頬に当てた。

「……見捨てても、よかったんだぞ……」

 掠れた声で話しかける。

 月詠は泣きながら首を横に振り、亜玖瑠様に面と向かって言った。

「亜玖瑠様のお世話をできるのは、ボクしかいません」

 それを聞いた亜玖瑠様はフッと笑うと、「そうかもな」と呟き、月詠を自分の胸に収めた。
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